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序章 最終決戦にて(ファイナルバトル)

 渾身の力と闘気を込めた剣先が瞬時に展開された緩衝結界に弾かれる。

 空恐ろしい程精緻な構成力。

 並びに自動修復する復元力。

 斬る事に特化した聖剣でも、一瞬では多重結界を壊しきれない。


(聖剣の力を解放してもこの差かよ!)


 驚愕する暇もなく奴から繰り出されるのは闇の咢。

 二次元を介したそれは、触れれば防御無効の必殺魔術。

 反射的に蹴り出した足先を使い、奴を押し出すような形でその場から回避。

 転がり込む様にして間合いを取る。

 肩で息をする俺。

 しかし無理もないかもしれない。

 連戦に次ぐ連戦。

 疲弊した肉体は休息を求め、

 枯渇した魔力は安息を欲してる。


(あと少しだけ持ってくれよ、俺の身体)


 萎えそうになる身体を最早気力だけで支える。

 それにしても……ここまで隔たりがあるとは想定外だった。

 刹那にも満たない攻防。

 だが俺が今思い抱くのは、人と魔族という絶対的な性能の差。

 特に相手が統括上位魔族クイーンクラスともなれば尚更だ。

 肉体的性能のみならず、魂の位階が違う。

 神々の魂を宿した神担武具<聖剣シィルウィンゼア>の助力を受けてさえ、その戦力差は絶望的と云える。

 だから俺が出来るのはホンの詐称だけ。

 物理的に斃せない相手なら、強引に結果という演算を叩き込むのみ。

 半身に構え、担ぐように聖剣を持ち直す。

 防御は考えない。

 全てはこの一撃の為に。

 今は亡き戦友が教えてくれた<  >を使い、世界の認識を改変。

 全生命力・闘気を<滅び>という事象の概念と化し、一瞬の隙に全てを賭ける!





「見事だ……

 人の子よ……」


 胸元を貫く聖剣を、寧ろ愛おしげに見つめながら、

 女身半蛇の魔族の女王<暗天邪ミィヌストゥール>は嗤った。


「絶望が人を殺す……

 次々と仲間が斃れ逝く中、汝はどこまでも諦めなかった……」

「皆が切り開いてくれた道だ。

 ……俺一人なら、決してお前を斃せなかった」


 女王が控える魔族の城<コキュートス>の玉座。

 ここまで来る為に死んでいった戦友達の顔を思い出す。

 百人の勇者と謳われた俺達。

 豪快な戦士がいた。

 勇壮な弓手がいた。

 繊細な術師がいた。

 武骨な岩妖精や美麗な森妖精達もいた。

 今、息をしてるのは俺だけ。

 その現実が俺を苛ます。


(だけど!)


 俺は聖剣の柄を最後の力を振り絞る様に熱く握り締めながら言い放つ。

 人としての儚さ、そして強さを。


「無駄じゃなかった。

 皆の意志、

 皆の想い、

 皆の願いは刃となり……

 お前に届いたんだ」

「それが汝の強さ……

 <希望>の起源を持つが故の不屈。

 有り得ぬ事を為しとげる可能性の奇跡。

 計算されえぬ厄介なるものよ」

「これで終わりだろ、女王」

「ああ。されど我にも意地があってな。

 汝を共に連れて逝かねば……示しがつかぬ」


 胸を貫かれたまま、繊手を伸ばし中空に呪紋を描いていく。

 統括上位魔族クイーンクラスが補足呪紋すら使用する魔術。

 それは最早、失われていく「魔法」に値するのではないか?

 そう理解はしていても、

 渾身の力を出し尽くした今の俺に回避する力はなかった。

 いや、回避したところで……

 この場で朽ちていく事は避けられない程の損傷だった。

 だから俺は胡乱げな身体を総動員し、奴を見詰める。

 今の自分に出来る精一杯の抵抗。

 美しくも絶対なる魔族の女王たる奴の顔を。

 俺の視線に、女王は一瞬たじろいだ様子を浮かべるも、


「我の考案せし闇の術法。

 共に黄泉路に参ろうぞ、勇者よ」


 淫靡に光る唇が囁き、

 蠱惑に妖しく微笑み、

 俺のそれに重なる。

 次の瞬間、圧倒的とも云える魔力の奔流が俺と女王を包み込んだ。


(ごめんな、カレン……

 約束、守れそうにない……)


 薄れゆく意識の中思ったのは、故郷で待つ幼馴染の顔だった。

 こうして光明の勇者アルティア・ノルンと呼ばれた俺の物語は幕を閉じた。


















 ……筈だったのだが。


「ここは……?」


 覚醒すると同時に意識の糸を周囲に張り巡らす。

 害意なき周囲の気配に警戒を徐々に解いていく。

 周囲を見渡すとそこは庭園の様だった。

 夜の帳が降りた庭園内を魔導具で出来た照明が煌々と照らしている。

 遠めに見える塔はまるで天空を貫くかのごとし、だ。

 行ったことはないが、大陸最高峰の英知が集う<サーフォレム魔導学院>のある<魔導都市エリュシオン>なのだろうか?


(先程まで女王と刃を交えていたのに……転移したのか?)


 自らの武装を見渡す。

 手に握り締めた聖剣。

 真魔銀ミスリルで編み込まれた鎖帷子。

 抗呪の紋章が刻まれている、少し薄汚れた黒のインバネス。

 どれ程意識を失っていたのかは分からないが、意識を失う前のままだ。

 強いて言うなら身体が軽い、ということか。 

 俺は困惑する頭を整理する為、聖剣に宿る神霊に語り掛ける。


「我解くる封印の戒め。

 静櫃なる古き褥より来たれ星々の煌めきよ……」


 解封の言霊と共に、聖剣の宝珠より艶やかな女性の思念体が浮かび上がる。


「やれやれ……妾を起こせし馬鹿者は誰ぞ?

 とまあ、お主しかおるまいか」


 呆れた様に呟き、面白がる法衣姿の女性。

 聖剣に宿りし神霊が一柱にて、その名を<剣皇姫ヴァリレウス>という。


「ヴァリレウス……少し聞きたい事がある」

「何じゃ?

 とまあ、聞くまでもなき事よのぅ」


 周囲を興味深げに見渡しながら頷く。


「ここは……何処なんだ?」

「妾とて皆目見当もつかぬ。

 されどこの曇り濁った空に浮かぶ星空の配置、

 更に垣間見える妾達のいた琺輪世界より進んだ文明。

 おそらくここは……異世界よのう」

「異世界……?」

「そうじゃ。

 有り得し可能性の分岐。

 並行世界とも呼ばれるもの。

 おそらく仕掛けてきたのは……ヤツじゃな」


 忌々しそうに呟くヴァリレウス。


「暗天邪ミィヌストゥールが……?」

「ああ、宝珠に在りながらにして感じ取れたあの波動はもはや魔法の域。

 おそらくは世界の境界線を強引に越えたのじゃろう」

「何の為に……?」

「それは正直分からん。

 じゃがここに汝も飛ばされてきた以上、何らかの意味はある」

「ああ、ならば」


 俺は必ずヤツを探し出してみせる!

 と続けようとした瞬間、


「きゃあああああああああ!!」


 という女性の悲鳴が庭園に響き渡った。

 と同時に、疲れ切っていた俺の身体は、その反響を考慮しながら悲鳴のあった方へ駆け出していた。


「行くのか?

 襲われる事情も、如何なる世界なのかすら知らぬというのに」


 思念体故、幽霊の様に宙を舞いながら連いてくるヴァリレウス。

 その顔には成り行きを楽しむ小悪魔的な微笑が浮かんでいた。


「確かに面倒事さ。

 俺だって正直逃げたい時がある……けどさ」


 そこに助けを求める者がいるなら俺は行かなくてはならない。

 だって俺は「勇者」だから。

 職業じゃなく、自分で選んだ生き方が勇者だから。

 絶望を希望に変えなきゃ……カッコ悪いだろう?


「物好きな奴め。

 ほんにお主は……愛い奴よ」


 微笑を極上の笑みへ変え、宝珠に舞い戻る剣皇姫ヴァリレウス。

 何も知らぬ無知な状態のまま、俺は一条の矢となり夜闇の庭園を走るのだった。


 加筆したリメイク版になります。

 良かったら他シリーズも応援下さい。

 アルの子孫が<タガタメ><学園><メイド>シリーズの三兄妹になります。

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