124章 禁忌に戦慄な勇者
念法。
それは超常の奇跡を現界に顕現する禁忌の御業。
裂帛の意志によって研ぎ澄まされた闘気を武術と組み合わせ、聖なる武具で増幅・強化する。
そうやって振るわれる業はまさに奇跡と称されるに値する力を秘めるのだ。
無論単純に闘気を増幅・強化したのではアゾートと同様の効果に留まる。
念法の冴えたるところは力の霊的な昇華にある。
強大とはいえ通常なら物理的な現象に留まる力。
それを王冠・眉間のチャクラにより霊的フィルターし、超常の力へと変換する。
そうやって変換された力<念>は万能にして概念を通り越したモノとなる。
位階を越えた存在を滅ぼし、救われぬ存在をも救う。
事象を書き換え、望む様に世界を扱うのが神々の力なら、
概念を断ち切り、ありのままの世界を具象するのが念法。
天には至らなくとも御使いクラスへと直結するといえばいいか。
故に位階向上による存在の昇華は亜神レベルの力を遥かに越えたものとなる。
まあ難しく語るのもなんだ。
念法ってすげー!!
って思ってもらえば構わない。
「ここだと戦うのに邪魔だし巻き込むな。
移動するぞ」
念法を発動させた事により驚異的な存在になったと俺を認識したのか、警戒する巨人。
俺は構える巨人に対し、無造作に念を込めて聖剣を振るった。
途端、高層ビルほどもある巨人の身体が宙へと浮き、そのまま彼方の山間に吹き飛ぶ。
別に大した業じゃない。
ただ念を剣風に乗せぶつけてやっただけだ。
霊的な意義を伴わない物理的な力。
だというのにこれだ。
人の枠を大きく超えた衝動。
自分が手にした力に身震いしそうになる。
だが……今は巨人たる禍津神を斃すのが先決か。
俺は足に力を籠めると跳躍、巨人の後を追う。
距離にして5キロ。
あろうことか今の俺はその距離を一歩で詰める。
空恐ろしい能力の向上。
加速する視界。
身動きできず山の裾野にめり込んでいる巨人。
俺は聖剣を振りかぶると念を凝らす。
先程俺は位階差による障壁の話をした。
位階が違う相手に望むのは厚く重ねた大きな紙(巨人)に、紙の武器(剣技・魔術)で挑むようなものだ、と。
余程巧い工夫を凝らさないと盾(位階差)を突破出来ない、と。
例えば儀式による大規模突貫魔術などを使用すれば単純な力の量により盾を貫く事も可能だ。
しかしそれには多大な犠牲を伴うし、回避されたら終わりである。
では念法はどうするのか?
力の量でなく質を変えるのだ。
上記の例なら紙の盾に鋼鉄の剣を差し込むようなもの。
多少の霊的防護など問題とせず、本質そのものを打ち砕く。
俺は蒼白になるほどの精神統一の末、ついに業を放つ。
「アルティア念法<裂空>!」
聖なる念を伴った斬撃。
それは巨人の頭頂から足元までをなぞる様な軌跡を描く。
両方向に分かれ崩れ落ちそうになる巨人。
瞬時に再生しようと断面から双方向に触手を伸ばす。
が、それは叶わなかった。
念法<裂空>による霊的な崩壊。
意味的な死を迎えた巨人にあるのは、後付けされた絶対の死。
その身体が灰燼となり散って逝く。
更に空間を断裂する効果により奈落にも似た虚ろな穴が出現。
巨人の全てを吸い込むとこの世界から永遠に消滅させる。
全身を襲う凄まじい疲労感に意識を失い掛けながら、俺は禍津神に勝利したことを実感した。