103章 華麗に勝利し勇者
冷静に眷属の動向を窺う。
すぐに襲ってくる気配はないものの、不可解な螺旋を描くのみ。
後の先待ちなのか?
ならばこちらから仕掛けるとするか。
俺は聖剣に魔力を通すと洸現刃を発動。
刀身を光の刃でコーティングする。
眷属の体は強酸性の血液で形成されている様だが、これなら剣身が腐食される事もあるまい。
輝く魔力が剣先を覆うのを確認するのよりも早く、後ろ手に聖剣を握った俺は眷属へ駆ける。
スピードに乗った俺の身体は流れる様に瞬時に間合いを詰め、うねる眷属の体へ斬撃を――
叩き込もうとした瞬間、直感スキルが警鐘を鳴らす。
目の前にいるこいつは本体じゃない!
むしろ地面に沁み込んだ血液こそが……
俺は死中に活を求めるべく、前方の眷属を無視し飛び込む。
刹那、勢いを無くし俺に降りかかる血液。
五月雨の様なそれを前回りで回避。
だが全てを躱し切る事は出来ず、強酸性の血がインバネスに覆われてない剥き出し部分に数滴弾く。
煙を上げる肌。
侵食される激痛を意志の力で押さえながら、着地し様に足を踏ん張り転身。
するとつい今しがた俺が佇んでいた位置より、地面から伸びあがった血の槍が幾条も空を貫いていた。
それは獲物を捉えられなかった悔しさにいやらしく身を捩らせる。
ヤバかった。
目の前の奴を倒す事にかまけてたらモロに強酸の洗礼を喰らうとこだった。
後の先どころじゃない。
こいつは生者を殺める事に特化した禍々しい思考の持ち主だ。
改めて剣先を向けた先、血液が凝固していき何かのカタチを形成し始める。
驚いたことにそれは鷺に似た奇妙な鳥だった。
その色は緑黒く、灯火が燃えているかのように目が爛々と光る。
羽を振るって鳴くその声はまるで人間のごとし。
「アル! そやつは『陰魔羅鬼』だ!」
油断することなく様子を見る俺にミーヌの回復・支援魔術と助言が飛ぶ。
瞬く間に腐食による傷が癒える。
四肢強化魔術により身体が活性化されるのを感じながら、俺はミーヌに尋ねる。
「何だ、それは!?」
「禍那が刻まれた屍体の気が変じてそのような化物になる。
そやつの本体は血の様に見える<気>だ!
全てを吹き飛ばさぬ限り、何度でも復活する!」
応じ様ミーヌは小鬼達の屍体を火球で焼き尽くす。
死者を冒涜したのではない。
再度陰魔羅鬼が発生しない為と、再生の為の供給源を絶ったのだ。
燃え盛る劫火に口惜しそうな鳴き声をあげる陰魔羅鬼。
怒りに燃えた視線を俺に向ける。
俺は極めて冷静に視線を受け流すと、闘気を剣先に集わせる。
「どうした? 不意打ちはできても正面からは掛かって来れないのか?」
小馬鹿にした俺の挑発に、怪鳥音を上げ翼を広げる陰魔羅鬼。
その翼の羽根が手裏剣の様に放たれるより速く、俺は溜めた闘気を解放。
「ノルファリア練法<波濤>!」
不可視の波動が莫大なうねりをあげ迸る!
悲鳴をあげる隙すら許さず、
意志の力が秘められし闘気は陰魔羅鬼を形成する気を全て吹き飛ばした。
唖然と俺を見るミーヌに俺はウインクで応じる。
「大した再生力を持ってるようだが、要は<気>なんだろ?
ならば同系で高質の気で吹き飛ばせばいい。
あんま難しく考えないでみた。
ざっとこんな感じかな」
「まったくアルときたら……三無主義というかシンプル。
今の陰魔羅鬼も相当高位の眷属なのだぞ?
色々推察した私が馬鹿みたいじゃないか。
流石はバランスブレーカー、チートっぽい」
苦笑するしかないミーヌ。
ミーヌの言葉に俺は肩を竦めると、俯せに倒れ伏す少女へ歩み寄る。
こうして仮想世界初の戦闘は軽く負傷しながらも快勝を遂げたのだった。