8話.脅迫
改稿済み
「アルマ殿!!」
入ってきたのはジジイ(ノーヴェン)だった、たく、なんだよ折角俺が感慨深く浸ってたってのに
「なんだよジジイ、言っとくが今の俺は有給取ってるような状態だから、仕事手伝えなんて聞けねえ相談だぞ」
おどけた調子でそう言ってやったが、真面目な顔してずんずんと迫ってきた、どうやらただならぬ雰囲気を纏っている
そしてそのまま目の前まで迫り、俺の胸倉を掴んで持ち上げる
「何の――」
「アルマ殿、今回は多少手荒に命令させてもらいましょう」
命令だと!? それは上の立場の者が下の立場の者に向かってすることだ、だが俺はなんだかんだとこいつの上司だ、決して俺に向かってすることじゃないはずだが、ともかく話を聞かないことには始まらないか
「落ち着け、とりあえず話は聞いてやるから下ろせよ」
そういうと頭を冷やしてくれたのか下ろしてくれた、そして直ぐに部屋に置いてあるソファに座った、しかも上座
このやろ、この切り替えの速さは、頭に血が上ってたのかと思ったが演技だったのか
悔しいが年寄り相手に場数の差で負けちまってるか、軽く歯噛みをしながら俺もソファに座る、いやそこまでイラついている訳じゃないが
「それで、そんなに切羽詰まってどうした、いつもはもっと金に纏わること以外は適当だろお前」
「それがですな、儂の実家のコーツ家の方で問題が発生しましてな」
「確かコーツ家って言ったら東の方の大貴族だったか」
気にしてなかったがこいつの家って結構な大手だったな、周辺の中小貴族の元締めをやってるほどだから半端ではないか
「儂は家業継げない三男坊だったおかげでこうして魔術にのめりこんだはぐれ者ではあるのですがな、しかしながらそれなりにも恩を受けている身ではあるので家の頼みを断れんのですよ」
「それで何なんだよその問題ってのは?」
なんだか言い回しが回りくどくって催促をする
「申し訳ないのですが問題の方は詳しくは言えんのですが少し姪がやらかしましてな、多額のお金が必要になったのですわい」
なるほどね、金か、給料前借したりと最近金遣いが粗いとは思ってたがそんな理由があったのか
「どれだけいるんだよ」
「金貨5000枚分、つまり白金貨50枚分ですな」
「はぁあぁあぁぁぁあぁぁ」
白金貨50枚分だと!!! 一体どうしたらそんなにも必要になるってんだよ!
「これは儂だけの量でしてな、総額にするとさらに必要になっておるのですわい」
「あるわけねぇだろそんな額、お前だって知ってるだろ王宮魔術師の実際の給料の額ぐらい」
出世と勤務年数でかなりの高給取りになれる王宮魔術師だが、だからと言ってそこまで資産家になれる訳じゃない、なぜなら自分で研究する分の研究資金は自腹だからだ、これが結構な曲者で給料の7割ほど持っていかれたりしまったりする
「いやはや、分かってはおるのですが、こればっかりは儂も姪の教育を誤ったとしか」
ん? 教育?
「まさかお前が育てたのかその姪は」
「ええ、その通りですぞ、あれには幼きころから金とは使おうと思った時こそ湯水の如く惜しむなと教えておりますからな」
「てことは、お前この前の給料の前借した件は完全な自分用に急きょ用意しただけであって、この話とは関係なかったのか?」
「鋭いですな、その通りですわい、少し南に家を買いましたな」
「自業自得じゃねーか!」
叫ぶと同時に机をたたく、そうでもしないとこのジジイを殴りそうだった
我が身から出た錆、なんでこっちが尻拭いせにゃならねーんだよ
「そういうことなら協力できるかよ、俺だって忙しいんだ、民営の金貸しにでも行けよ、国営と違って話ぐらいは聞いてもらえるさ」
白金貨50枚も貸すようなところはそうそうないだろうがな
話は終わらせたつもりで席を立とうとする、しかしそこで慌ててジジイが引き留めにかかってくる
「お待ちくだされアルマ殿、話はまだ終わってはおりませんわい、むしろここからが本題でございますわい」
ローブの端を掴んでまで引き留めてきたので仕方なしに席に座ったままでいる
それにしても俺を持ち上げたりローブを引っぱたりした感じ結構力があるですけど
「最初に命令と言いましたでしょう、これを見てもまだ儂の頼みを断れますかな」
そう自信満々にジジイは言って、懐から一枚の写真を取り出す
さて何の写真が飛び出してくることやら、書類の捏造か隠蔽か改竄のことか、それともこの前宝物庫に忍びこんで幾つか拝借したことか、それとも中央図書館の禁書室に忍び込んでメモってたことか、大穴でジークの頭に鳥の糞を降らす遊びのことか、何の写真だろうか、まあ大抵の証拠写真なら今更バレタところで痛くも痒くもない、持つべきものはやはり権力者の友人、これに限る
「先日私が『鏡空』を使って盗撮させてもらった、ソフィア姫との逢引の―――」
「『燃えろ』」
「おっと危ないですな、危うく燃やされるところでしたわい、まあ複製がまだまだあるので問題はないのですがな」
くそっ、簡単な魔術だったからレジストされちまった、腐っても王宮魔術師か、消し炭も残らないレベルでやらないと駄目か
「さあ、これを見てまだノーと言えますかな、私はいつでもこれを国王に提出する準備がありますぞ」
その写真には普通の服を着た男と変装して長い金髪をハンチングを被って隠し町娘の服に身を包んだ美人が仲良く手を繋いで市場を歩いている場面が写っている
というか俺とソフィアであることが分かっちゃいますね
「ってめ! それだけはやめろ、いやマジで、やめてください、ほんと、ほんと勘弁してくれ、下さい」
割と切羽詰まって本気の懇願を情けなくとも晒す、だがじじいはすっとボケた顔で
「ジーク国王は極度のシスコ………ゴホン失礼、妹のソフィア姫を溺愛してましたな、まあそれもそうでしょうな、なんたって太后様以外で唯一生きている親族ですからな、さてあの国王様はこのことをどう思うのか」
間違いなくぶっ殺そうとしてくるでしょう、あの王様は結構短気な性格してますし
「ちきしょう、これ命令じゃなくただの脅迫じゃねーか、ほら望みを言えよほら、煮る焼くなり好きにしやがれ」
なんでいきなり命の危機に立たされてるんだろ俺、あのシスコンのせいだろ
「では遠慮なく言わせてもらいましょう、白金貨50枚を稼いできてもらいましょうか」
言いたいことは分かる、だが早急に用意できるはずがない、しかしだ、このタイミングで言ってきたことから分かるが唯一、一つだけ手段が無いことも無い
「いきなり稼げる金額じゃないんだけどそれ」
「おやおや賢きアルマ殿なら分かっているでしょう、勇者召喚をした褒賞で手に入れてこいと言っていることが」
やっぱりか、確かにそれなら出来てしまうだよな、それを確信して来たんだから嫌で有能なジジイだこと
「期限はどうなんだ、頑張っては見るが厳しいことぐらい分かってるだろ」
今回の俺の手段は結構な邪道だから速くはあるがそれでも時間がかかる、ジジイはそれを知らんだろうが普通に開発期間を見積ったら3年は裕にかかる、それを急がせたところで1年だ
「半年で切らせていただきましょう、何きっとアルマ殿なら出来るでしょう」
半年、6か月、どうにか間に合わせられるか
「分かったそれで手を打とう、だが約束だぞ、絶対にそれまでばらすなよそれ、例え俺の生死や所在が不明になってもだぞ」
「約束しましょう、それでは期待して待たせてもらうとしましょう、ですがもし半年で出来なければお分かりでしょうな…………ふはははははは」
不気味な笑い声を残してジジイが出て行った
「ラスボスみたいな笑い声だな」
ため息を1つ吐き、コーヒーを一杯用意してひとまず落ち着く
「さて、遺書と別れの手紙でも用意するか」