144章 好意に照れる勇者
恭介に案内され王城の内部へ足を踏み入れる。
華美な調度品などはなく、質実剛健というか実用的なデザインの内装が目立つ。
この規模の城にしては空間が広く取られてるのが特徴か。
おそらく有事の際には王国民の避難場所として機能するからだろう。
現に今日の襲撃時はここや王城地下に民は避難誘導されていた筈だ。
広大で薄暗い内部を駆逐するように篝火が焚かれ、術師による照明呪文も煌々と灯っている。
昼間に妖魔達による襲撃の遭った王国の最重要内部である。
宴に参加してない兵達による警備体制は厳戒だった。
物々しい武装に身を包んだ兵達。
だが警備につく兵達は恭介と俺達を見掛ける度に最敬礼をする。
更に本来は会話は厳禁だろうに、時折堪えきれない様に、
「アナタ方のお蔭で命を救われました」
とか
「今日も家族と共に過ごせます。
御恩は忘れません」
などと感謝の言葉掛けてくる。
名誉や名声はいらないが、本音の気持ちは嬉しいものだ。
ミーヌと目線を交わすたびに口元に微笑みが浮かぶ。
王国の為に戦ったことは決して無駄ではなかった。
無辜の民や戦場に命を懸ける兵達の燈火を救えたのだから。
鬱屈してた自分がホントに馬鹿みたいだ。
命に優先順位はなく、
すべからく大切なものなのだから。
まあ煮ても焼いても喰えない輩や外道まで救う義理はないというのが持論だが。
そんな事を考えてる間にも、恭介は足を進める。
逸れない様懸命に後を追う俺達。
転移方陣すら併用した複雑な回廊の先、祭壇と法陣が神域にも似た雰囲気を醸し出す部屋があった。
そこにいるのは僅かな護衛の兵と共にこちらを見やる幼き姫君。
日本人形の様にキチリと切り揃えられた艶やかな黒髪。
名匠が端正に造形したような美しき容貌。
絹にも似た織物を重ね着した楚々たる佇まい。
遠目に確認してただけだが間違いない。
このゼンダインの王女であるコノハ姫に相違なかった。
彼女は俺達の姿を確認すると、まずは深々と一礼した。
慌てて応じる俺。
恭介とミーヌが即応してたのが悔しい。
頭を下げ、宮廷礼法に習い数を2つ数え頭を上げようとした際、
尋常ではない殺気をローブで顔を隠した護衛の兵より感じ取る。
俺は即座にアゾートを発動。
瞬間移動にも似た戦闘歩法を活用し、全力で間合いを詰める。
コノハ姫を背後に庇いながら抜き放った聖剣を構えた瞬間、
疾風のごとき速さで斬り込んできた兵が両手に凶刃を閃かせる。
上下左右隙あらば襲い来る苦無の刃。
卓越した技量が窺えるだけでなく、次の一手が戦闘終了へ向けた連携になってるのが怖ろしい。
戦闘終了……すなわち絶命。
以前の俺ならこの連携に防戦一方でついていくのがやっとだっただろう。
しかしここ最近の急激な力量上昇により全身の身体能力と技量はかなり上昇してる。
ましてはトータル能力を底上げするアゾートの発動中である。
俺は襲撃者の攻勢を全て捌き切ると、反対に聖剣を閃かせ双刃を叩き切った。
叩き落したのではなく刃を斬り飛ばした事に驚愕する襲撃者。
感銘したように膝をつくと、両手を地面に置き害意がないことを示す。
その行為に対して俺は苦笑しながら声を掛けた。
「挨拶にしては……随分過激じゃないか?」
「いえいえ。
拙者は友人の技量を信じておりますゆえ」
「お前は俺を買いかぶり過ぎだよ」
「現に拙者の本気の攻勢を捌き切ったではござらんか。
これがアルティア殿の真の技量……感服致しました」
「そのバトルジャンキーなとこ……
ここでも結局変わらないんだな」
「ハハ……これが拙者の自己証明でありますから」
「まったく……程々にしとけよ」
「こんな真似をするのはアルティア殿しかおりませぬ」
「ならいいが。
まあ……久しぶりだな、楓」
「アルティア殿も壮健そうで何よりです」
声掛けにローブをはだけ顔を晒す襲撃者。
眉毛がすっと通った美人。
俺の言葉にチャーミングな獣耳がピコピコ動き応じる。
印象的なその耳を見るまでもない。
恭介に続き、大神楓との再会だった。