141章 星々に報告す勇者
共に横になりながら俺は夜空を見上げる。
満天の星空。
煌々と輝く双月。
虫の声が遠くに聞こえる。
ドレスをシーツに、俺のインバネスを身体に掛けたミーヌが隣りにいる。
俺の左腕を枕に、幸せそうに微睡んでいる。
(あーあ、自制出来ず……しちゃったな)
でも後悔は全然してない。
女の子みたいな発想だが、やはり初めては好きな人に捧げたいとは思っていた。
正確に言うなら剣の鞘たる主に。
あれは母に「どうして父と結婚したのか?」みたいな事を質問した時だったか。
幼き頃、母から父の鞘となった経緯を聞かされ、いつか俺もそんな人を……と思った。
傍らで寝息を立てるミーヌの顔を見て、この人がそうなんだ、と実感する。
無論、今の俺は恋愛は綺麗事だけじゃやっていけないことを理解してる。
激しい交わりの最中も互いの想いを吐け出し、ぶつけ合った。
本心と本心。
エゴとエゴ。
でも喧嘩をすればするほど互いの心が近くなるのを感じた。
きっとミーヌもそうだったのだろう。
晴れ晴れとした笑顔で嬉々として応じてくれたから。
きっと今までの俺達は良き恋人関係を構築しようと頑張り過ぎてたのだろう。
砂上の楼閣の様に脆い関係を一生懸命守ろうと努力し続ける。
今回の事がなくてもいつか破綻が訪れていたに違いない。
恋愛に大切なのは肩肘を張らない関係の構築。
気取ってカッコつけてる内は本当の恋愛じゃない。
互いの弱さと強さを曝け出してからが本当の恋愛の開幕なのだ。
その事に気付かせてくれた恭介にはマジで感謝しないといけない。
乱れたミーヌの髪を整えてやりながらそう思う。
少々……っていうか、かなり荒々しくなってしまった事には申し訳なく感じる。
でもそんな俺の衝動をミーヌは受け入れてくれた。
赦し、
抱き、
愛してくれた。
嫉妬深く独占欲の強い素の自分としての「我」と、
恋愛感情を含む情動という「個」を認めてくれた。
それは何より幸せなことだ。
心身共に満たされ、喜びに気力が充実する。
鬱屈してた自分が馬鹿に思える。
変だな、俺。
色褪せていた世界が今は輝いて見えるし。
不思議だ……こんな事ってあるんだな。
父の教育の影響か、俺は結構貞操観念うんぬんにはうるさい方だ。
時にそれとなく、時に大胆にと。
旅先で色々な女性にモーションを掛けられてきたが、全て断ってきた。
故郷の幼馴染の事もあったし、俺が堅物で朴念仁だったのもある。
よって仲間から、
「女心の敵」
「アルはフラグ立て過ぎですわ」
「ハーレムゲーかよ!」
等と野次られる結果となったが。
自慢でないが勇者はモテるのである。
俺じゃなく肩書きに惚れ込む故に。
俺と云う人間じゃなく、勇者と云う称号が魅力的なのだろう。
欲望や好奇の視線に晒される事もあった。
ミーヌと一緒にいて心地良いのは、対等だからというのもある。
構えるのでもなく自然体で、共に居るのが当たり前になっていく関係。
それが恋愛なのか。
(父さん、母さん。
俺……人生を共にしたい程、好きな人が出来たよ……
いつかきっと、二人の様に……)
ミーヌを抱き締め夜空を見上げながら、
俺は亡き二人に向かい報告するのだった。