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13章 冷酷に応じる勇者

 ふと気になり、通り過ぎようとした店を見渡す。

 軍服にも似た装束、昨夜見た武器(武藤翁に尋ねると銃というもの)の複製品と思わしきものが鎮座している。 

 ここはどうやら武装関連の店らしい。

 先程も似たような店があり、飾られた剣や鎧や法衣に興味を惹かれたものの、全てが模造品だった。

 店員に尋ねると、何でも「こすぷれいやー」という職種が使う品々らしいが、精巧に作られたそれらは本物に勝るとも劣らない作りであった。

 そんな些細な事でもこの世界の技術力を思い知らされる。

 店内を軽く見て回った俺は、先程の食事と同じ過ちを繰り返さない様、店員に声を掛け詳しく説明を求める事にした。

 質問と交渉の末、自分の望む物を複数も見つけ出す事に成功する。


「支払いはカードで」


 その言葉と共に差し出したカードと簡単な手続きで目的の品を手に入れる事が出来た。

 まったくもって異世界のシステムは素晴らしい。

 俺は元の世界に戻る事が出来たら絶対冒険者組合にこの構造を浸透させようと決意しつつ、最敬礼で頭を下げる店員を後に店を出た。




 人気のない場所を求め彷徨い歩く。

 やがて郊外に打ち捨てられたビルを見つけた俺は、裏口から不法侵入し屋上を目指す。

 廃墟に響き渡る足音。

 不定期にリズムを崩すその音を聞きつつ10階建てのビルの屋上へ辿り着いた。

 荒れ果て汚濁にまみれた屋上。

 俺はブーツで軽く足場を踏み締め、動きに支障が無い事を確かめると共に、周囲の物陰へと声を掛けた。

 背後の扉ではなく。


「そろそろ出てきたらどうだ?」


 その俺の言葉に導かれた訳ではないだろうが、

 次々と屋上へ湧いて出る黒服の男達。

 その数6人。

 中には見知った顔もいる(昨夜の馬鹿達だ)。


「知っていたのか、オレらのことを?」


 リーダー格と思わしき男が尋ねてくる。 

 ん? お前等に言った訳ではないのだが。

 しょうがない。

 一応追及しておくか。


「お前等の下手くそな尾行なら武藤翁の屋敷を出た時点で気付いてたぞ」

「なっ!」

「なっ……ってお前。

 尾行するなら、せめて複数班に分けろよ。

 同じ奴がいつまでも後を追跡してたら誰でも気付くぞ」

「はっ……バレちまったら仕方ねえ。

 昨日はよくも邪魔してくれたな、おい」


 男の掛け声と共に、周囲の男達が金属の棒やら砂袋の根等、各自思い思いの武器を構える。

 中には銃を構える者も2人いた。


「てめえは目障りなんだよ。

 ……ここでバラす」

「あのさ、お前等」

「あん?

 命乞いなら聞いてやんねーぞ、コラ?」

「いや、命乞いっていうか……一応確認するが、俺の命を狙ってるんだよな?」

「馬鹿か、てめえは!

 今から皆でぶっ殺してやるって言ってるのが分からねえのか!?」

「いや、それならいいんだ。

 時にお前等、武器を持って他人を殺める宣言をした意味を……ちゃんと理解してるんだよな?」

「あん?」

「つまりそれは……

 自分が殺されても文句は言えないってことだぞ?」

「やっぱり馬鹿だな、おめえ。

 この人数にチャカまであって、どうやって戦うんだよ」

「ホント、兄貴の言う通りだ。ぎゃはははは!!」


 馬鹿笑いをする男達。

 耳障りだな、こういった手合いの声はいつ聞いても。


「昨日は事態が分からない故、手心を加えた」


 俺はあくまで自然体のままゆっくり告げる。


「だがお前達が望むなら……

 本気でいかせてもらう」


 ポカンと白けた表情を浮かべる男達。

 その瞬間、無拍子で間合いをつめた俺の指が近くにいた奴の眼球を貫く。

 と同時、眼底に指を引っ掛け顎を膝に叩きつける。

 何かが砕けた様な音と共に崩れるそいつを尻目に、身を強張らせる隣りの男へ間合いを詰める。


「こいつ!」


 大振りで隙だらけな金属棒の一撃を見切り、棒ごとへし折る蹴りを男の股間へ。

 口をパクパクし絶息する男。

 血と尿が入り混じった噴水でズボンを染めつつ前のめりに潰れる。

 残りは4。


「う、撃て!」


 リーダーの男が発した命により、銃から銃弾が放たれる。

 無論幾ら俺が勇者だからといって、音速近い銃弾を全て避ける事は難しい。

 だが銃を俺に向ける男達の動き、

 引き金を引くその速さ、

 そして銃口の先端がどこを狙うか射程を捉える動きには余裕で間に合う。

 だから俺は傍観者を決め込んでいた奴の髪の毛を掴み、後ろ手に腕の関節を捻り上げると即席の盾とした。


「え? あっがふっ」

「うああああああああ!!!

 マサキがああああああ!!」


 体に銃弾を受け吐血するそいつを投げ捨て、

 即座に銃を持ったまま絶叫してる二人の男達へ。

 慌てて銃を向けてくるが……遅い。

 俺の方へ狙いもせず連続で放たれる銃弾。

 どうやら仲間を撃った事と、仲間が倒れた事に錯乱してるらしい。

 その覚悟の無さに呆れつつ、俺は戦闘開始時から練っていた洸魔術の術式を解放した。


「光束縛糸<リストレイトバインド>」


 魔術刻銘が現実の法則を侵食。

 術者が望む現実へ書き換えてゆく。

 俺の手中から現出した極細な光の糸。

 それは鋼の威力を以ちつつ高速で男達へ絡みつき拘束する。


「な、なにをしやが、ってあああ!!」


 再び銃を撃ち抗おうとした男の指がボロボロ落ちる。


「無駄に動くな。

 その束縛、無理やり動くと全てを切り裂くぞ」


 一応忠告しておいてやる。

 俺の言葉に固まる残りの二人。

 無力化したと判断し、リーダーの前へ歩を進めた。


「何故俺を狙う?」

「てめえが邪魔だからだ」

「では、何故武藤翁を狙う?」

「言えるか、馬鹿」

「そうか」


 俺はブーツの踵を無造作に男の口へ叩き込んだ。


「あがヴうううううう!!」


 絶叫する男からブーツを引き抜く。

 黄ばんだ歯が数本転げ落ちた。


「別にお前達が喋ろうが喋らまいがどうでもいい。

 だが俺の身近な人に危険が及ぶ可能性がある以上、無事には帰さん」


 冷酷に宣言し、光糸を全ての男達の身体の奥底へと潜り込ませた。


「今からお前達の四肢の腱を断ち切る。

 芋虫みたいに這って歩く人生となるが、

 それだけの事をしてきたんだから仕方ないな。

 さあ、お前の罪を数えろ」

「ゆ、ゆるじてぐだざいいい!!

 なんでもじゃべいまずううう」

「じゃあ話せ。誰の差し金だ?」

「おでらは講談組のもんでずうう。

 わかがじらの命でやりまぢだ」

「そうか……概要は理解した。

 ありがとう」

「じゃ、じゃあだずげでぐれるんでずね?」

「駄目だ」

「え”?」


 無慈悲に告げ、俺は指を振るう。

 腱が断ち切れる鈍い音と共に、郊外のビル屋上に男達の絶叫が奏で響いた。



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