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王宮魔術師は旅へ出る  作者: 逆姓 柳
序章
4/12

4話.愚痴りあい

改稿済み

 

「おいレイリー、これどうするよ?」

 

 俺の呼ぶ声に、軽く金髪の頭をかきながら回転椅子を回してこっちを向いてくれる

 

「いやー、無理じゃないかな、陛下は新しい魔術を造る大変さを理解してないのかな」

 

「とは言っても、出来る出来ないは別としてやらなきゃ前線にまわす満々だぞあれ」

 

 そんなことは俺の望むことじゃないし、若手ばかりの室長が死に急ぐなんざおかしな話だ

 

「困るよね、でも一番希望があるのは第三研なんじゃないかな、今となったら研究方向に縛りの無いのは羨ましいよ」

 

「そうは言われても、こっちはそのせいで集まってきた問題児に手一杯だ、仕事の量を減らすために走り回ったってのに逆に今のほうが仕事が増えたよ」

 

 今更ながらに第三研のシステムはおかしいなものだと尚更思えてくるよ

 

 もともと第三研は医療系の魔術の研究をしていた、いや今もそれが主軸のはずだから、過去形ではなく今もしている、しかしながら第三研に限っては少し特殊な仕組みをしていて、第三研の室員は何の研究でもしていいことになっている、なぜなら俺がそうなるように内部改革をしたからに他ならないから、滑稽にも室長になったあの当時の俺は部下に当たるべき人材、それも入ってきたばかりの新人の育成が大嫌いだった、なので抜本からから変えるべく俺は新人が入ってこれないようにした、それが研究対象の自由化だ、最初はうまくいった、そこには別の研究室から異動してくる現在の研究に満足していない奴が集まってきて新人が入れないほど人員の過剰化、なおかつ異動組は様々なノウハウが判っているので教育の必要性が無い、さらに昨今新人には医療系の魔術が不人気らしくて新人自体が少ない、医療系の魔術はちょっとやそっとの勉強で齧れるような分野でもない、本当に大成功だった

 

 だがしかし落とし穴はここからだ、そもそもわざわざ異動してくる奴がまともであるか、否だ、集まってきたのは大概の場合、居場所がないか問題児か馬鹿か天才だ、あいつらは不幸を軽々しく呼んできやがる、そのせいで俺がどれだけ苦労したことか

 

「でもそのおかげでこっちは楽だよ、テス君は元気かな、僕もだがこの部屋のみんな始末書の処理が減って効率的になったよ」

 

 フフフと口元に手を当てながらレイリーが微笑してくる、ぶん殴ってやろうかこいつ

 

「そらそうだ、全部俺が一手に引き受けたようなもんだからな、精一杯感謝しろってんだよ、この野郎」

 

「照れないでよ、僕も多少そっちの事情は知っているからね、意味のあった行動じゃないか」

 

 意味、意味か、確かにあれには裏の目的もあったにゃ、あったが

 

「……………………おいてめー、なんで知ってるんだよ、というか知ってて言ってたのかお前は」

 

「ははっ、からかっただけだよ、悪気はないから気に障ったなら謝るよ?」

 

「ちっ、全く食わせ者が」

 

 確かにあの内部改革には少しばかり裏がある、あの頃もだが正直医療関係の魔術は停滞気味だ、それは医療魔術が完成とは言わんが考え方が煮詰まってきていることに起因している、だから俺は仕方なくわざわざ当時のメンバーを追いだすようにも仕向けた、そうすることによって別の視点から物事を見れるようにだ

 

 あれは俺の発展のための良心からでもあったから、人に言うのは恥ずかしいから控えてるってのに、平然とばらすなよ

 

「でも助かってるよ、医療関係の人員は几帳面な人が多いからいろいろとフォローをしてくれるからね、僕も失敗が少なくなって万々歳だ」

 

「実際、最初は俺だって楽をするためにしたはずなんだけどな、ちくしょう、こんなことなら室長にならなきゃよかった、さらに言うなら辞職したい」

 

「しかしアルマ君は教会に憎まれてるから出世する以外の道がなかったとさ、教会は恐いからね僕は絶対に敵に回したくないよ」

 

 童謡の終わりのように面白がってレイリーは言いながら笑う

 

 俺の仕事をやめられない理由を平然と言うなよな、というか絶妙に人の触れてもいいぎりぎり部分を触ってきやがる辺り世渡り上手め

 

「出せなければ首の一年に一回の研究発表会で出した魔術のせいで、俺は国の擁護がなければ異端となって追われる身だからな、出世のきっかけだが逆にそれで俺は自主退職が出来なくなるってとんだ袋小路だ、元々はあの魔術は師匠の研究の応用なんだぞ」

 

「アルマ君の師匠か、初めて聞くけどどんな人なのか大いに興味があるね」

 

「分かるだろ、あんな研究の大元を考えてるんだ、碌でもない婆だよ」

 

 そう言えばあの婆とは最近会ってないな、早々くたばるような婆じゃないからわざわざ出向く気にもならん

 

「さて、もうそろそろ僕はこの無理難題に挑む手筈でも整えに行くよ、アルマ君はどうする?」

 

 俺も同じように出来ることをしに行かなければならないんだが

 

「じゃあ俺は無理難題に挑むためのモチベーションの準備に行くか」

 

 先にすることがあるよな?

 

 ∴

 

 今の俺は王様の執務室の扉の見える廊下の前の角の陰に潜みながら周囲の様子を探っている

 

 この姿は100人中100人が口を揃えて不審者と呼ぶだろう状況だ、被通報歴7回の俺が断言して言える、留置所って意外と温かいご飯を出してくれるだよ

 

 いや違うんですよ、別にこれは俺が楽しくやってるわけじゃなくてだな、特殊な魔道具を実地で試験してより正確なデータを取るためにやってるんだよ、決してそれに便乗してちょっと特殊な鍵をチョバッてこようとか、ちょっとジークの王に痛い思いさせてやろうなんて思ってるはずがないんだ

 

 …………よし自己弁護終了、どうせ後から怒られるんだし早くやっちまうか

 

「目視確認内に人影は無し、部屋の中は――――」

 

 人指し指を動かして魔術『音鳴おとなり』を発動させる

 

 この魔術は離れた場所の音まるで隣にいるように聞こえるする、盗聴に最適な魔術だ、因みにこの魔術は昔ギルドに居たころに盗賊を職にしてるやつらが鍵のピッキングに欲しいと頼んできたから俺が作った魔術だ、お隣と掛けたネーミングが密かな自信作

 

 でもまあ俺が四苦八苦して作ってやったはいいが、あいつらは元々魔術の才能がない奴らだったせいであいつらでも使えるように改造してやる羽目になってそっちの方がが大変だった

 

 結局元の形のグレードダウンとして聞きたかった鍵に耳を当て数センチ先の音を集中して聴ける魔術に作り直した記憶がある、にしてもあいつら金払い悪かった、知らなかった俺が悪いっちゃ悪いが魔術を作ってもらうってのは金貨数枚は掛かるのに銅貨しか払いやがらなかった、今さらこんな物発表しようものなら悪用されるしか予想できねえし、そも難易度が低いからそれなりに魔術を齧れば誰でもできるしな

 

 これのおかげで女湯の盗聴とかできて便利だし、そこに限らず今みたいに部屋の中の人数を外から察知もできるから重宝してる、魔術とは下心と共に発展するのである、全部がとは言わんけどな

 

「―――物音が聞こえねえとこを見ると誰もいなさそうか」

 

 ここで素早く俺は王様の執務室の扉の前まで移動する、そしてすかさず懐から取り出した高さ6cmほどの六角柱状の金属の物体を扉の特殊な鍵穴に押し当てる

 

 まずこの特殊な鍵穴とは、人の人差し指のをはめ込む形をしている、これは個人識別魔力パターン錠略して魔力錠と言って早い話がその人の魔力を識別して世界で唯一の鍵になるというもので、第4研が威信をかけて開発していて今じゃあ貴族の部屋のみならずこうして王の執務室にまで備え付けられた、言わば最強の鍵で、謳い文句に「防犯率100%があなたのお部屋をお守りします」なんて言っている

 

 それに対して俺の取りだしたこれはテス=キューラという第3研の美少女にしか見えない美少年(要するに男の娘でついでにショタ)が造った魔道具である『擬似魔力パターン発生器』だ、因みにテスは元第4研の第3研への異動組の中の一人だ、なんでも造る物が毎回犯罪の片棒を担ぐものばかりで、これ以上第4研のイメージを悪くされては困ると追い出されてきた変人だったりする

 

 要するにこの擬似魔力パターン発生器は魔力錠をハッキングして鍵となる魔力パターンを解読、再現するという恐るべき犯罪者御用達アイテムだ

 

 そしてなぜ今俺がこんなことしてるかと言えば、最初に言った通りこの特殊な魔道具を実地で、それも最も最高の品を使ってるはずのこの部屋で試験データを取るためだ、かなりの訳あり有りというか犯罪物品の加工をテスにお願いしたら対価に求められたとはいろんな奴に口が裂けても言えん

 

 そう考えているうちに、よく分からないが擬似魔力パターン発生器が稼働してるな、確か話によると試験品だから解錠に5分かかるらしいから

 

「それまでの間、誰もここに来れないように誰にも気づかれてはいけないステルスミッションスタートだ」

 

 誰にも知られることのない機密任務が今、始まる

 

 盛りすぎ?

 


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