二次会 ◆
その時の二次会だって、懸命さに笑えた。
「ケータイ忘れちゃったからちょっと取りにいってきますー」
トイレから戻ろうとして、聞こえてきた彼女の声。
「ひとりで大丈夫かー?」
そしてすぐにかけられた男の声。
低くて無駄にいい声をしているからすぐに分かる隣の班の班長、大貫さんの声。
タバコ、切れてたかもしれない。
とか誰に言うでもなく自分に言い訳をして。
俺は彼女が外に出る前に、そっと店の外にでた。
大貫さんは来るなよ、と祈りながら、回れ右をして店内に戻る。
階段に足をかけると、真剣な表情で降りてくるユイさんの姿。
そーゆーとこも、ツボ。
「そんなにゆっくりどこ行くの?」
「えーすぎゃっ」
声をかけると同時にバランスを崩す彼女。
驚かすつもりなんて全くなかった俺は、焦って駆け寄り抱きとめた。
「…セーフ」
思いの他やわらかい身体にドキドキする。
動揺を押し隠して、わざと耳元でつぶやいた。
「びっくりしたー。えーすけ君ありがとう」
何の動揺もない声。
うん、知ってた。
俺に抱きとめられたって何にも思わないもんねユイさんは。
「どーいたしまして。…ユイさんどこいくの?」
さっき聞いたから知ってるけど、わざと質問。
「あ、ケータイ忘れちゃってね、取りに行くとこ。えーすけ君はどしたの?」
身体を離して、もともと入ってたタバコを見せた。
名残惜しいけど、いつまでも抱いてたらヘンタイだと思われるし。
「...しかたないから、俺も付き合ってあげるよ。」
全然しかたなくとかじゃないくせに、やっぱり上から目線。
素直に、とかどうやったらいまさらなれんの?
何の反応もない彼女に凝視されて、少し焦る。
もしかして、考えて断ろうとしてる?
「聞いてる?」
「ありがとー。でも悪いし、大丈夫。すぐそこだから。」
「大丈夫っていう言葉は、階段くらいちゃんと降りれるようになってから使わないといけないよね?」
断られると思ったから、間髪いれずに断れないようにした。
「はい、さっさと行くよ」
うっと詰まった彼女の手をつかんで、階段を下りる。
どさくさまぎれじゃなく、ちゃんと手をつなぎたい。
手のひらから、全部思いが伝わればいいのに。