135章 歓声に苦笑な勇者
「カムナ様だ!」
「救国の勇者と名高き、カムナキョウスケ様がついに来てくれたぞ!!」
「もうシーガマの敵軍を撃退してきたというのか!?」
「勇者様万歳!!」
「これで勝つる!!」
姿を現した恭介の姿に各々盛り上がる王国軍。
歓声を上げる人々の熱い眼差しに居心地が悪そうに頬を掻く恭介。
ザオウで経験したから分かる。
無欲で希望に満ちたアレは何というか『くる』ものがある。
一向に収まらない歓声。
恭介は諦めた様に肩を竦めると、抱えていたミーヌを下ろした。
「怪我はありませんか、ミーヌさん?」
「ありがとう、恭介!!」
途端満面の笑みを浮かべ恭介に抱きつくミーヌ。
そこでハッとしたように我に返り、俺の方を恐る恐る振り向く。
浮気に値するとでも思ったのか?
まあ確かに嫉妬を覚えるのは確かだが。
俺は一瞬ムッっとしたのを堪え、分かってるからと応じた。
するとミーヌは安心する様に胸を撫で下ろし、恭介から距離を取り改めて頭を下げる。
恭介も気にした様子もなく大人な態度で応じる。
推測するに、ミーヌのあの行動はミーヌの素体であり内なる中にいる『ミーヌ』の仕業なのだろう。
親しげに話す彼女の様子から、生前といっていいかどうか分からないが、彼女が恭介に好意を抱いていたらしい事は窺えた。
普段はミィヌたるミーヌが主導権を握ってるが、強い衝動が迸ると『ミーヌ』が優先権を得るのだろう。
先程も述べたが理屈では理解できている。
それでも感情はあまり上手に騙されてくれない。
少し冷たい声になるのを理解しつつ俺はミーヌに指示を飛ばす。
「ミーヌ! 敵は俺と恭介で喰い止める!!
殲滅魔術をスタンバイだ!!」
「え?
は、はい!!」
魔杖を抱え直し、詠唱に入るミーヌ。
ちょっと驚いてたな。
後でちゃんとフォローをしておかないと。
自分の感情すらままならない。
まだまだ未熟な己自身に呆れてしまう。
そんな俺の肩をポン、と叩きながら苦笑する恭介。
「アルは気負い過ぎです。
自分と貴方達、そして王国軍がいるんですから、もっと気楽に構えて下さい」
「ああ、俺の悪い癖だな。
一人で何でも背負い込もうとするのは」
「ミーヌさんもそういう傾向がありますね?
愛し合うのは美しい事ですが……
もう少し弱音を吐いてあげるのもよいかもしれません。
きっと喜びますよ、彼女」
「そうかな?」
「ええ。基本アルの事なら何でもOKでしょうがね」
顔を見合わせる笑い合う俺達。
「ところで恭介」
「はい何でしょう?」
「今までの経緯とか詳しい事を聞きたいんだけど?」
「それは分かりますが、後にしませんか?
積もり積もる話もありますし」
まずはこいつ等を片づけませんと」
笑顔から一転、鋭い視線で軍勢を睨む恭介。
「だな。しかしこれは……誰の技だ?
こんな神秘を顕現させるなんて、ミーヌ以外に知らないぞ」
「ゼンダイン王国の守護者、コノハ姫の力ですよ。
自分達が状況を語り合えるように、
また王国軍を立て直す最後のチャンスでもある為、
王族最秘奥である「事象の限定空間停止」を使ってくれたんでしょう。
流石は神々に連なる血筋ということでしょうか」
感心したような恭介の言葉に俺も同意する。
冒頭から俺達はのんびりと会話しているが、ここが戦地である事を忘れた訳じゃない。
今もすぐ傍では妖魔の軍勢が俺達に銃弾を放ち続けている。
しかしその全てがある境界を境に堰き止められていた。
おそらく岐神の神名<隔絶>の「神域隔離障壁」より高度な結界だろう。
事象干渉能力を以って俺達と王国軍を守る円陣を生み出したのだ。
俺は王国軍の後方に鎮座するコノハ姫を見る。
蒼白になるほどの精神集中。
空間に満ちる清浄なる神気。
この空間にいるだけで傷が癒え活力が出る。
「ミーヌの術式解放まで2分。
前衛を頼めるか?」
「今更誰に言ってるんです。
自分が来た以上任せてください。
皆さんには奴等の指一本すら触らせませんよ。
そういうアルこそ、足を引っ張らないで下さいね」
「はっ、言ってろ」
俺達が互いの気持ち込め拳を打ちつけると同時、
まるでそれを待っていたかのよう結界の崩壊が起こる。
咆哮と共に構えられる銃火。
俺達はそれをものともせず軍勢へ向け飛び出すのだった。