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14章 天空に舞踊る勇者

「さて、いい加減姿を現せよ」


 失禁し悶絶する男達を見下ろしながら、俺は再度声を掛ける。

 しばしの間を置き、物も言わず物陰から姿を現したのは小振りな有翼の彫像。

 俗にいうガーゴイルに酷似してるが、迸る魔力の波動が段違いだ。


「昨晩から俺を監視してたな?

 目的はなんだ?」


 俺の問いに小首を傾げる彫像。

 武藤翁の家に滞在してた時から薄々気配を感じていたが、外出を機に急に露骨になりやがった。

 こいつを炙り出す為の外出ではないが、一因ではある。


「どこの術者だかは知らん。

 俺に所縁の者か?

 あるいは……」


 言葉を切り、今の争いでは使う必要すらなかった聖剣の柄を握り締める。


「……女王の手の者か?」

 ニヤリ、と。

 表情に乏しい筈の彫像が笑みを浮かべる。

 俺は捕獲しようと全力で間合いを詰めるが、奴が身を翻す方が早かった。

 翼をはためかせ空へ舞う。

 その体が徐々に透明になっていくのが見て取れた。

 簡単な空間迷彩能力も合わせ持つらしい。

 しかし甘いな。


「逃さん!」


 俺は光糸の威力を調整。

 中空に張り巡らすと即席の足場と為し彫像の後を追い跳躍。

 振り返った彫像が驚愕するのが分かった。


(捕えた!)


 絶妙のタイミングで彫像を捕えるべく伸ばされた手。

 だが急激な落下感を足に感じ、僅かばかり届かない。


(伏兵か……)


 足首に絡みつく蔦の鞭。

 ビルの壁面にこびり付き蠢く植物型の妖魔の姿を確認。

 認識すると同時、振るった光糸で蔦と妖魔を同時に切断。

 身体を回転させ蔦を振り払い、光糸を足元に展開。

 再度跳躍を行い屋上へ舞い戻る。


「おやまあ」


 屋上の上では妖魔達の狂宴が繰り広げられていた。

 倒れ伏す男達の影から現れ出でるのはシャドウストーカーという妖魔。

 人型の影というべき形状で、男達に覆い被さり生気を吸い取っている。

 正直非道な行為をするこいつらを助ける義理はない。

 が、悲鳴が徐々に小さくなっていくのを見捨てるのも忍びない。

 だがこの妖魔は半分平面世界に身を置く為、物理攻撃が利き辛く対処が面倒だ。

 そんな輩が6体。

 さらに地面の汚泥からは荒々しく突き出た刃が俺を今か今かと狙っている。


(辺境の荒れ地で旅人を狙うマッドブレードか)


 砂利を混じえ高速回転する刃も厄介だが、泥がある限り再生し続けるのが一番厄介だ。

 俺は聖剣の柄を握る手に力を籠める。

 しかし俺に気取られず、これだけの数の妖魔を瞬時に召喚・展開する術者の力量……やはり並みの者ではない。

 俺は女王の尻尾を捕えた事を確信した。

 となれば、まずは雑魚を薙ぎ払うのみ。

 懐から先程購入した物の一つを取り出し、シャドウらへ投げる。

 俺はすかさず目元をインバネスで覆い衝撃に備えた。

 瞬間炸裂する眩いばかりの閃光と轟音。

 先程「ミリタリーショップ」で購入してきた「スタングレネード」……その威力は上々だ。

 人にダメージを与えず、金属反応した閃光と轟音で麻痺させる事を主体としたこのアイテムは使い出がいい。

 特に光属性を持つ俺とは尚更だ。

 現に物理攻撃には高い耐性を持つシャドウ達だったが、所詮は闇属性。

 威力増加の魔術を込めたスタングレネードの力により、顕界干渉力をロスト。

 強制的に平面世界へ送還された。


(さて残るは……)


 思考するより早く、身を躱す。

 耳障りな音を立て俺の脇を通り過ぎる無数の泥刃。


(やはり隙をついてきたか……)


 切り裂かれた地面を見ながらマッドブレードの動向を伺う。

 どうやら基本は「待ち」専門らしい。


「再生力もあるし、面倒だな……。

 ヴァリレウス、すまないが<力>を借りるぞ」

(構わぬ)


 呼び掛けに念話で応じる剣皇姫。

 俺は返答を聞く(知る? 感じる?)と同時に聖剣の柄に魔力を伝達。

 宝珠より導かれた術式を刃と成し、

 マッドブレード目掛け不可視の斬撃を振るう。

 その瞬間、マッドブレードは霧散するかのごとく「消滅」した。


「ふぃ~。

 どうにかなったな」


 強敵ではなかったが、対応が面倒な奴等だった。

 聖剣の力を解放した緊張感から浮き出たのか、軽く汗を拭う。

 今のは俺の切り札の一つだ。

 聖剣の神銘解放には及ばないが、

 剣皇姫……神々の持つ事象改変の力を借りた斬撃。

 意味消失の理が具象化された不可視の刃は、あらゆる防御を無効とする。

 けどそれ故に制御が難しい。

 罷り間違って建物や無関係なもの、最悪大地などに当てた場合、

 導き出される被害は想定したくもない。

 ホント使い処に困るじゃじゃ馬である。

 俺は嘆息すると共に遥か遠くに飛び去った彫像の後を追うのを諦め、地面で虫の息となり死にそうな男達の為、恭介から聞いていた救急車とやらを呼んでやることにするのだった。


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