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王宮魔術師は旅へ出る  作者: 逆姓 柳
序章
2/12

2話.寝起きの公務員

改稿済み

 

 夢と言う長いトンネルを抜けるとそこは雪国だった、まあ白いままの書類が積もった室長室を極限まで詩的に表現した現実逃避なんだが

 

 とりあえず目が覚めてきたので机にもたれかかるように寝ていた体を起こし、口周りに付いている涎を袖で拭き取る、書類に垂れている分に関しては今は考えないことにしよう

 

「でだ、クソジジイは見てのとおり書類にノックダウンされた俺に何の用だ、金ならもう貸さんし給料の前借りは先月したからもうさせんし、もしも書類の追加だったならそろそろ俺は戦争を始めるからな」

 

「落ち着いてくだされアルマ=ベルフェール殿、書類ではなく今回の魔術研会議の理由を聞きに来ただけですからの」

 

 そう白髪と長く鬱陶しい白い髭がトレードマークと自称する齢56歳のジジイこと、第三魔術研究室副室長であるノーヴェン=コーツが髭を撫でながら言ってくる

 

「魔術研会議? 定期魔術研会議は先週終わったとこだろ」

 

 魔術研会議は毎月1回全研究室の室長と国王らの重要人物が集まって会議と研究の報告会をすることだ、まあ最近は会議と言う名の第三研の晒し上げを行う場に成りつつあって俺に対する拷問のお時間でもある、なんなのあれ、「もうちょっと落ち着けないのか」とか年中勢力争いしてる貴族のハゲ豚野郎が言うんじゃねーよ

 

 すると俺の内心の怒りが顔に漏れていたのかジジイが気を利かせたのか話を続けてくれる

 

「なんでも緊急会議だそうですな、先ほど慌ててメアリー殿が駆けていくのを見て無理矢理引き留めてから話を聞いたのですが、残念ながら9時から始まることしか知らなかったようなのでこっちに聞きに来た次第ですが、しかしどうやらその様では会議のことすら知らないようですな」

 

「鬼かお前は」

 

 言いながらジジイは備え付けの連絡用の魔道具の履歴を確認し、俺は王宮魔術師の証として配布される魔力式の懐中時計を取り出して今の時間を確認する

 

「………!!」

 

「おお履歴を見る限り10分前までは連絡が来ていたようですな」

 

「おいおいおいおい、そんな呑気なこと言ってる余裕ねーんだけど! もう9時20分なんだけど! 過ぎてるんですけど!!」

 

 ちきしょう、関係ないからって余裕ぶりやがって、今年のボーナス下げといてやるわ糞ジジイめ、後で吠え面かくなよ、まあ今は俺の降格の危機なんですけどね

 

 まあ、俺も降格は嫌なのでとりあえず無駄に足掻かせてもらうために机の引き出しを開けて10本ほどある指揮棒ほどの短杖の中から装飾のない金属製の1本を取り出し、窓の前に移動する

 

「おいジジイ、また連絡が来たらもう出たって伝えといてくれよぉ!」

 

 ちょっと自分でも驚くぐらい慌てて語調が粗めに言った

 

「はいはいわかりましたわい、精々メイヴ殿に見つからぬように気をつけて行きなされい」

 

 そんなやり取りをして、俺は杖を軽く振り飛行魔術を使って窓の外3階の空へと身を飛ばした

 

 ∴

 

 窓の外、飛行魔術禁止とされた王城内の空は晴れ渡っていた

 

「風速良好、飛ぶには持って来いな天気だな」

 

 想像以上のベストコンディションな空に俺は多少テンションが上がり、急いでいることもあって軽く第3室棟を見下ろせる場所まで上昇する、直線に飛ぶよりも多少時間のロスがあるように見えるが高度を高くして落下速度を足して移動した方が速いからな

 

 そこから見えたのは横一列に並ぶ同じ建物の群れと城壁に城そして建物と城とを繋ぐ道、ここ全ては王城の敷地内にあって馬鹿げた広さを誇っている、だがその無駄な広さのくせに移動時間短縮が可能な飛行魔術の使用は非効率的ながらも禁止されていやがる、なんでも5年前の戦争時にまだ安全に実用可能どころか第一級機密だったころの名残のせいらしい、当時は城の敷地どころか国内での情報の漏えいは極刑と厳しかったのが、時を経て少しずつ緩くなった結果が今の状態なんだと

 

 正直、俺からしたらバカバカしく守る気にはなれない、あれだよ便利なものは伝統とか格式とかと関係なく使っていきたい派の人間

 

「これが第三室棟だから、4 5 6と、そんでもって第六室棟の正面あたりから城に入るのが近道だったな」

 

 そう俺はこの前スパイをやってる友達に教えてもらった会議室への効率のよい移動経路を口ずさみながら、手に持った短杖を再び軽く振り目的の進行方向へ体を進める

 

 にしても、俺も第三王宮直属魔術研究室室長なんて大層な肩書任されて、各室ごとにあって室ごと兼用だが研究室専用棟まで与えられて、たった4年でずいぶん出世したもんだよな、初めてここに来た時はこのずらっと並ぶ室棟にすら気圧されたってのに笑っちまうよ

 

 と、そんなこと考えているうちに城の間近まで近づいたので、そのまま開いている窓を探しちょうどいい具合に5階に開いている窓を見つけたので、我が身を飛びこませる

 

 そこは見覚えのある廊下の1つだった、ちなみに見覚えのある理由は人通りが少なく飛行魔術が見つかる恐れが低いからよく利用するからだ

 

 だがしかしそこには何故か見計らったように一人のメイドが腰に手を当てて立っていた

 

「またアルマ様ですか、いったい何度城内での空を飛ぶ類の魔術の行使は禁止だと申し上げればよいのですか!」

 

 あ~、また見つかったよさっき注意しろって忠告されたばっかりだってのに

 メイド長のメイヴ=ぺルツ、どっかの地方の貴族の子女、金髪ツインテールなんて大人っぽいその顔に噛み合ってないちぐはぐ巨乳女

 

 てかなんで注意してるのにこんなにも見つかるんだよ、何こいつ出待ちでもしてやがるのかよ

 

「お前まじめすぎ、もう他のメイドたちは俺の事注意することなく諦めたみたいで何も言わなくなったぞ」

 

「それで全員が言わなくなってしまったらそれは認められているような状況になってしまうでしょうが、このまま悪しきルールを定着させしまうわけにはいきません」

 

 まじめ過ぎるだろこの鉄面女は、その性格で肩が凝らないのかよ、ただでさえその無駄乳は肩がこるだろうってのに

 

「城内での露骨なセクハラ妄想も禁止です、視線がいやらしいですよ、はー、私をアルマ様ばかりにかまけさせないでください、いい加減子供じゃないですからね」

 

 言うだけ言ってメイブは行っちまった、子供じゃないね、大人びた顔立ちで時々忘れそうになるがお前年下なんですけどね、そして言われても何も恥じる気もないがな

 

 さて、ただでさえ遅刻してるんだし、会議してるはずの第二会議室に急ごうか

 

 そう思ったので俺は注意などさらさら聞く訳もなく、飛行魔術をさらに使って城内を飛んで移動した

 


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