12章 外食に挑みし勇者
小腹が空いた俺は、近くの軽食屋に入ってみる事にした。
どうやらパンに肉や野菜を挟んだものを提供するらしい。
これなら元の世界でも食べた事がある。
所変われば品変わるというが、はたしてここの味はどうなのだろう?
淡い期待を抱きながら、店内に入る。
明るく清潔な店内。
食欲を誘う匂いが充満しているのが商売上手だな、と思う。
「いらっしゃいませ~
何をお求めでしょう~?」
カウンターにいた店員が笑顔で問いかけてくる。
「え~っと、何かお勧めはあるかな?」
分からない時は正直なのが一番だ。
旅先ではいつもお店のお勧めを頼んできた。
大概はそこそこ満足できるものに有り付ける事が出来る。
無論、偶に大外れもあったが(忌まわしい思い出だ)。
「それでしたら新商品のハバネロバーガーは如何でしょう~?」
「じゃあそれで」
「御一緒に青汁ドリンクは如何ですかぁ?」
「えーっと……じゃあそれも」
「今ならクサヤポテトもお得ですよ?」
「じゃあ……それも」
「ありがとうございま~す♪
さらにデザートのドリアンプリンもおススメでーす」
「それも……ください……」
小腹を満たす為だったのに、
押しの強い店員の勧めるまま無駄に買い込んでしまった。
「ま、まあ……美味そうな感じだったし」
俺は店内に据え付けられた飲食コーナーに腰を下ろし、
袋に包まれた軽食を取り出す。
「バーガーとやらの味、試してみるとするか」
勇者としての直感が若干警鐘を鳴らしている気がするが、
俺は敢えて無視し、それを口に入れた。
その瞬間、俺は自分がドラゴンだった事を思い出した。
っていうか、爆発した。
否、火を吐いた。
何が何だか分からないと思うが、俺も分からない。
有りのまま言えば、思考が定まらない。
物理的圧力を以って口内を刺激する辛味。
辛いのではなく痛い。
血圧が上昇し、脳がクラクラする。
(これは思考阻害の魔術を喰らった時と同じ症状!!)
戦慄した俺は少しでも意識を明確にする為、水分を求めドリンクに手を伸ばす。
そして「それ」を口に含んだ刹那、身体全体を痺れが襲う。
(ば、馬鹿な……生臭さが麻痺攻撃レベルだと!?)
手を出すもの全てが勇者の俺を苦しめる。
涙目になりながら俺はちらりと先程の店員を見た。
変わらぬ穏やかな微笑。
それが今の俺には運命を嘲笑う、禍々しい哄笑に思えた。
こうして異世界初の外食は大敗北で終えると共に、俺は恭介の料理スキルの素晴らしさを思い知るのだった。