職場の飲み会 ◆
女慣れしてそう。
モテそうだね。
よく言われる言葉。
女慣れしてるなら、今ごろ好きな女と付き合ってるし。
いくらモテそうだって、好きなコに伝わらなきゃ意味がない。
わかっているのに、素直じゃない俺。
素直になれない俺。
そんな俺が、よりによってあのコを好きになってしまったから、すごく困ってる。
この前の飲み会が良い例。
いつもさりげなく好きなコの近くに座る俺。
このときは向かいをゲット。
好きなコは隣の班の1コ上。
天然でホヤホヤしてて、年上には見えない。
そのクセ仕事になるとホンワカとした雰囲気はそのままなのに、まるで別人。
偉そうな医者達の前で堂々と行うプレゼンは見事。
もう入社後すぐのプレゼンの見学で、そのギャップにやられてほとんど一目ボレ。
でも彼女はいつも余裕で、俺のことなんて男だと思っていないだろう態度がくやしくて、
それにいちいちドキドキしてしまうのもくやしくて、つい意地悪してしまう。
小学生かっていうくらい幼稚なあれ。
好きな子ほどいじめちゃうってやつ。
俺、バカすぎ。
「えーすけ君、いつも近くで嬉しいね」
ほわん、とか、そんな効果音を出してそうな笑顔で彼女が言う。
わざと近くに座ってんのわかってるのかって発言だけど、これが天然発言だってよくわかってる。
だから、動揺とかしない。喜んだりもしない。
「ユイさん、俺が遠くの席だったら構ってくれる人いなくて寂しいでしょ」
そんな俺は、ユイさんに対して、いつもできるだけ軽く言うように心がける。
「うん、寂しい!構って構って」
…かわいい。
彼女は俺のことをネコみたいなんて言うけど、彼女はイヌだ。
耳とシッポつけたいとか、俺末期。
「じゃあこれあげる」
雑念をふりきるように、あえて淡々と、割り箸の入れ物をユイさんの手首に巻いた。
ちっちゃい手。
「や、これはいらないから!ゴミだから」
口を尖らせて、割り箸の入れ物を俺に向かって投げつけるユイさん。
怒るユイさんも可愛くて、思わず顔に笑みが浮かんだ。
慌ててひっこめたから、たぶんきっと変な顔なはず。
「構ってもらって嬉しいでしょ」
内心は押し隠して、どこまでも上から目線。
あの思わせ振りに負けないようにするにはこれしかない。
「うん、構ってくれるから好き」
ほんとうに嬉しそうに言うから、喜んでしまいそうになるけど、我慢。
俺のことが好きとかじゃなく、構ってくれる人が好きなんだ。
もしくは友達とか、ペットが好きと同じ好きだろうから。
「ほんとMですね」
「Mじゃないよわたし!」
「あ、間違えた。ドMだった」
「ええっ?そっち!?もっと違うから」
いじめると一生懸命対応してくるのがとても可愛い。
だからついついいじめてしまう。
二人で騒ぎすぎて、主任におこられた。
ああ、ほんとに小学生みたい。
「ユイさんのせいで怒られたし」
身を乗り出して、小さな声で言う。
「ご、ごめん」
ひそひそと謝る彼女。
俺のが悪いのにどーして謝ってるんだか。
そんなところも好きだけど。
「ははっ、謝ってるし」
しょんぼりしてるのが可愛くて、声をあげて笑ってしまった。
真面目に好き、なんていまさら言えない。
声と態度に出ればいいのにこの想い。