143章 説明に衝撃な勇者
身を整えた俺達は、二人でこっそりと宴に戻ろうと王宮を目指す。
御婦人方を含む市民達はさすがに皆就寝したようだ。
宴会と場となった王城付近は幾分か静けさが漂っている。
が、騎士達は昼間の戦いで昂った気を鎮め様とする為か?
呆れた事にまだ飲み続けていた。
テンションが無駄に高まってるのが怖ろしい。
今見つかったら何を言われるか。
しかし得てしてそういう時程不審ぶりが目立つもの。
人目を避ける様に歩んでいた俺達を見留め、先刻飲み交わした騎士達が俺やミーヌの姿を見るなり声を掛けてきた。
格好の獲物は逃さぬ、とばかりに好奇心を隠さぬニヤけた表情。
ああ、こりゃ駄目だな。
逃げられない。
やれやれ……おもちゃにされる覚悟を決めますか。
目線で迷惑を掛けると伝えると、傍らのミーヌも仕方ないと苦笑する。
そんな俺達に矢継ぎ早に問い掛けられる言葉の嵐。
今までどうしていた?
何やらあやしい雰囲気ではないか?
という質問に、二人で顔を見合わせ曖昧な返答で応じる。
会話しながらも甘えた様に、親しげに俺へ腕を絡ませてくるミーヌ。
幸せに満ちたその微笑みを見て皆それとなく察したようだ。
口々に苦笑し、俺の肩や腹や背中を軽く叩いていく。
「幸せにしてやれよ」
「泣かすなよ」
「リア充は爆発するらしいぞ?」
等と余計な一言を一々賜わる。
ああ、勿論幸せにしますよ。
ムキになって反論するも爆笑され去っていくのみ。
質疑に加わらなかった仲間達の元へ戻ると、爆笑と大泣きの末、今度は俺達を酒の肴にし始める始末。
ホント、酔っ払いはタチが悪い。
一人憤慨する俺。
同情したミーヌが、
「頑張ったね、アル(いーこ。いーこ)」
と慰めの言葉を以って宥めててくれてると、
「その様子だと……上手くいったみたいですね」
何処から現れた恭介が声を掛けてきた。
アルコールの為か、ほんのり顔を上気させている。
「恭介、さっきはその……」
「皆まで言わずとも結構ですよ。
少々の誤解から深刻なすれ違いが生じてたのは明白でしたから」
「そ、そうなのか?」
「ええ、バレバレです。
おそらくミーヌさんの中にいる『ミーヌ』さんの想いを受けた行動や衝動にアルは面白くなかったのでしょう?」
「……ああ」
「それが誤解なのですよ、まったく。
彼女とは縁があり、親しくさせていただきましたが……
それは恋愛感情よりむしろ再会した兄妹のような仲の良さ。
アルが感じてるものではありませんよ」
「そ、そうだったのか……
結局は俺の独り相撲?」
「はい。互いに好きな人は別にいましたしね」
「え? 恭介のそれは私も初耳」
「そういえば彼女には言ってませんでしたか。
まあとにかく全ては些細な勘違いから生まれた出来事ですよ。
ただ……この事を別にしても、アルはもう少し女心を理解した方がいい。
そう思いませんか、ミーヌさん?」
「同意。
アルは鈍感というか、機微に疎い」
「うっ……面目回答もつかない」
「まあまあ。
貴方を想うミーヌさんの気持ちは充分に伝わったし、
痛い程理解出来たでしょう?
時には理性的ばかりでなく本能に身を任せ感情的になるのも重要ですよ」
「なるほどな……恋愛って奥が深いんだな」
「まあ一般論です」
「ねえ、恭介……質問いい?」
「何でしょう?」
「素朴な疑問なんだけど……どうしてそんなに女心に詳しいの?」
「ああ、それなら理由は簡単です。
自分……こうみえても女ですから」
「へえ~そうなんだ」
「なるほどねー」
……ん?
「「って、ええ!!
マジで(ホント)!?」」
「いや、無論嘘ですが……」
秒で答えた恭介が、苦笑をより濃くする。
ああ、マジでびっくりした。
シリーズの方向性が変わったのかと錯覚するくらいの衝撃だった。
実は恭介、クールな面差しをしてるが結構酔ってるのかもしれない。
こういうお茶目なキャラじゃなかった気がするが。
もしかしたら微妙に世界改変の影響を受けてるのかもしれないな。
「あ、そういえば恭介!」
「はいはい。今度は何です?」
「恭介は世界改変の影響を受けなかったのか?
サクヤが、余波から守り切れなかったからカムナガラに取り込まれたかもって」
「その事なんですが、アルにミーヌさん。
自分が二人を呼びにきたのもまさにそれを説明する為ですよ。
付いてきてください」
悪戯を思いついた子供の様に蠱惑的な笑みをたたえ、恭介は踵を返す。
慌てて後を追う俺達。
酔いを感じさせぬ足取りに俺達の方が早足になる。
「ちょ、恭介。
どこへ行くんだ?」
「行先ですか?
王宮の最深部、託宣の間ですよ。
そこでコノハ姫がお待ちです」
「た、託宣の間?
それにコノハ姫が待ってるって……」
「ええ、カムナガラに飛ばされ早二週間。
ついに幻朧姫様と連絡が取れました」
嬉しさを隠そうとせず明るく話す恭介。
再び顔を見合わせる俺達。
先行きが見えない道筋に差し込む一条の燈火。
俺達もその意味を知り、度重なる驚きに喜びの声をあげるのだった。