表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

137/198

135章 歓声に苦笑な勇者

「カムナ様だ!」

「救国の勇者と名高き、カムナキョウスケ様がついに来てくれたぞ!!」

「もうシーガマの敵軍を撃退してきたというのか!?」

「勇者様万歳!!」

「これで勝つる!!」


 姿を現した恭介の姿に各々盛り上がる王国軍。

 歓声を上げる人々の熱い眼差しに居心地が悪そうに頬を掻く恭介。

 ザオウで経験したから分かる。

 無欲で希望に満ちたアレは何というか『くる』ものがある。

 一向に収まらない歓声。

 恭介は諦めた様に肩を竦めると、抱えていたミーヌを下ろした。


「怪我はありませんか、ミーヌさん?」

「ありがとう、恭介!!」


 途端満面の笑みを浮かべ恭介に抱きつくミーヌ。

 そこでハッとしたように我に返り、俺の方を恐る恐る振り向く。

 浮気に値するとでも思ったのか?

 まあ確かに嫉妬を覚えるのは確かだが。

 俺は一瞬ムッっとしたのを堪え、分かってるからと応じた。

 するとミーヌは安心する様に胸を撫で下ろし、恭介から距離を取り改めて頭を下げる。

 恭介も気にした様子もなく大人な態度で応じる。

 推測するに、ミーヌのあの行動はミーヌの素体であり内なる中にいる『ミーヌ』の仕業なのだろう。

 親しげに話す彼女の様子から、生前といっていいかどうか分からないが、彼女が恭介に好意を抱いていたらしい事は窺えた。

 普段はミィヌたるミーヌが主導権を握ってるが、強い衝動が迸ると『ミーヌ』が優先権を得るのだろう。

 先程も述べたが理屈では理解できている。

 それでも感情はあまり上手に騙されてくれない。

 少し冷たい声になるのを理解しつつ俺はミーヌに指示を飛ばす。


「ミーヌ! 敵は俺と恭介で喰い止める!!

 殲滅魔術をスタンバイだ!!」

「え?

 は、はい!!」


 魔杖を抱え直し、詠唱に入るミーヌ。

 ちょっと驚いてたな。

 後でちゃんとフォローをしておかないと。

 自分の感情すらままならない。

 まだまだ未熟な己自身に呆れてしまう。

 そんな俺の肩をポン、と叩きながら苦笑する恭介。


「アルは気負い過ぎです。

 自分と貴方達、そして王国軍がいるんですから、もっと気楽に構えて下さい」

「ああ、俺の悪い癖だな。

 一人で何でも背負い込もうとするのは」

「ミーヌさんもそういう傾向がありますね?

 愛し合うのは美しい事ですが……

 もう少し弱音を吐いてあげるのもよいかもしれません。

 きっと喜びますよ、彼女」

「そうかな?」

「ええ。基本アルの事なら何でもOKでしょうがね」


 顔を見合わせる笑い合う俺達。


「ところで恭介」

「はい何でしょう?」

「今までの経緯とか詳しい事を聞きたいんだけど?」

「それは分かりますが、後にしませんか?

 積もり積もる話もありますし」

 まずはこいつ等を片づけませんと」


 笑顔から一転、鋭い視線で軍勢を睨む恭介。


「だな。しかしこれは……誰の技だ?

 こんな神秘を顕現させるなんて、ミーヌ以外に知らないぞ」

「ゼンダイン王国の守護者、コノハ姫の力ですよ。

 自分達が状況を語り合えるように、

 また王国軍を立て直す最後のチャンスでもある為、

 王族最秘奥である「事象の限定空間停止」を使ってくれたんでしょう。

 流石は神々に連なる血筋ということでしょうか」


 感心したような恭介の言葉に俺も同意する。

 冒頭から俺達はのんびりと会話しているが、ここが戦地である事を忘れた訳じゃない。

 今もすぐ傍では妖魔の軍勢が俺達に銃弾を放ち続けている。

 しかしその全てがある境界を境に堰き止められていた。

 おそらく岐神の神名<隔絶>の「神域隔離障壁」より高度な結界だろう。

 事象干渉能力を以って俺達と王国軍を守る円陣を生み出したのだ。

 俺は王国軍の後方に鎮座するコノハ姫を見る。

 蒼白になるほどの精神集中。

 空間に満ちる清浄なる神気。

 この空間にいるだけで傷が癒え活力が出る。


「ミーヌの術式解放まで2分。

 前衛を頼めるか?」

「今更誰に言ってるんです。

 自分が来た以上任せてください。

 皆さんには奴等の指一本すら触らせませんよ。

 そういうアルこそ、足を引っ張らないで下さいね」

「はっ、言ってろ」


 俺達が互いの気持ち込め拳を打ちつけると同時、

 まるでそれを待っていたかのよう結界の崩壊が起こる。

 咆哮と共に構えられる銃火。

 俺達はそれをものともせず軍勢へ向け飛び出すのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ