6話.謁見以下遭遇以上
改稿済み
「ぐぬおーーー、いってぇーーーーーー」
頭を押さえてカーペットの敷かれた床の上でゴロゴロと悶絶する
痛い、痛い痛すぎる、何で殴りやがった、剣か、ってふざけんなよ、鞘付きだがその鞘金属製じゃねーか、人って簡単に死ぬんだぞ手加減を覚えろよっ!
「アルマ、お前は油断しすぎた、いつどこだろうと攻撃を避ける用意をしておけと何度言ったことか、俺は悲しいぞ、折角お前が遊びに来るだろうと思って取って置きのこいつを披露したっていうのに」
「だからってそれで殴るなっ、国宝だろうが」
頭を押さえて床に転がっている最中だが、ちらりとジークが壁掛けに戻そうとする剣を見る、それはジークが趣味で集めている宝剣の類ではなく、国の創設時の話にも出てくる有名な剣だった、名前は忘れた
「早く座れ、見苦しい上に話が始められない」
「理不尽!」
相変わらず王様らしく理不尽なことを言ってくれる、いくら幼馴染とはいっても王に対面して座るとかどこぞのお固い騎士様が見れば即斬りかかってくるってのに
事情を知らない奴にばれたらまずいなとは思いはするが、未だに鈍痛の続く頭を押さえながら普通に座ってやる、幼馴染としてのこいつ相手に敬意なんざこれっぽっちもないし、あくまで今日の俺は文句を言いに来てるんだ
そういえばこれ応接用の椅子か、流石国賓を座らせるような椅子だ、非常に座り心地がいい、いくらするんだろう、思わず癖で足まで組んで座ったが、ジークと対面と対面してこれって傍から見たら俺は何様なんだろうか、辞める気は更々ないが
「まったく、昔のお前なら回避して反撃がワンセットだったろうに、俺を相手にしたからといって手を抜くな、俺の事をボコボコにしたのを忘れたのか、一度やったのなら二度やろうと罪状は変わらないだろうが」
「あの時は王子だなんて知らなかったんだからノーカンに決まってるだろうが、まさか城下のスラムであんな平民の服着たガキ大将が王子だなんて、当時の状況を考えたなら笑いごとで済む範囲じゃねーんだぞ」
今同じことをしたなら処刑じゃ済まないんだから二度とやってたまるか、一族郎党皆殺しコースで済むのかね? まあでもあの時のおかげでこうやって今は便宜を図って貰えたりメリット一杯だから悪い過去ではなかったか、黒歴史確定の事件ではあったが
「それはそうとしてそれ何だよ」
ジークが持っている人一人ぐらいなら余裕で入る大きなマントを指さしながら聞いてみる、確認した限りだとこの部屋には誰もいなかったはずだ、それが蓋を、というか引き出しを開けてみればこの有り様
どうやらジークは悪戯が成功したことで上機嫌なようで、ニンマリと厭らしい笑みを浮かべながら答えてくれる
「これか、これはな、今回第四研の新しく開発した『透明マント』だよ」
その答えに俺は衝撃を覚える、『透明マント』それは一世代前の魔術師たちが苦心を重ね、研究に実験を何億回と繰り返し、開発目前まで仕上がり、俺の『音鳴り』のごく簡単に発動可能な魔術の察知能力の前に散って行ったものだ、これによって兼ねて寄りの多くの男の夢だった女湯侵入が未然に防がれた、お前らいい年して何考えてんだの一言でも済むちょっとした昔話でもある、再び言うが、魔術の発展に下心は付き物だ
ちなみにこれは表の話であって、裏の話としては一般にそんな魔道具が世に出回ると危険だから表向きは失敗作となり、実際は『音鳴り』に発見されるとは知りつつも製作は続行されたらしい、それが完成していたのならば驚きではある、あるのだが……
「そんなバカなはずがあるか、俺は確かに『音鳴り』で確認して、この部屋には誰もいなかったはずだ」
「だが、それすらも誤魔化せるものが開発されたのならばどうだ?」
さらに厭らしさの増した顔でジークが言ってくる、だがどうなんだろうか、人が存在するからにはどうしても何らかの音が発生せざる負えないのは確かだ、一応は『音鳴り』の対抗策となる魔術は存在しているが、相手はジークだ、そんな魔術が使えるはずもない、それに開発者である俺を掻い潜れるほどの完成度の高い術を発動させられるほどの魔道具が製作できるはずもない
悩みこむ俺の顔を見て満足したのかジークが種明かしとばかりにマントを見せつけながら言ってくる
「分からないか、これはな、使用者の存在を空間から隠すといった効果を持つんだ、俺も理屈までは分からんがつまりだ、これを被っていればどれだけ音を立てようが現実には響かないらしいというわけだ」
「へー、空間ねー………………ちょっと待て、空間だと!!」
あまりの衝撃に理解が追いつかなかった、空間系に繋がる術は総じて高度な術ばかりだ、戦前でのこの国はその分野で他国よりも高度な研究領域にあったらしいが、今では人員不足やら何やらかんやらで完全に停止している、だがそのノウハウつまり観測データは存在していて一冊の書物に纏められている、だが書物は複製が不可能であって、参照するには申請して許可を貰ってからじゃないといけない、そのため俺は以前から許可を申請しているのだが先に借りている奴がいるからと借りられなかった、盗難防止からその借りている奴も教えてもくれなかったしな
「ということは第四研の奴が持ってたのか、くそう一度忍び込んで漁ったてのに見つけられなかったのか」
「お前は仕事もせずに何やってんだ、バカ野郎が」
そう呆れた声で言いながらジークがマントの中に包んであった一冊の本を取り出した、まさしく空間系魔術の資料だった
待て待て待て、ここで食いつくなよ俺、うまい話には裏があるっていうしな、それで騙されて巻き込まれた先月の呪いの歌声事件を忘れたか、クールになれ、クールに対応しろ、常識的に考えたのならこれから申請してあと一カ月は待たされる、役人仕事しろよ
「そうかやっと順番が回ってきたのか、待ったかいがあったぜ」
これ以上いほどの爽やかな笑顔で言ってやった、ふっ、俺だって成長してるんだ、先月と同じミスなど犯すかよ
「そうか、ホレ、見ろよ、めんどくさい手続きは免除しといてやる」
「アーレーー? ちょっと予想外の流れじゃない、えっ何これほんとに借りてっちゃうよ」
「ああいいぞいいぞ、お前のその無駄な状況判断を身に付けた祝いだ」
よしよし、なんか正解したっぽいな、ならもうここには用はない、元々部屋の中に用はなかったんだ、長居は無用だ
「それじゃあ、これ使って研究に励むことにするから帰るわ」
「そうか、頑張って励めよ」
余計なことを言われる前に颯爽と椅子から立ち上がって素早く扉の前まで移動する、これで後は俺を邪魔するのは扉だけ、逃げ切った――――
「そうそう、最期に聞いておきたいことがあった」
―――はずだったのだが、突然ジークが口を開いた、無視したいところだがここまで来て聞こえなかったなんて言い訳は使えない、仕方ないから振り向いて話を聞くことにする、聞いたら即効で逃げれるように準備もしておく
「うげっ!」
うわずった声で驚いてしまった、というかたぶん今の俺の顔相当ひきつってると思う、ジークが手に持っているものを見たとたんにやっちゃったよ、つくづく俺って顔芸が苦手だよ、でもだって仕方がないと思う、その持っているものがある 爵の屋敷の一つに放火してる俺の写真だったらな
幸いピンボケのせいで個人の断定ができないぎりぎりのラインだが、あれなら分かる奴が見れば俺じゃないのかと思えるだろう
「まあ、もう一度座ればどうだ、アルマ」
やけにドスの利かせた声でジークが言ってきた、それはもうさながら死刑宣告を告げる裁判長のような凄味があった
当然、ここで逆らえるような度胸を持ち合わせていないので、可及的速やかに椅子に座りなおさせていただきましょう、ちきしょぉ(涙)
「まあ、とりあえず大体言いたいことは分かってるさ、俺だって最初は文句を言うつもりでいたしな」
「ほぉ、じゃあこの写真についてお前は異論があるんだな」
「茶化すな、さっきの会議のことだろう」
第一、勇者召喚なんぞ大掛かりな術式がたったの半年で出来る筈がない、それを魔術の知識がなかろうとも頭の出来が良いこいつに分からないはずがないんだ
ならばどうしてあんな無茶ぶりをしたのか、予想するならば……………それほどまでに余裕がないということ、だとすると
「魔王の確認された日付は言って無かったな」
「相変わらず知恵は回るようだなアルマ」
「それが仕事だしな、魔術師のそれも王宮魔術師みたいな術の作り手側だと尚更な」
「そうか、だが必死に話をそらしたところ悪いが、こっちの写真については裏が取れてるからな、減俸2ヶ月な」
デスヨネー
いや、対外的に見て俺が悪いのは分かってるから別に良いけどね
「話の腰を折ってしまったな、話を戻そう、確かに言わなかったが魔王の確認されたのは3ヶ月前らしい」
3ヶ月か、それだけあれば魔族側だってそれなり以上に準備はできるだろうな、タイムリミットは半年と言ったが、半年あるかないか瀬戸際と言ったところか
腕を組んで考え込んでいる間に、ジークは顔の形相を凄いことにしながら話を続ける
「あのクレシオンの腐れ神官どもめ、勇者を呼ぶまでの間このことは口外するべからずなどと言いやがったから黙ってやていたというのに、ここにきて破壊されたからできませんなどとほざきやがって、誰が一体困るか分かってやがるのかっっ!!」
ジークの発言はもはや会話というよりかは、ただの愚痴に近いものになってきていた怖いです、国王さん、その怒りの衝動は人に向けないでください、毎度毎度俺が不幸になるんです
よし考えろよ俺、このままこいつの愚痴を聞いていれば、無理難題を押し付けられる、それも自分のアイデアですらなくジークのアイデアを実現させる方向でだ、そうなりたくなければ自分で言い出す案を考えろ、考えるんだ俺…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ああそうか、これならいけるか
「よし、俺に良いアイデアがあるんだ、少し聞け―――――」
俺は一番、俺が不幸にならない為の案を言った