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王宮魔術師は旅へ出る  作者: 逆姓 柳
2章.遠き魔法の異世界
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2話.精霊の湖

 

 俺が言葉を失ってしばらくして、日が沈み周囲に光が無くなり、月明かりのみになった、だが見知らぬ森の中で光がそれだけというのは危険すぎるので、泣く泣くなけなしの魔力を消費して光源を生み出す魔術を使い、人の頭ほどの大きさの光の玉を出現させる


 その光が照らしだした風景も綺麗ではあったが、二度目なのでそこまでの衝撃を受けはしなかった、むしろ今思うのは所々にある氷が光を反射して非常に見通しが悪いことがどうにかならないか


「何なんだここ、見た限りこれがこの寒さの原因っぽいが」


 素手で触れるのは恐いので杖を伸ばして青い水を突いてみる


「うおっ、なんだどういう……………魔力かこれ」


 世界樹の根を材料にした杖が勢いよく青い水を吸い上げ、魔力となって手を伝って流れ込んできた、いきなりだったので慌てて杖を水から引き抜いたが、流れ込んできた魔力はひどく冷たかったのであのまま引き込み続ければあっという間に体温を持っていかれただろ、このローブを着てはいても体の内から体温が下がれば凍死してしまうところだった


「まさか魔力が液体化したものか、これ全部、それも氷系の属性付きで」


 なんて量だ、この湖が全て、それも氷系の属性が付いているから、その変換効率を考えて元の魔力だけで考えれば莫大な量という言葉だけでは表現しきれない量、ありえねえ


「人間、この私の地で何をしているっ!」


 突然、怒気を孕んだ声が湖の中央から氷の礫と共に飛んでくる、氷の礫は俺の足元にドスという音を立て突き刺さる、さっきからド肝を抜かれてばかりな俺だが、慌てて杖を構えつつ後ろに下がり、声の主を探す


 俺が暗い周囲を必死に見回す間に、そいつは泉の中央から浮遊しながら近づいてきた


 そいつは、細身の美女のようで申し訳程度の布面積しかない服を着ていたが、全身が青く半透明でどうみても人間ではなかった、そしてどう見ても怒っている


「この私、精霊グラキエースの湖の魔力を奪えたことは褒めてやるが人間、盗みは盗みだ、決して許さん」


「精霊………精霊だと! 本物、まさか実在したのか」


 精霊という言葉に驚き、大声をあげてしまった、だがそのおかげでグラキエースという精霊はひるんでくれたのでよしとしよう


 にしても精霊か、俺の世界では実在が否定された存在だ、まず精霊の定義として、その身が莫大な魔力で構成された存在となっているが、そもそも魔力がどれだけ集まろうと意識を宿らせることは不可能だった、では自然界に居るのかと一時は世界中で捜索されたが見つかることはなかった、その段階で否定されてしまった考えだが、まさか異世界に来て見つけることが出来るとは、精霊の定義を提唱した身としては夢が広がってくるな


 ああ懐かしい定義だ、昔魔力を別の誰かに肩代わりさせられれば楽だと思って考えたが、まさか定期報告会で出してみれば通っちゃうなんて、あれ出すものがないからメモ書き提出しちゃっただけなんだけど


 でもどう見ても、殺意全開でこっち見てるよ


「人間が、私の存在を否定していたのか、益々許せん、今ここで死ね」


 氷の礫を周囲に出現させてこっちを睨みつけてくる、いきなり殺人宣言されようとは、いつかは研究してみたいが、今は逃げないとやばそうだ、というか洒落にならない殺気をビンビン感じるぜ、逃げ切れたらいいなぁ


 精霊グラキエースが氷の礫をいくつも放ってくる、俺は咄嗟に横っ跳びで礫を回避する、あの程度なら残っていた分と湖から流れ込んできた分の魔力で対処できるが、まだその切り札は切りたくない


「小賢しい、避けるな」


「いやいやそれは無理な相談だろうが」


 言いながら踵を返して走り始める、だがそう簡単に見過ごして貰えるはずもなく、後ろから氷の礫が飛んできて俺の背中を打つ、その勢いで前のめりに倒れそうになるが跳び前転の要領で起き上りすぐに逃走を再開する


 それにちょうど転がった時に辛うじて道らしき道が見えたのでその道へと走ることにする、当てもないしね


「おかしい、あれが直撃したなら穴が開いてもおかしくないはずだが」


 後ろでおっかない事を言う精霊がいるが、そのおかげで攻撃の手が止まってくれた、というかありがとう邪竜ローブ、それにテス、お前たちがいなければ今ので俺は天に召されていたそうだ


 そうこう思っている内に既に道に入って走っている、舗装もないから走りにくいが多少マシか、それであの精霊、グラキエースだったか、二度と忘れはせんが、今の問題はあいつがどこまで追ってこれて、どこまで追う気があるかだ、グラキエースはここのことを私の地と言っていた、ということは離れられない制限があるのかもしれないし、離れたくないのかもしれない、予想としてはこの青い木が目安になりそうだ


「予想だがなっ!」


 するとまた、氷の礫が俺の横を飛んでいった、いや今の形はもしや


「つららの形に変えたのだが、重さが変わるとブレるな」


 それはローブ的に刺さらんだろうが痛い、ちくしょう後ろにいるのは分かっている、最初から浮いてやがったから走らなくてもいいんだろうな、俺も魔力さえあれば


「そうか、私が狙わなくても数撃てば当たるな、よしでは手始めに200本からいってみようか」


「バカヤロウが、避けられるかっての」


 理不尽な精霊に声を上げて文句を言うのも仕方がないよね、だが俺には分かってしまった、今あいつバカヤロウに反応してつららの数を増やしやがった、間違いない、だってつららを増やすために一段と空気が冷えてきてるからな、どうやら馬鹿にされるのが嫌らしい、もう手遅れだが


 つららが完成したのかパキリという凍りつく音がしなくなった、その代りに今、空気を切り裂いてつららが飛ぶ音が耳元で聞こえた、どうやら耳元を飛んでいったようだ、となるともう猶予はない、くそっ


「『エアリード』」


 杖を振るい魔術を発動させ、俺の後ろに川が二つの支流に分かれるように俺の斜め前に吹く屋根のような風を発生させ続ける、この魔術は空気の流れを作る魔術、消費する魔力の量で風量が変わり、少ないと降ってくる粉雪を捌く程度だが、今みたいに多量の魔力を消費すればより重いものも捌けて、飛んでくる氷のつららの方向を斜めに逸らし走る俺の横あたりの樹氷に当たり、カツンカツンといい音がする、もっとも量が量なので怒濤の連打ではあるが


 にしても、思ったよりも消費魔力が断然少なく済んだ、ホント凄いなこの杖、魔力の節約が捗って助かる、それに持っていて分かったが、世界樹の根が材料なだけあってか、微量ながら周囲の空気の魔力を吸い上げて回復の手助けをしてくれている、あの湖の水を吸い上げたのもそれが原因だろう


「しぶとい人間が、見たことのない魔法を使いやがって、大は小を兼ねるだ、この氷塊でブッ潰してやる」


「おじょーさーん、口調が乱れてますよー」


 茶化してみたが後ろなので見えないが、反応は氷塊が飛んできた気がする、つらら以上にこれに当たるのはまずい、押し潰されるような氷塊は止められる余裕などない


「『アイスキャノン』連 射っ!」


 このあたりは火の魔術に適さない立地だし、土を魔術でどうにかしようにも凍っていてどうしようもない、なら逆に氷の魔術を使えばいい、目には目を歯には歯をの心を持ってだ、それでこの魔術だが分かりやすく氷塊を打ち出す魔術だ、他の氷系とは違って氷の形を整えたりしなくてよく低燃費なので使用者の負担が少ないのがグッドなところである


 3回4回と杖を振るい氷塊を打ち出すたびにガキーンといった音がなり氷と氷がぶつかっているのが分かる、向こうも迎撃に同じだけ撃ったみたいだ


 どうにかまだ生き延びてはいる、だがもう足が限界だ、インドアに運動させるな、もう魔力が限界でもある、ここは一発大きく移動距離を稼がないと………………さっきから後ろのグラキエースさんが怖くて怖くて


「人間のくせに、人間のくせに、人間のくせに、人間のくせに……………」


 どうやら俺に生き延びられているのが自信というか、正気を失わせているようで呪詛のように呟き続けている、その癖してさっきからまた温度が下がっている、それもかなり、これまでのことを考えれば確実に大技の予兆だ、出れば確実に死ぬこと確定であろう


「賭けだこんちくしょう、最後の魔力ここで使い切ってやる、行くぞ

 『スカイクロス』」


 荒れ狂う風が俺を掬い上げ空へと舞いあげる、そしてその暴風が俺を激しく揉みながらちょうど走っていた方向の遠くへと飛ばしていく


 実はこの魔術、現在使用されている飛行魔術の主流である『スカイウォーク』の原型を改造したもので、低燃費で空を飛ぶことだけを目的としている、だがこれは本当にそれだけのものであり、速度・方向・高さ・時間・安定・着地といった全てが制御不能な欠陥品だ、当然のごとくお蔵入りとなったものだが、なんちゃってではあるが一応権力者である俺の元に報告書は届くわけで、あの無茶苦茶な術式は悪い意味で忘れにくく覚えていた


 いや、人生何が役に立つか分からないものだな


 でもこの風は目も開けられないほど強かったが、今はもう弱くなってきていて、徐々に落下していっている気がする、痛いんだろうなー


 と思ったところで、柔らかな土に落ち、勢いのまま地面を削りながら滑って行く感触を味わう


 そして、逃げ切れたのかどうかを確認するため体を起こし森のほうを見る、そう森のほうを


「ははは、やった逃げ切ったぞ、やった…………」


 そうして俺は、残った魔力と引き換えに精霊グラキエースから逃げ延びることに成功した


 そして遠くに微かに見える街の光を背に、魔力切れで意識をその地面の上で失った



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