6.寄り道
最後までうるさかったが、結局、鳥山は先に帰って行った。
香菜と陸は互いに顔を見合す。必要以上にこちらを見てくる陸の視線に、香菜は照れた。前から人より目を見て話す人だとは思っていたが、好きになってから余計感じるようになった。
「明日、学校ある?」
「ううん。公立だから土曜日はないよ」
「じゃあ、どっか寄って帰る?」
「え!いいの?」
突然のことだったので、香菜は声を大きくしてしまった。後になって喜びすぎたと思い、少し恥ずかしくなった。だが、それよりもわくわくの方が勝った。
「ここの近くに新しくできたラーメン屋さんがあるの!そこがいい!」
「今もラーメン食べたのに、また食べるの?」
「うん!だめ?」
「……ううん。よく食べるなあって思って」
陸は口元を緩めて笑った。
「よし。行こっか」
*・・・・・・・・・・
そのラーメン屋は、本当にすぐ近くにあった。歩いて5分も掛からないところだ。
中はらーめん鉄火山に比べると広かった。夜遅くだったが、客は多い。がっつり晩御飯向けの鉄火山とは違い、酔っ払った中高年達の夜食がメインの店なのだろう。ラーメンよりも、酒のアテになるものがメニュー表を占めていた。中には、シメのための小さめサイズのラーメンまである。
「野菜たっぷりで美味しいよ!ここのラーメン!」
「うん。味噌ベースのスープとちぢれ麺がちゃんと合ってる」
二人はおいしいおいしいと言いながら、ひたすらラーメンを食べた。野菜の食感とちぢれ麺のコンボが最高だった。スープは濃厚でこってりしているが、全て野菜のおかげでヘルシーに仕上がっている。ボリューム満点だが、これならすんなり食べられる。
「香菜ちゃん。ギョーザもどんどん食べて」
陸が引っ張ってきた皿の上には、一口サイズの比較的小さいギョーザが乗っていた。普通のラーメン屋の半分以下の大きさだろう。
香菜はこのようなギョーザが流行っているのを知っていたが、実際に食べるのは初めてだった。ラー油たっぷりの液体の上を、軽く撫でるように滑らせる。そして、口の中へ入れた。
「やーん!カリカリ!おいしー!」
「おいしそうに食べるね、本当に」
満面の笑みを浮かべながら、陸の方を見た。彼はラーメンを啜っているところだった。箸で麺をがっつりと掴み、一気に食べる。捲った袖から覗く細い腕が、その度に動く。意外としっかりとした筋肉が付いていて、香菜は驚いた。
(こういうの細マッチョっていうんだよね?)
ばれないように、熱っぽい目で眺めた。その筋肉に『男』を感じた。
(あーあ……やだな。私、いつの間にこんなに陸さんのこと……)
言葉の通り、溢れた。
香菜の恋心はどんどん膨らんで、自分でも手が負えなくなっていた。その腕に触れたい衝動が波のように押し寄せた。意外と長い睫に、意外と広い背中、そして意外と筋力のある腕。その全部が、彼女にとって愛しいものになっていた。
(……陸さんから見たら、私なんか子供だよね)
幸福と交互に訪れる鬱が、彼女を暗くした。香菜はすっかり、恋の真ん中にいた。