142章 愚行に反省な勇者
主賓ではないとはいえ、功労者の一人であるミーヌがいつまでも不在では怪しまれるだろう。
俺は断ち難い衝動を宥めつつ、上着を着込む。
そっと気配を窺うも、四方八方に人気はなし。
王宮の外れとはいえ広大な庭園なのが幸いした。
野次馬や騒ぎ立てる者はいないようだ。
周囲に響くのは虫の声と風のせせらぎ。
耳を澄ませば微かに祭囃子のような宴会のざわめきが聞こえる。
どうやら一連の秘め事はバレてないようである。
そうでなければかなりのスキャンダルな出来事。
厳粛な王宮で、その……ねえ?
自分の仕出かした愚行に心底呆れかえる。
でもまあ……ミーヌとの絆が深まり、俺の覚悟が定まったのは確かだ。
あとはこの想いに殉じ、どこまでも貫くのみ。
(ミーヌを……絶対幸せにしてみせる)
星空に誓い、一人で勝手に盛り上がる俺。
そんな俺の気配を感じたのか、ミーヌが身動ぎをする。
眼をそっと開け俺の姿を確認。
ぼーっとした顔が徐々に意識を明瞭にしていく。
「あ、悪い。
起こしちゃったか?」
「ううん。
そろそろ私も起きようと思ってたし……」
幸せそうに微笑むと、ん~と囁き腕を伸ばしてくる。
抱き締めて欲しいのかな?
俺はミーヌに身体を寄せるとその美麗な肢体を抱き締める。
その瞬間、俺の顔を両手で挟み込むミーヌ。
可愛い笑みが悪戯めいた妖艶なものに代わり最接近。
俺はミーヌから荒々しい口付けを賜わる事となった。
「っんな! ちょっおま」
「フフ……いつもアルからばかりだったから。
ちょっとしたお返し」
「だ、大胆な事をするな」
「ん~私って元々こんな感じだよ?
アルの前では無意識に演技してた部分もあるだろうし」
「そうなのか?」
「うん。女の子だもん。
好きな人には最高の自分を見てもらいたいよ」
「よく……分からないな」
「アルがそんな器用な人だったら、きっと好きにはなってないと思う。
素朴で純粋で何事にも一生懸命なアルだから……私は惹かれたんだ」
「それをいえばさ……
俺だってお前を知れば知るほど惹かれていったぞ」
「本当? 嬉しいな。
両想いにちゃんとなれてたんだね」
「ああ」
「光と闇。
希望と絶望。
相反する相克の螺旋。
私達って何もかもが正反対だから……かえって相性がいいのかも。
でも私は怖かった」
「何が?」
「アルの優しさが。
アルって誰にでも優しいでしょ?
それって時には凄く残酷な事なんだよ?
報われない想いを抱き続けるのは……辛くて、苦しい事だから」
「それは……仲間からも指摘されたな」
「アルは魅力的だし誰にでも気兼ねなく接するから……
優しさに慣れてない人は勘違いしちゃうんだよ。
正直最初は私も、
同情で付き合ってくれてるのかな?
って思いがあった」
「そんな事を考えてたのか?」
「うん。ぬるま湯に浸る様な緩慢な幸せ。
だけどその居心地の良さが心地良くも脆くて怖かった」
「砂上に楼閣を積み上げる様な?」
「そうだね。アルがいつか他の人に心惹かれたらどうしよう、って。
私に優しくしてくれたようにアルはその人にも優しくしてしまう。
優しくされてるだけじゃ、アルにとっての特別じゃないから」
「ミーヌ……」
「だから不安だった。
一緒にいればいれるほど。
心を委ねれば、委ねるほど。
失った損失ばかり考えて、そんな自分に嫌気が差した」
「そっか……」
「でも私の問いにアルは本心で答えてくれた。
私の想いにきちんと応じてくれた。
初めてだったけど……すごく嬉しかった。
貴方を間近に感じて、幸せだな、って思った」
「少々乱暴じゃなかったか?」
「うん……実はまだアルのが入ってる気がしてジンジンする。
沈痛術式で軽減してるけど」
「すまん」
「ホントだよ。
アル、愛しく想ってくれるのは嬉しいけど……回数は押さえて下さい。
私も頑張るから」
「これが……若さってやつなのか」
「いいえ、ケダモノです」
「ごめんなさい」
「怒ってる訳じゃないからいいけど……
素直に告白すれば気持ち良かったし(ぼそっ)」
「え?」
「何でもない!!
まあとにかく……アルと本心からぶつかり合えてよかった。
これから先、喧嘩もいっぱいするけど……
アルの傍にいたい。駄目?」
強気でありながら怯えを隠そうと気丈に振る舞う。
ああ、こいつは何でこんなに意地っ張りなのか。
俺の返答なんて最初から決まってるのに。
「無論そんなの……いいに決まってる!」
「アル……本当にいいの?」
「野暮な事を聞くなよ。
ずっと俺の傍にいてくれ、ミーヌ」
「アル……ん……」
誓う様に祈る様に。
再度口付けを交わす。
永遠の想いなんてこの世にはない。
けど……この瞬間の俺達の想いは、
真理に最も近い解答として二人の中に残っていくのだった。
ちなみに
「ねえ、アル……」
「はい」
「そろそろ皆のとこに戻ろうと思うんだけど……」
「ええ」
「この盛大にビリビリに裂いたドレスはどうするの?
一応借り物なんだけど……」
「ホント、どうしましょうかね……」
等と云うお馬鹿なエピソードもあったが、
ミーヌの修繕魔術と俺の光糸魔術を駆使し、何とか事無きを得た。
こんな事を踏まえ、何よりも代え難い教訓となりました、はい。