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102章 眷属に相対し勇者

 ミーヌと共に草原を駆け抜ける。

 熱く激しく。

 冷たく静かに。

 加速する視界の中、前を見据える。

 やがて穏やかな風になびく草原を走り抜けた先、村近くの広場にいたのは小鬼ゴブリン妖魔に襲われる少女。

 少女は必死に村へ駆けこもうとするも、小鬼達はそれを嘲る様に笑い蹴り倒す。

 草原に響き渡る痛々しい悲鳴。

 奇妙な既視感がよぎる。

 まるで英雄叙述詩の様な展開。

 脳裏にここが電脳空間に構築されたゲームという事が思い浮かぶ。

 だが……

 だからどうした?

 懸命に救いを求める少女の哀願。

 切なげに空へ伸ばされた華奢な手。

 それだけで理由は充分だった。

 仮想世界。 

 襲われる事情。

 約束された予定調和。

 そんな事など知ったものか。 

 助けを求める人がいて、ここに俺がいる。

 ならば俺は弱き人々を救う為に闘える!

 目線を隣りにやれば暖かい眼差しで俺を見、頷き返すミーヌ。

 心が満たされ闘志が漲る。

 阿吽の呼吸でミーヌが走りながらの高速詠唱。

 驚異的な速度で紡がれた術式が少女へ飛ぶ。

 蒼き魔力を纏ったそれは防護・回復・障壁の効果を兼ね備えるヴェールとなる。

 突如として発動した魔術に驚く少女。

 しかしそれが害意をもったモノでなく、自らを守るものと知り安堵したようにその場に倒れ伏す。

 無論俺も事態の成り行きを見守っていた訳じゃない。

 聖剣を抜き様、流水のごとき剣筋で瞬く間に小鬼達を斬り捨てていく。

 流石に初心者冒険者の腕試しと呼ばれる小鬼妖魔。

 ミーヌの支援魔術を待つまでもなく、10数匹いたそれらを苦も無く退けた。


「大丈夫だったか?」


 動くモノがいなくなったのを見届け、震える少女の背に優しく声を掛ける。

 その時だった。


(油断するな、馬鹿者!)

「危ない、アル!」


 切迫したヴァリレウスとミーヌの警告と悲鳴が飛び、俺は瞬時に身を反らす。

 回避した俺のすぐ真横を過ぎる刃の濁流。

 よく見れば、それは小鬼達から流れ出た緑色の血で出来ていた。

 まさに危機一髪。

 血の飛沫が落ちた地面が煙を上げてるのを見てそう思う。

 どうやら強酸にも似た性質を持つらしい。

 危なかった……警告が少しでも遅ければ深手を負っていた。

 決して慢心していた訳じゃない。

 だけど確かに小鬼達は皆絶命した筈、なのに。


「いったい何だ、こいつは!?」


 思わず出た俺の疑問に、


「アル……それは眷属だ」


 と、魔杖を構え直すミーヌが答える。

 俺は思わずその顔を見る。

 何故ならミーヌの声には緊張の意がありありと込められていたから。

 カチューシャで晒された美しい額に、似つかわしくない一条の汗が浮かんでいるのを見て俺は尋ねる。


「眷属?」

「世界を支える神々に対し、ただ混沌と破壊をもたらす災厄が禍津神。

 その禍津神より『神名』に反する『過那まがつな』を身体に刻まれたモノが眷属。

 世界を蹂躙する悪しき存在の総称。

 気をつけて、アル。

 そいつらの中に禍津神の恩寵を受けた奴がいたみたい。

 半ば亜神化してる奴等は生半可な手段では斃せないし、斃れない」

「さっき言い掛けたのはそれか……」


 まったく初っ端からこれとは。

 ゲームバランスが悪いとしか言いようがない。

 俺は聖剣を正眼に構え、気と魔力を練り始める。

 呼応するかのごとく螺旋を描き宙に踊る血で出来た刃。

 仮想世界たるカムナガラ。

 その初戦闘はこうして幕を上げた。







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