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116章 少年を慰撫す勇者


「危ない所を助けてくれてありがとうございます!

 オレの名はソータ。

 こっちのはタツキ。

 神名担の勇者様達に出会えるなんて光栄です!!」


 駆け寄って来るなり興奮で顔を上気させ、全力で頭を下げる少し年嵩の少年がソータ。

 おっとりとソータを見詰め、ソータに急かされ慌てて頭を下げた子がタツキらしい。


「よせよ、顔を上げてくれ。

 俺達はそんな大した存在じゃない」


 そう、たまたまウインドウの索敵範囲にソータ達を捉えたから急行できた。

 検索条件に「怪我人 困った人」などのワードが含まれていたのが功を制した。

 通常なら鬱蒼と茂る森の中、窮地に間に合うか微妙なタイミングだっただろう。

 まるで英雄叙述詩のような都合のいい展開の連続。

 綾奈の教育やクラスメートのゲームに関する情報からそれとなく聞いていたが、もしかするとこれが『フラグ』というやつなのだろうか?


「でも勇者様達が……」

「その勇者様ってのはやめてくれ。

 俺の名はアルティア。

 アルでいい」

「アルティア……様」

「アル」

「アル……様」

「様はいらないし、敬語も必要ないぞ」

「じゃあ……アル」

「お、言えたな」

「アルばっかりズルイ。

 私の名はミーヌという。

 アルの相方なんだ。よろしくね」


 強引に手を取り握手するミーヌ。

 はにかんだ笑顔を見せ照れまくるソータ。

 常人離れした美貌を持つミーヌに優しくされたら男なんてチョロイもんである。

 朴念仁と揶揄された俺だってミーヌにあんな態度を取られたら勘違いするだろう。

 そんなソータを少し面白く無さそうに見てるタツキ。

 自分に構ってもらえない為か、はたまた違う理由か。

 露骨な膨れっ面も可愛いもんだ。

 ここで気付く。

 へ~そういうことか。

 どれどれ、ちょっとお兄さんが助け舟を出してやるとしますか。

 談笑を始めたミーヌとソータに、間を壊さない程度に割って入る。


「盛り上がってるとこ悪いな。

 それにしてもソータ。

 少し事情を聞きたいんだが……構わないか?」

「その前にこちらからもいいかな、アル」

「ん? 何だ?」

「助けてくれて、ホント感謝する。

 アル達が駆けつけてくれなかったら、オレとタツキは見せしめに殺されてたんだ」

「穏やかじゃないな……どういう事だ?」

「オレとタツキはザオウの強制収容所兼鉱山の現場から抜け出してきたんだ。

 あそこでは日夜過酷な労働に皆駆り出されてる。

 タツキと同年代の子だっているんだ。

 今はまだ死者はいないけど、それすら時間の問題だ。

 皆を置いて逃げてきたオレが本来頼めることじゃないかもしれない。

 だけど、頼む。

 皆を……ザオウを救ってくれ。

 禍津神マガツガミを斃して岐神くなと様を助け出してくれ!」


 苦しみを吐き出すように吐露し、その場に跪くソータ。

 皆を置いて逃げてきた自責の念がそうさせるのか、熱い雫が地面を濡らす。

 俺は優しくソータの肩を叩くと、手を貸し立たせてやる。

 膝の土を払い身なりを整えてやった後、じっとソータの目を見る。

 不安げに揺れる瞳。

 俺はその目を見ながらゆっくり頷く。


「任せろ」


 その言葉に涙腺が決壊するソータ。

 まだ15前の少年だ。

 幼いタツキを連れ逃げるにしてもその重責は如何なるものだったのか。

 俺はソータの隣りに立ち、頭を撫でながら言ってやる。


「頑張ったな、ソータ」

「でもオレ……えぐっ、皆を置いて……」

「人それぞれ戦い方にも色々ある。

 俺みたいに力で戦う者もいれば、知恵で戦う者だっている。

 ソータはソータにしか出来ない方法でタツキを守ったんだ。

 それはお前にしか出来ない最善を尽くした結果だ。

 だから二人は今こうして生きてここへいるんだろ?

 なあ、タツキ」

「うん。ソータ兄ちゃん。

 ボクを助けてくれてありがとう!」


 満面の笑みでソータに抱きつくタツキ。

 負けじとタツキを抱き締め返すソータ。

 ソータの涙に手にしたハンカチを渡せずまごまごするミーヌ。

 そんな光景を可笑しく思いながら、霊峰を見上げる。

 山の端々から蒸気が立ち昇る。

 噴火ではない人口的な煙。

 あの煙の下には今も苦しむ人々がいるのだろう。


(報いは受けてもらうぞ……必ず、な)


 俺の内より少年達をここまで追い詰めたモノ共への闘志が溢れ始める。

 ムトー老との約束だけじゃない。

 どこかの誰かの笑顔の為にも、改めて俺はそう誓うのだった。



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