145章 威圧に怯える勇者
楓と拳を重ね合わせ、互いの無事を喜び合う。
ヘルエヌの世界改変に巻き込まれたメンバーの内、これで4人が揃った。
この調子ならきっと明日香も無事に違いない。
その事実に、俺と(これはこっそりとだろうが)ミーヌが安堵の溜息を洩らす。
御三家の三人は俺達の不始末に付き合ってもらって騒動に巻き込まれた。
自ら進んで協力してくれたとはいえ、消息が知れないのは寝覚めが悪い。
相応の危機は覚悟してたとはいえ、やはり命に別状がないのが一番だから。
シンクロする俺達の動作が滑稽なのか苦笑する恭介。
一連のやり取りを見ていたコノハ姫も相好を崩す。
かと思えば、いきなり表情をキリっと絞る。
そしてその小さな体に見合わぬ速さで距離を詰め、高々とジャンプ。
茫然とする俺達を尻目に、楓の頭をいずこからか出したハリセンではたく。
パコ~~~ン! と景気のいい音が部屋に響き渡る。
頭を抑えその場に蹲る楓。
そんな楓を冷たく見ながらコノハ姫は、
「これで気がすみましたか、楓?」
と窘める様に尋ねた。
どうやらコノハ姫はこの騒動を事前に承知してたらしい。
「は、はい!
此度は拙者の我儘をきいていただき感謝致します」
「まったくです。
王国の危機を救ってくださった恩人に対し、いくら腕前をみるとはいえ不意打ちとは。
頼りになる可愛いわたくしの護衛とはいえ、このような無礼な振る舞いをするのを黙認しなくてはいけないなんて、自分が情けなくなりますわ」
「う、うう……面目ありませぬ」
「分かったらこれからはもう少し控える事。
いいですわね?」
「は、はいいいいいい!!」
涙を浮かべコノハ姫に這いつくばる楓。
適度なアメとムチ。
うむ。上手くコントロールしとる。
「結構。
それでは改めまして」
コノハ姫が豪華絢爛たる衣装を崩しながら感謝の言葉を述べ始める。
「御礼が遅れて申し訳ございません。
昼間は本当にありがとうございました。
神名担の勇者にして霊峰ザオウの解放者、アルティア・ノルン様。
わたくしの名はコノハ・イシュタル・ゼンダイン。
この王国の統治者の一員になります。
本来でしたら父が礼を述べるのが筋でしょうが、生憎病床に伏せております。
わたくしが名代として感謝を告げさせていただきますが……
よろしいでしょうか?」
つらつらと言葉が流れ引き込まれる。
何と云うか不思議な魅力を持つ声色だ。
無条件に人を従わせるというか、サクヤの力にも似たような引力がある。
俺は首をカクカクしながら応じた。
「まあ。ありがとうございます。
アル様達のお蔭様で、王国軍による防衛が辛うじて間に合いましたわ。
無論あの銃器の前に軍に多大な犠牲が出てはしまいましたけど。
でも、彼らが望んだのは民の安全。
避難者に被害がなかったのは何よりですし。
これもひとえに貴方達の縦横無尽の活躍によるもの。
この国を代表する者として深く深く感謝致しますわ」
手ずから俺の手を握り、目を見詰められる。
な、何だ!?
何だかすっげードキドキする。
蠱惑に満ちた眼差し。
切なげに零れる溜息。
ヤバイ。
お、俺はロリコンじゃない筈なのに……!
いや、それ以前に俺にはミーヌがいるのに!!
心なしか背後から漂う空気が冷たい。
う、浮気じゃないですよ?
いえいえホントにホント。
ほら、どこから見ても姫に忠誠を尽くす騎士って感じでしょ?
これは違う。
受動的。
能動的じゃない。
OK?
……あれ?
その魔力波動は戦略級ですよね?
本来対人に使ってはいけない術式ですよね?
嘘だと言ってよ、ミーヌ!!?
背後から溢れるミーヌの威圧感に怯え、一人勝手に悶々とする俺。
そんな俺に対し、
「あーあ。
こんなあからさまな手法にデレデレしちゃって。
もう……
おにーちゃんってば、ほ~んとダラシナイんだから。
ミーヌおねーちゃんが見てるのに……いけないんだ。
彼氏はきちんと彼女を守ってあげないと駄目だぞ♪」
といきなりコノハ姫がサクヤの声色でフランクに話し始めた。
「えっ?
……ふわっつ!?」
驚愕する俺。
だって、目の前にいるのは間違いなくコノハ姫なのに……
な、何でサクヤが!?
「あはは、ネタバレするとね。
この<託宣の間>にいる間だけは、この子の身体を間借り出来るの。
今しがた面白そうだから代わってもらったの。
あ、もちろんコノハの承諾は得たよ?」
「なるほど、そんな理由が……
って、ええ!?
じゃ、じゃあ……間違いなく?」
「うん!
おまたせしちゃってごめんね~(><)
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完全じゃないけど限定的にカムナガラに干渉できるようになったし♪
八百万の神々が一柱にてこのカムナガラの守護主神サクヤ、
ついに復活だよ~~~!!」
事態の成り行きに驚愕する俺とミーヌ。
横目に恭介が、
「黙ってろ、と言われてたので……すみません」
と片手を上げて謝罪するのを捉える。
一方サクヤといえば、先程までの楚々たる振る舞いはどこへ行ったのか?
顔の前で横にピースサインを決め可愛い舌先を覗かせポーズを取っていた。
この仕草は明日香に通ずるものがある。
やはり血脈なのだろうか?
俺は若干痛み出してきた頭を押さえる。
ああ、あれだ。
頭痛が痛い。
ま、何はともあれ。
現状のカムナガラについて、
最も把握し得るであろう人物とのコンタクトに、ついに辿り着いたのだった。
……のだが、実に感動も盛り上がりもへったくれもない再会であった。
まあ、だから楓が護衛してたのかーとか色々納得できる部分はあったのだが。