101章 解説に反省な勇者
「アル……改めて私が解説するのも何だけど……
命に係わる大事な事だから、しっかり聞いてほしい」
「はい……すみません」
正座し猛反省する俺。
ミーヌはいずこから取り出した眼鏡を掛けながら俺にレクチャーし始める。
「この<カムナガラオンライン>の基本操作は大きく分けて、
メニュー
ウインドウ
セット
の3つになるの。
ウインドウはさっき見たよね?」
「ああ、中空に出る窓みたいなヤツだろ? 地図が出てた」
「そう……様々な情報を恣意的に表示できる。
指で宙に横線を引いて「ウインドウ」って言うか念じてみて。
このカムナガラでは琺輪世界のスキルと同じく、念じただけで操作出来るから。
さっきのウィンドウは
「MAP 周辺地図 名称」
で検索した結果を表示したの。
アルもやってみて」
「おう」
正座から勢いよく復帰した俺。
宙に指で横線を引き「ウインドウ」と呟いてみる。
無論、ミーヌが検索したのと同様の内容を念じながら。
すると中空が輝きスーっとウインドウが浮き出た。
先程のミーヌ同じ周辺のMAPが表示され、下には
『始まりの草原』
(カムナガラオンラインへようこそ。
ここは始まりの草原。
初心者の皆様はここで戦闘や狩猟、採取採掘等の基礎を学んでください)
との注釈が浮かび出た。
成程……これは便利だ。
俺の扱う洸魔術の<光波反響>に似た効果を、こんな簡単な操作で広域に行えるとは。
軽く驚く。
光波反響と同じく敵性反応を探ったり任意対象を検索し、はしゃぐ俺。
そんな俺に気を良くしたのか、ミーヌが微笑みながら眼鏡をクイッと上げる。
「ウインドウの使い方は大丈夫?」
「ああ、面白いなコレ。
これだけでしばらく遊べそうだ」
「フフ……アルは単純なんだから。
じゃあ次、メニューについて説明するね。
アルは冒険者カードを持ってたよね?」
「ああ、勇者になる前は一介の冒険者だったしな」
「メニューはそれと同じ。
使い方もウインドウと似てる。
そう……例えるならメニューは状態や環境設定を主体とし、
ウインドウは周辺情報を表示する感じかな?
運命石の<囁き>や<記し>の力も制限なく使えるし」
「電話やメールの様な?」
「うん。そんな感じ。
だからメニューを呼び出すと
名前
レベル
クラス
称号
ステータス
装備
スキル
加護
通信
環境設定(時計表示や使用言語、常在視界表示の有無等)
が表示される。
縦にこうして指を振って念じてみて」
ミーヌが指を縦に振ると、今度は縦に輝きが奔りメニュー一覧が宙に浮かぶ。
俺もミーヌに倣って表示してみる。
「これだけだと冒険者カードと同じだけど、カムナガラオンラインのいいとこは装備や神名の変更が一瞬で行える事。
敵対する禍津神や眷属を相手取る際に必須な技能だから覚えててほしい」
「了解。それは構わないが……
神名や禍津神って何だ?」
「神名は加護を賜わった神々から受ける称号。
例えば私だとこんな感じ。
ステータス表示も合わせて見てみて」
ミーヌがメニューを操作し、俺に開示する。
横合いに並び立ち覗き見る。
寄ってきたミーヌの胸が肘に当る。
(やっぱりかなり大きいよな……)
至福の感触に思わず頬が緩む。
……って、駄目だ!
意識するな俺。
ミーヌがこんな懸命に解説してくれてるんだ。
生き様だけでなくこんなふらちな事を考えてると知られたら、ミーヌに嫌われはしないだろうが更に呆れられる!
俺は「おっぱいは宇宙だ」と囁く煩悩を無理やり断ち切り、メニューを見る事に専念。
そこにはミーヌのステータスが表示されていた。
ネーム:ミーヌ・フォン・アインツベール
レベル:95
ランク:AAA
クラス:マジックマスタリー(???)
称 号:絶対 暗黒
ステ表:魔力S 体力B 筋力B(?)
敏捷A 器用A 精神A+
装 備:魔杖レヴァリア(亜神:ミィヌストゥール)
法術結界衣(軽量化・防護強化付与済み)
ヒヒイロカネのカチューシャ(全耐性付与済み)
抗魔・増魔の霊石
スキル:アイツンベール流魔導(魔術:マスター)
アイツンベール流闘技(格闘:マスター)
闇魔術(後衛戦闘型:グランドマスター)
零属促進回路形成(常在型)
汎用型術師セット(増幅・拡大・延長等々)
加 護:幻朧姫(旧神:咲夜)
暗黒神(旧神:アーリマトゥール)
っていうか、ミーヌって俺よりレベル高かったのな。
勿論ミィヌストゥールとしての能力はほぼ失われ弱体化してるんだろうが……
それだけ『ミーヌ』が有能だったのだろう。
でも正直一番驚いたのは数々の魔導技能ではなく闘技(格闘:マスター)という表示。
やっぱね……あの空中コンボはスキル無しじゃ出来ない技だわな。
おそらくこれも『ミーヌ』が身に宿してたスキルなんだろうけど、ミーヌも扱えるらしい。
(浮気はしません。
喧嘩したら……速攻謝ろう)
情けない事考えつつ俺は決意した。
煉獄の責め苦を思い出し身を固まらせる俺を、熱心に見入ってると勘違いしたミーヌが語り掛けてくる。
「ここに表示されてるこの称号というのが神名。
アーツとしてセットする事が出来る。
あ、アーツというのはカムナガラに置けるスキルや魔術の総称ね。
セットというのは装備する事に似てる。
任意のスキルや魔術をセッティングし瞬時に発動するのが可能なの。
例えば私の眼鏡とかどこから出たか不思議でしょ?
これは衣装として装備にセットされてるから、すぐに取り出す事が出来たの。
神名は常在型の加護よりスキルに近いかな?
私だと<絶対><暗黒>の2種類。
これはスキルや魔術に特性を持たせられる」
「特性って……神担武具のような?」
「うん。魔術に<絶対>を神名を用いれば絶対魔術の特性を得られる。
ただ乱用は出来ない」
「何故だ?
強力なものならどんどん使えばいいじゃないか?」
「神名は一度使うと新しい神の加護を得られるまで再度使用する事が出来ない。
ステータスからも除外されるしね。
称号は所持してるだけでNPCや眷属の友好度を得られるし、耐性もつく。
私だとカムナガラ内では<暗黒>属性や闇の眷属による攻撃や特性では傷つく事がない」
「お~それは凄いな!
確かに神名を集めろと忠告された訳が分かる」
「だからアルも神名の使い処には気を付けて?
躊躇しないのも大事だけど、
神名はカムナガラを生きる上でのライフラインだから」
「ん~分かった。大事にする。
そういえばミーヌ」
「なぁに?」
「俺だと<光明><無限><暁闇>の称号っていうか、神名があるけど……
これって?」
「<光明>は光属性無効の耐性と光の眷属友好度が得られるし、
<無限>は多分効果範囲拡大系に使えると思う。
でも無限はひどい。
アルの称号ってチートだと思う」
「いや、そんな事言われても……最初から所持してたし」
「フフ……冗談。
でもその二つは推測できるけど、正直<暁闇>は……よく分からない」
「そっか。まあ神名の有効性は理解出来たし、マジで助かったよ。
んで気になる禍津神ってのは?」
「禍津神というのは……」
ミーヌが得意げに人差し指を立てて説明しようとした時、
「きゃああああああああああああああああああああ!!」
と絹を裂くような悲鳴が草原に響き渡った。
遠くに見える村の方かららしい。
俺達は見つめ合い一瞬で意志をやり取りし、頷き合う。
ゲームとはいえ、そこに助けを求める者がいるなら俺は行かなくてはならない。
だって俺は「勇者」だから。
職業じゃなく、自分で選んだ生き方が勇者だから。
絶望を希望に変えなきゃ……カッコ悪いだろう?
ミーヌが高速移動の術を使い補助してくれる。
悲鳴の主が無事である事を祈りながら俺達は仮想世界の草原を駆けるのだった。