間章 分霊作成にて(アバターメイキング)
眼を開けるとそこは広大で薄暗い空間だった。
外界へのゲートをくぐった筈なのに、またも神域に戻ってしまったのだろうか?
だが荘厳さの欠片もない簡素な雰囲気にここが神域外という事が推測できた。
ふと周囲を見渡せば、ここにいるのは俺一人の様だ。
ミーヌの気配はするし心で繋がれたラインも無事。
どうやら同一でありながら隔てた空間にいるらしい。
そんな事を考えてると、奥の方から一枚の絵画が飛んできた。
画布一面に扉のイラストが描かれ、その上には抽象的な人の顔が浮かんでいる。
絵画は行く手を遮る様に俺の前に突き立った。
人面は俺を見据えると、厳かな声色で語り始める。
「ここを通らんとする者は何者ぞ?」
(ようこそ「カムナガラオンライン」へ。まずは貴方の名前と性別を登録します)
人面の語り出した後、注釈するように扉の上に文字が浮かびあがる。
無機質で感情を交えないやり取り。
成程……俺達はさっそくゲーム世界とやらに捕らわれてしまったみたいだ。
俺は盛大に溜息をつきたい衝動を堪えつつ、いつの間にか手元に浮かんでいるボードへ自分のデータを入力する。
「名前:アルティア・ノルン
性別:男性、っと」
「アルティア・ノルン。それが汝の名か?」
(決定後は変更できません。これでよろしいですか?)
「ああ、そうだ」
「その名ならば秘められし力がある筈」
(職業とステータスを割り振って下さい)
「職業?
……おお、すげーな。いっぱい出て来た」
手元のボードの上に職業一覧が表示される。
戦士・盗賊・僧侶・農民・術師・狩人・技師等々、実に様々だ。
レベルが上がれば上位職に転職する事も可能らしい。
俺は軽い思慮の末、剣士を選んだ。
幼少から父に鍛えられた経験もあるし、やっぱりこれが一番しっくりくる。
ステータスは琺輪世界と同じ、ランク付けされた階位を上げるパターンだった。
ランクが上がれば上がるほど各技能の成功率や場面解決に反映されるとの事。
スタート時のステータスは一律Eランク。
しかし今この場で2つだけランクを上げる事が可能だ。
その他は戦闘等で得られる経験ポイントやクエストを達成した褒賞ポイントでランクをアップできるらしい。
俺は筋力と敏捷性を1つずつ上げDランクにした。
「汝が宿業は定まったか?」
(決定後は変更できません。これでよろしいですか?)
「おう。構わないぞ」
「では剣士アルティアよ。
よくぞこの世界に参った。
これから先、汝には苦難が待ち受けている。
時には辛苦を味わい辛酸を舐める事もあろう。
だが屈するなかれ。
この世界を見守し神々より汝に祝福を送ろう。
さあ選ぶがいい」
(スキル・神々の加護を選択して下さい。
既に幻朧姫(旧神:咲夜)の加護を所得してます。
選択し、使用しますか?)
スキル一覧の上にサクヤの名前が挙がっている。
俺は迷わず選び使用する。
(データをコンバートしてます……
………………容量を超える情報です。
移行しますか?)
「続行、と」
(………………マルチタスク起動。
GM権限における七層までの開示効果。
規定外のアプリケーションによる干渉を確認。
………………終了しました)
タスクが終了したと表示された瞬間、燐光を上げ俺の身体が煌めく。
光が収まるとそこには見慣れた姿の自分がいた。
各種耐性に優れた夜狩省の制服の上に真魔銀の鎖帷子。
薄汚れた抗魔のインバネスを纏い、腰には鞘に収まった聖剣。
様々な小物も無事ポーチに収まっている。
力を込めれば気の循環と魔力回路の起動が確認できる。
どうやら先程サクヤの言っていたGM権限と旧神の事象干渉能力が無事発動した様だ。
為すがままゲームの流れに乗っていたが、初心者状態からの再出発、という最悪の事態は避けられたみたいである。
いざとなればレベル1からでもやり直す覚悟はあったが、出来るなら勘弁してほしい。
俺はアイコンを操作し、自分のステータスを簡易表示してみる。
ネーム:アルティア・ノルン
レベル:91
ランク:AA
クラス:ブレイブマスタリー(???)
称 号:光明 無限 暁闇
身 長:182
体 重:68
ステ表:筋力A+ 体力A 魔力B
敏捷A+ 器用A 精神S
装 備:聖剣シィルウィンゼア(亜神:ヴァリレウス)
概念武装< >
真魔銀の鎖帷子(軽量化・防護強化付与済み)
夜狩省霊装衣(全耐性付与済み)
抗魔のインバネス
スキル:ノルファリア練法(剣術:マスター)
洸魔術(前衛戦闘型:アデプト)
闘気術(前衛戦闘型:天仙)
気と魔力の収斂(増幅率:7倍まで)
汎用型勇者セット(直感・鑑定・交渉等々)
加 護:幻朧姫(旧神:咲夜)
光明神(旧神:アスラマズヴァー)
剣皇姫(亜神:ヴァリレウス)
……うん、あれだ。
こうして改めて見てみると、俺って結構チートなステータスをしてる気がする。
血の滲む努力の結果だから卑下はしない。
様々な偶然と数々の人々の恩恵によって今の自分が在るのも確かであるし。
まあこの状態でゲームに、ヘルエヌに立ち向かえるなら勝算はあるだろう。
「さあ、汝が旅立ちの時はきた。
助言は必要か?」
(ゲーム内のチュートリアルをしますか?)
「面倒だからNO、と」
「ではアルティアよ。
強き魂(神性)を持つ者よ。
神名を集め堕魂の禍津神を討つのだ!
今ここに、楽園への扉は開かん」
(カムナガラオンラインスタートです。良い旅路を)
仰々しい物言いと共に人面は消え、扉が開く。
俺は苦笑しながらも優しい光が満ちる扉の中へと足を踏み入れるのだった。