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134章 王都に集いし勇者

 高速思考魔術を詠唱後、高速詠唱付与に連携。

 加速される意識。

 急速に迫る地面。

 スロットを圧迫する飛翔魔術に繋ぐのでなく、着地間近で慣性制御魔術。

 落下速度を強引にキャンセル。

 減速し切れない衝撃が足元を襲う。

 思わず足がもつれ転倒しそうになる。

 体内で循環する闘気で身体強化を行い、余剰分を後方へ射出し加速。

 強制的に姿勢を制御し対応。

 勢いに乗った俺は更にアゾートを発動。

 一条の矢と化し最速で敵陣に斬り込む。

 行先は銃火を並べる妖魔の軍勢。

 俺を敵対者と認めたのか、無数の銃口が向けられる。

 だが遅い!

 銃が雷火を放つ前にカウンターで神名を発動。

 新しく得たばかりの神名<隔絶>が世界法則を歪め再構築。

 その恩寵たる「神域隔離障壁」が俺の前に展開される。

 岐神に<隔絶>の効果を尋ねると、僅か5分間限定とはいえBランクまでの攻撃を完全遮断できる障壁を張れるとのこと。

 おまけに内側からの攻撃は通常通りに行えるという。

 まさにチート級の神名であった。

 現に今も銃弾が雨霰となって叩きつけられるが、その全てが障壁に掻き消されていく。

 驚愕に慌てふためく軍勢。

 指揮者らしきものが動揺を鎮めようと怒鳴り散らす。

 しかし俺は冷静に洸顕刃を発動。

 聖剣から生まれた光刃を伸長し、アゾートで強化された膂力を以って無慈悲に振るう。

 小隊規模の妖魔群が一太刀で斬り捨てられる。

 唖然とした表情を浮かべ前のめりに倒れ逝く妖魔達。

 俺は結果を見るまでもなく加速を続け、次は戦車を目指す。

 立ちはだかる妖魔達をものとせず、隙をみて何とか砲塔を斬り飛ばす事に成功。

 流れだけを見れば優勢の様に思える一連の動き。

 だが……戦力が圧倒的に足りてない。

 一見善戦してるように見える。

 けど優勢に戦えてるのは俺だけだ。

 戦術レベルで局所的な勝利は出来ても、戦略レベルである戦域全体の勝利には繋がらない。

 何故なら集団戦闘の要たる術者、ミーヌがフリーにならないからだ。

 こうしてる間もミーヌは防御術式で王国軍を銃弾から守護し、攻撃術式で牽制し、電磁術式で砲弾を強引に跳ね返している。

 その活躍は疾風怒涛にして獅子奮迅。

 一騎当千という言葉こそ相応しい。

 必死に防衛陣を張る王国軍も、そんなミーヌを聖女だ勇者だと讃え始めてる。

 されど現実は非情だった。

 俺達が死力を尽くし露払いをしているも、大隊規模の妖魔達には多勢に無勢。

 現状では大規模殲滅魔術や戦略級魔術を発動する余裕がない。

 無論王国軍を見捨てれば話は別だが、そんな選択肢は最初からない。

 しかし明確な勝利へのビジョンがないのも確か。

 むしろ闘いは泥沼化の様相を呈していた。 

 このままでは圧倒的な物量に踏み潰される。


(やはり勢いだけで戦うには限界があるか……)


 戦う前から勝利の要因は確定されてる。

 何の因果か、勇者として軍を率いる事になった俺に対し、そう教授してくれたエゼレオの言葉を思い出す。


「戦の指揮に巧みな者は、まず敵が自軍を攻撃しても勝てないようにしておく。

 敵が弱点を露呈し、自軍が攻撃すれば勝てるようになるのを待ち受ける。

 負けないようにすることは自分自身によってできることだ。

 が、自軍が敵に勝つかどうかは敵軍によって決まることである。

 したがって、どんなに戦いが巧みな者であっても、敵を勝たせない状態にすることはできても、敵を攻撃すれば勝てる状態にさせることはできない。

 そこで勝利の方法を知ることと、実際に勝利を実現することとは別であるということを知るのが重要だと自覚しろ」


 様はまず先に敵から攻められてもいいように守りを固めろ。

 んで、敵が弱みを露呈し攻めれば勝てるような状況になるのを待てという事だ。

 偶然の勝利はあっても偶然の敗北はない。

 故に勝利を迎える為の準備が足りてない時点で仕掛けるのは愚の骨頂。

 俺達は勝利から確実に遠ざかっている。

 局面を乗り切る技はあれど決め手に欠け打つ手(策)がない。

 未熟な自分の至らなさに歯噛みする。

 その時、急にミーヌが立ちくらむようにふらつき足元を縺れさせた。

 術式維持に疲労したのか?

 束の間だけ崩壊する防御術式。

 それは折り悪く、先程砲塔を斬った戦車がチャージによる特攻を仕掛けた瞬間だった。


「ミーヌ!」


 俺の警告にハッ!と顔を上げるミーヌ。

 魔杖を構え術式を再展開しようとするも間に合わない!

 懸命に駆け寄ろうとする俺。

 だが、軍勢が邪魔で届かない!!


(このままじゃミーヌが!!)


 焦りが恐怖を呼び、思考が乱れる。

 戦場では冷静さを失った者から死んでいくのが鉄則。

 理屈で理解してても感情が納得しない。

 悪夢の最中。

 五里霧中の中の様な、

 深海でもがく様なもどかしさ。

 だから次の瞬間起きた事は都合のいい妄想的な奇跡だったのだろう。

 こんな英雄叙述詩の様な、

 ご都合主義なんて現実では有り得ない。

 だって、

 雷のような閃光が迸り、

 戦車が高らかと宙に舞い、

 並み居る軍勢を薙ぎ倒し、

 颯爽とミーヌを抱え飛来した人影が、

 俺の隣りに並び立ち微笑みかけてくるなんて!


「随分とまあ、美味しいとこばかり持っていくじゃないか。

 ……まるで主人公みたいだぞ」

「まさか。

 アルと違い、自分は空気と云うか出方を心得ていないもので」

「よく言うよ……恭介」


 肩を竦め苦笑する俺の言葉に、恭介は口元の笑みをより深くし応じる。

 ヘルエヌの世界改変術式発動より三日。

 神名恭介との再会だった。



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