121章 反抗に轟きし人々
「セット! 神名<無限>!」
裂帛の声が夜の霊峰に響き渡る。
アルの叫んだオーダーにカムナガラオンラインのシステムがすぐさま呼応。
高次元への回廊を形成し、直結する。
(我が愛しき嬰児よ……)
畏敬を抱く圧倒的な存在感を持った声がアルの脳裏に響く。
しかしその存在から伝わる意志の波動は、全てを護り包み込むほどの慈しみを孕んでいた。
アルの守護神であり魔術的な在り方の根源。
無限光明神アスラマズヴァーの権現であった。
(汝は何を望む?)
『効果・範囲・対象等好きな項目を選んで下さい。
神名<無限>の効力は、魔術の無限化。
貴方の力(センス・スロット・MP)の及ぶ限り増大出来ます』
光明神の問いにシステム的な補助が入る。
アルは既に使用する魔術を決めていた。
先程ミーヌにも言った様に、本来なら霊峰全ての敵を撃退出来れば最善である。
だがウインドウに表示された敵性存在の数は519。
対象の無限化で対応しようにも個別に使用されるMPの総量は膨大になる。
無論ミーヌとリンクする事によりMPを共有化すればその問題は解決できる。
が、前衛型であるアルの魔術センス及び術式スロットでは一度に行使できる魔術数に限りがあった。
よってアルが選んだのは洸魔術でも初歩の術。
されど効果でいえば甚大な力を秘めたものでもある。
腰元の収納ポーチに手を伸ばし、触媒である雷酸水銀と発光マグネシウムを取り出しながら神名<無限>を併用、魔術に重ね発動する。
「光閃<フラッシュ>」
目を覆う程の光度をもった眩い輝き。
それは神名<無限>の恩寵を受け効果範囲を拡大しつつ限定化。
敵性存在519体のみを狙う。
「がああああああああああああ!!!」
「ぎゃううううううううううう!!!」
霊峰のあちらこちらで一時的な行動不能に陥る妖魔達の絶叫が響き渡る。
光の属性を扱うエキスパートである洸魔術師は、本来ならば味方をも巻き込みかねない閃光魔術の対象の限定・効果範囲の矮小などを自在に行う事ができる。
今アルが行ったのもその応用で、敵性存在のみを狙うだけでなくその網膜だけをピンポイントで灼いたのだ。
視覚に依存する妖魔、特に夜型の存在達に対しこの攻撃は劇的に効いた。
だが、
「くっ……」
「アル!」
急激な魔力の枯渇。
全身を襲う倦怠感。
気の消耗とは違う精神の疲弊。
崩れ落ちそうになる膝を聖剣に寄り掛かる様にして回避する。
熟達の洸魔術師であるアルティアだったが、レベルが低いスペルとはいえ流石に数が多過ぎた。
個々の消費は微少とはいえ累積すれば馬鹿にならない。
ミーヌに呪文補助等の術式を付与されていたとはいえ、神経系の負担も大きい。
アルの窮状に急ぎ魔力を供給するミーヌに苦悶しながら感謝し、じっと堪える。
けれどその結果は目覚ましいものだった。
閃光に悶絶し地に伏す妖魔達。
そこへアルの呼び掛けに拳を上げて奮起した人々が駆け寄り、手にしたツルハシやスコップなどを振り下ろす。
「みんな! 自由を取り戻すぞ!!」
「ザオウをオレ達で解放するんだ!!」
「「「「「おおおおおおおうっ!!」」」」」
霊峰の各所で勇ましい歓声と雄叫び、咆哮が上げる。
人質を取られてた為に表立って動けなかった防人や術師達もここが好機とばかりに腕を揮う。
闇夜に轟く喧噪と怒号。
カルデラ湖であるお釜を見下ろすアル達の下、捕囚だった人々による反抗が始まった。