138章 羞恥に抜出る勇者
汎用性に長けた王宮魔術師達が、破壊活動にもめげずに残っていた王城を建築魔術で再構築する。
総出で取り組み、何とか完全再生に成功。
堅牢でありながら瀟洒な印象を受けるカムナガラ最大級の城。
王城地下に避難していた王都の人々だったが、打ちひしがれた表情も王城の威容を見るなり喜びに輝く。
外に出てくる度に歓声を上げ、功労者である術者達を囲み讃え合う。
その中心には進んで術者達を率いたミーヌの姿があった。
届きそうで少しだけ遠いミーヌ。
幸せそうに笑う姿を視界に捉えながら、俺は訳の分からない気持ちに翻弄されていた。
片付けも一段落し、夜は慰労と葬送を兼ねた簡単な宴となった。
王城の食糧庫が解放され、料理人が腕を振る舞う。
全ての人々が平等に楽しめる様にと、コノハ姫の提案もあり立食形式だ。
無論秘蔵の酒も蔵から運び出される。
これにテンションが上がるのは王宮騎士達。
激務に戦闘に身を委ねる彼等の楽しみは、やはり飲む事。
特に今回の様な辛勝を遂げた日は仲間の冥福を祈り酒に溺れずにはいられない。
浴びる様に酒杯をぶつけ合う。
昼の作業中に親しくなった騎士達も代わる代わる俺の元へ訪れ、王都防衛の一役を担った事に対する礼と、弔いの杯とを俺に重ねていく。
俺はそんな彼等の気持ちが痛い程分かるから潰れるまで付き合う。
何故なら、酒は男の涙だから。
男は大っぴらに泣けない。
故に酒を飲んで涙を流す。
そう戦友が教えてくれたからだ。
精鋭なる騎士達が死屍累々と倒れていくのはどうかと思うが。
余興に笑い、料理を嗜む。
明るく希望に満ちた笑顔の輪。
そんな中、驚愕の声が響く。
「美しい……」
「最早幽玄さの域に達している……」
陶然と見惚れる人々。
その視線の先にはコノハ姫の好意でドレスアップしたミーヌの姿があった。
流れる金色の髪を結い上げアップにし、
淡い闇色のドレスを艶やかに着こなし、
挑発的でありながら清楚さを湛えたメイクで飾る。
誰もが振り返る絶対の美。
次々にチャレンジャーがミーヌに傅いてはダンスに誘うも、丁重に断られてる。
恥じらいながらも歩む姿は可憐で、花が咲き誇るようだ。
以前から綺麗だとは思っていた。
けどこうしてフォーマルな衣装に身を包むと、まるで別人。
まるで御伽話のお姫様のようだ。
そう、俺とは住む世界が違う。
ミーヌは魔族とはいえ女王という王族の血筋で、
俺は歴代勇者を輩出するとはいえ、しがない平民の家系。
釣り合う気がしない。
恋に浮かれていた自分に気恥ずかしくなる。
俺は居た堪れぬ衝動に突き動かされ、ミーヌに背を向ける様に宴の場を離れた。