126章 歓声に沸立つ人々
瞼に差し込む日差しが眩しい。
どうやら気を失っていた様だ。
心身共に疲労してる状態だったが、何とか目を開ける。
夜の闇は駆逐され、お釜の端からは朝日が昇っていた。
俺は霊峰ザオウにあった山頂広場に寝かされているようだった。
ぼんやりする頭で状況を把握すべく考える。
解放された喜びか、周囲は祭りの様な歓声に沸き上がっていた。
互いの無事と解放を口々に笑顔で話し合う人々。
中には明るく笑い合うソータやタツキを含む幼子達の姿もあった。
希望に満ちたその表情。
その笑顔に自分の行動が間違いではなかったと確信させられる。
微笑みを浮かべる俺
どうやらまだ身体は無事に現界しているらしい。
念法はその強大さ故、発動するたびに急激な霊的消耗を引き起こす。
前回、暗天蛇相手に振るったのも渾身の一撃だった。
あのままミーヌに救われなければ概念的な消滅は避けられなかっただろう。
今回も同様の危機があったのは確かだが、どうにか乗り切ったらしい。
だがこんな曲芸じみた無茶もあと一回ぐらいが限度だ。
元々戦友から教わった付け焼刃の御業なのだから。
身体はまるで別人のようにガタガタだが、こうして生きてるだけでもありがたいと思わなくてはならない。
思考と共に明瞭になっていく意識。
後頭部に極上の触感を感じる。
首を動かすのにも苦労しながら見上げた。
曖昧に歪む視界。
俺の様子を窺うミーヌの心配した顔が見える。
どうやらずっと膝枕をしてくれてたらしい。
目元が少し腫れてるとこを見ると泣かせてしまったのだろうか?
申し訳ない気持ちで一杯になる。
「アル……目は覚めた?
身体は大丈夫?」
「ああ。心配掛けた様だな……すまない」
「ううん。アルはアルに出来る事をしたんだよ。
謝る事なんて……」
「それでも、だ。
お前を不安にさせたのは事実だしな」
「……ホント、だよ」
「ミーヌ?」
「心配……心配したんだから!
回復呪文を掛け続けても覚醒しないし!
霊的に研ぎ澄まされるのに今にも自壊しそうだし!
このまま、死んじゃうんじゃないかって……怖かったんだから!!」
ポロポロと、熱い雫が頬に落ちる。
慈愛顔から一転、泣き叫ぶミーヌ。
不安を抱え、それでも見守ってくれてたのだろう。
俺はそんな彼女にどう言っていいか分からず、ただ泣き止むまで手を伸ばし涙を拭う。
「でも良かった……こうして戻ってきてくれて。
アルがいない日常なんて考えられないもん」
「そう……なのか?」
「うん。だからちょっとだけいい?」
「え?」
上から覆い被さる様に抱き締められる。
っていうか、顔が胸で埋め尽くされる。
い、息が……
極楽なのに地獄と云うこの矛盾。
これが約束された楽園の園ですか?
「ちょっ、ちょっとミーヌさん!?」
「駄目。離さない」
「いや、人目と云うか、その感触がですね?」
「アルは好きなんでしょう、おっぱい。
自由にしていいから。
その代り私もアルを自由にしていい?」
「何ですかその素晴らしい等価交換。
いや、それは勿論嫌いな男はいないというか何というか……
おっぱいは宇宙というか……
結論。
ミーヌのだから最高なんですよ、はい」
「フフ……嬉しい。
でも、今だけはこうさせて?
我儘な私のお願い」
「いや、それは別に構わないが……」
「ありがとう」
「ミーヌ」
「ん……な~に?」
「本当に……すまなかったな」
「うん。でもいいの。
アルがいれば、私はそれだけで……(幸せだから)
おかえりなさい、アル」
「ただいま、ミーヌ」
変わらぬ人々の歓声。
終わらぬ人々の熱狂。
解放に酔う興奮の渦。
しかしそんな周囲の状況を置き去りにしたまま。
俺達は孤独な勝利を噛み締め、互いの無事に安堵していたのだった。