106章 寝起に感謝す勇者
戸口に人の気配。
意識が急激に覚醒。
害意を及ぼす気が感じられない事を確認。
臨戦態勢に入っていた心身の緊張を緩和。
魔力回路を巡る魔力。
チャクラから生み出された気。
昂るそれらを意志の力で鎮めていく。
完全に鎮静し自制完了。
俺はゆっくりと閉ざしていた目を開ける。
窓から差し込む日差しが眩しい。
ベットから上体を起こし背伸びをする。
強張っていた筋肉が活性化。
柔軟を兼ねて深呼吸。
澄んだ朝の空気が肺に染み渡り心地良い。
隣りで寝ているミーヌが寒そうに身じろぎする。
俺が起きたスペースから入った空気が冷たかったのだろう。
毛布を掛けて隙間を埋める。
無意識なのか毛布を持つ手に頬擦りするミーヌ。
(寝顔も可愛いな……)
そんな事を思う自分に正直驚く。
ここは村の中とはいえ、ヘルエヌの上書きした世界の一端。
言うなら敵地でもあるのに。
(浮かれてるな、俺は)
おめでたい自分に苦笑する。
だがこんな安らかな朝は本当に久々だった。
気力が漲り心が満ちる。
愛しい人が傍にいる幸福。
あらためて天の采配に感謝したい。
俺は自らの想いの向くまま、ミーヌの頬を撫でてやる。
それを待っていた訳じゃないだろうが、ノックの音が響き渡る。
「失礼します」
朝から快活なアーヤの声が聞こえた。
相変わらず元気な娘だ。
俺は昨夜の宴で飲み過ぎた為か、少し嗄れた声で応じる。
「は~い。どうぞー」
「おはようございます、勇者様。
朝食の用意が……って、きゃ!
す、すみません!
準備が出来たらおいで下さい!」
俺達を見た瞬間、アーヤは赤面しそそくさと出て行ってしまう。
えーっと、これはつまりあれか。
昨夜のマッサージ前に各種装備を外した為、軽快な服装の自分とミーヌを改めて見てみる。
寝る時はパンツ以外着込まない俺。
ショーツとブラに薄着のシャツを纏っただけのミーヌ。
寝乱れた(ミーヌは意外と寝相が悪い)毛布。
そりゃあ誤解されるってもんである。
(意外と潔癖なんだな……)
面倒だが後で誤解を解く事にしよう。
あらぬ疑いに嘆息すると、幸せそうに微睡むミーヌを見やる。
むにゃむにゃ寝言をもらし、微笑むミーヌ。
俺もつられて笑うと、触手のように飛び跳ねているミーヌのアホ毛を撫でるのだった。