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137章 焦燥に不快な勇者

 戦いに置いて面倒なのは、その後始末と云うか戦後処理である。

 以前にも述べた気がするが敵を倒してエンディングという訳にはいかないのだ。

 俺は妖魔来襲により破壊された王都に散らばる瓦礫の撤去と、逃げ遅れた人がいないか人命検索を始める騎士団員達を手伝いながら情報収集を行う。

 光波反響などの探索呪文を扱える俺はすぐ重宝され、可愛がられた。

 駆けつけ様に敵軍を討って出たのも好印象を稼ぐ良い方に作用してるのだろう。

 好意的な対応で様々な情報が手に入った。

 話を統括して順序立てて解説すると、あの近代兵器を持った妖魔達は一月程前、突如北方地域から行軍してきたらしい。

 以前あった放牧地帯イーセキは蹂躙され、今はロックハンドと呼ばれており、自らを<終末の軍団>と名乗る武装した妖魔達の支配下にあるとのこと。

 王都であるゼンダインだけでなく、東方の商業港町シーガマや、西方の穀倉地帯であるテンドーも同時進行で襲われたらしい。

 精鋭で成る王国騎士団や守り人達も、高速で鉄の鏃を飛ばす謎の武器(銃)の前には適わず、撤退に次ぐ撤退を重ねる消耗戦だったらしい。

 そこに颯爽と現れたのが恭介を始めとする神名担の勇者達である。

 彼らの八面六臂の活躍により戦線は瞬く間に塗り替えられ、どうにか均衡を保つことに成功。

 特に退魔闘法の遣い手たる恭介の力は凄まじく、何故か一日置きに回復する<神名>の恩寵もあり王国軍の切り札的な存在とのこと。

 一騎一軍とも形容されるその力はまさに救国の勇者と呼ばれるに相応しい。

 病床に伏せる王に代わり指揮を執る王女コノハの信頼も厚く、気さくで謙虚な人柄に王都の人々の人望を一身に集めてる。

 今日の襲撃はシーガマからの救援要請に応じ恭介達が出陣して数刻後に起こったものらしい。

 冷静に判断すれば単純な陽動だったのだろう。

 かつてない規模の妖魔の軍団。

 しかもその全てが銃火器を装備している。

 この物見の斥候からの決死の報告に、コノハはすぐに防衛陣を敷く事と市民の避難を決行。

 恭介達が戻ってくるまでの捨石となることを覚悟したそうな。

 そのお蔭かどうにか王都は半壊程度で澄んだとの事。

 騎士団員達にも多大な犠牲が出たが、守るべき市民の命を救う事は出来た。

 それが何より誇らしいと周囲の騎士団員は笑い合う。


「それにしてもアンタのお仲間は凄いな。

 いや、アンタ自身も凄いけどさ。

 あの別嬪さんはまた違う器だわな。

 あれだけの規模の術を操り敵軍を壊滅するなんて……

 もしかして法力でコノハ様に並ぶんじゃないか?」

「まったくだ。

 おまけにあのカムナ様とも知り合いなんだろ?

 ああも親しげに話されてるし、きっと気の置けない仲なのだろう。

 それにあの人外離れした容姿……女神のように美しい」

「うん? なんだ、お主。

 もしかして惚れたのか?」

「馬鹿言うな。

 妻に聞かれたら殺されるわ」

「ハハ、違いない」

「ま、アンタも大変だろうが……

 あの方達と共にいるのなら、身の程を弁えた付き合いが必要かもしれないな」


 激励のつもりなのか?

 ポン、と肩を叩かれる。

 思わずバランスを崩し、形を留める建物に寄り掛かる。

 単純な作業に疲労してるのだろう、俺は。

 だって、こんなに思考がまとまらないなんて絶対変だ。

 深呼吸し、息を整える。

 うん、やはりおかしい。

 あんな光景ぐらいでおかしくなるなんて。

 でも……目が離せない。

 いったいこれは何だろう?

 こんなに昏くて鬱屈したこの想いは。

 俺は胸元を押さえながら苦心しそこを見る。

 親衛隊とお抱え術師に囲まれ介抱されるコノハ王女の天幕。

 親しげに王女と話す恭介。

 その隣には此度の戦に置ける勝利の立役者というか功労者として、特別に天幕へ招かれたミーヌの姿が見える。

 恭介の傍らにいるその姿、

 穏やかに微笑むその姿が、

 何故か今の俺には自然体で、ありのままのように思え、

 ちょっとだけ……














 嫌だな、と感じた。

 

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