131話 颯爽と去りし勇者
俺達の為に宴を用意したいという岐神の申し出を丁重に固辞する。
目立ちたくないというのもあったし、一刻も早くカムナガラオンラインに囚われた人々を解放すべく動きたかった。
まあ派手に演説をかました時点で噂になるのは仕方ないだろうが。
苦笑し早々と旅立ちの準備をする俺達。
行き先は王都ゼンダイン。
このカムナガラの中心にして人と情報が集いし場所。
天邪鬼とやらの動向も気になるし、何よりヘルエヌの所在が知りたい。
このクエストが終了したら王都へ向かう事は、霊峰を昇る道中ミーヌと相談して決めていた。
岐神は颯爽と決断し動く俺達に感心したように微笑みながら、
「分かりました。貴方達の決意は固い様ですね。
本来であれば恩義ある貴方達を大々的を持て成したいところですが……
流石は神名担の勇者、謙虚な方々ですね。
それならばせめて王都までは送らせて下さい」
岐神が印を刻むと召喚の陣が浮かび上がる。
そこから現れたのは目も覚めるような白い大鷲。
威厳ある佇まいからただの大鷲で無い事を窺わせる。
俺達を見て嘴で毛繕いをし始めながら
「岐神様に仕えし<神足>が一羽、颯天。
召喚に応じ、只今参上」
と喋る大鷲。
予想外の事態と渋い声色にビビる俺達。
「ありがとう、颯天。
この方々を王都までお連れしていただける?」
「承知。岐神様の移動手段たるのが神足たる我が誉れ。
我が一命をもって客人をお運び致す」
背中を向け、翼で器用に手招きし乗る様に促す颯天。
俺達は当惑しながら岐神の顔へ尋ねる。
性急な颯天に対し、岐神も苦笑しながら、
「彼はわたくしの眷属である神足一族の颯天と申します。
王都まではかなりの旅路となりますが、神足一の翼を持つ彼の力があれば今日中にも辿りつける筈です」
「成程な……じゃあ颯天」
「何かな、客人」
「遠いだろうが、王都までよろしく頼む」
「承知。汝らは我が主の恩人。
我も感謝の念を抱く」
「じゃあミーヌ」
「うん。よろしくね、颯天」
二人で颯天の背に乗る。
ふんわりと柔らかい毛に包まれる俺達。
極上のクッションに腰掛けてる様だ。
「では行きます」
「ええ、本当に色々ありがとうございました。
道中何もないとは思いますがお気をつけて。
特に王都は聖と魔が入り乱れる場所。
様々な思惑が交錯致します。
心配はいらないと思いますが、何があるか分かりません。
貴方達に神名の恩寵があらんことを」
「ありがとう。助言はしっかり心に刻んで置く。
それじゃあ颯天、よろしくな」
「応!」
翼を羽ばたかせ舞い上がる颯天。
強風が巻き起こり蝋燭の火を揺らす。
その勢いのまま浮き上がり……って、ちょっと待て!
このままじゃ天井にぶつかっ!!
……ろうと思った瞬間、俺達は霊峰の頂上へ転移していた。
し、心臓に悪い。
「ハハ……すまぬ、客人。
驚かせてしまったな」
「まったくだ。颯天は転移能力を持つのか?」
「然り。神足の名を持つ我等が力は遠距離連続転移。
羽ばたきながら力を溜める必要はあるが、ほぼ無尽蔵に跳べる」
「頼もしいな」
「うん。改めてよろしくね、颯天」
「承知。では行くぞ」
再度羽ばた上空へ浮かぶ俺達。
すると下の方から俺達に手を振る人々の歓声と共に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「アル~~~~これ~~~~~!!」
「アルにいちゃ~~~~~ん!!」
ソータとタツキだった。
ソータの手より放たれたのは収納袋。
危ない危ない。
ソータに貸したまま、うっかり忘れるとこだった。
「わるいな~~~~~ソータ~~~~!!」
「アル~~~~~色々ありがとう~~~~!!」
「アルにいちゃ~~~~ん!!
ホントにありがとう~~~~~~~~!!!」
「またね~~~~ふたりとも~~~~!!!」
「「「神名担の勇者様、バンザ~~~~イ!!!」」」
「「「ありがとう~~~!!!」」」
解放された霊峰から見上げるナトゥリの人々の激励と祝福。
清々しい声援を背に受けながら、俺達は颯天に乗りザオウを去るのだった。