職場の飲み会 ◇
わたしの好きな人は大抵近くに座ってくれます。
今回はお向かいさんです。
偶然なのはわかってますが嬉しいです。
「えーすけ君、いっつも近くで嬉しいね」
嬉しいので、にこやかに伝えます。
もうドキドキです。
あ、えーすけ君というのが、わたしの好きな人です。
同じ部署の隣の班で働いています。
1コ下のネコみたいな男の子です。
「ユイさん、俺が遠くの席だったら構ってくれる人いなくて寂しいでしょ」
えーすけ君が思わせ振りな男の子だと言うことは、今までの経験で十分にわかっているんです。
そんな言葉くらいでは勘違いしたりはしないのです。
大丈夫。ドキドキはしますが、慣れてます。
「うん、寂し!構って構って」
だからわたし、本音を軽く言う癖がつきました。
引かれるのが怖いんです。
「じゃあこれあげる」
割り箸の入れ物を手首に巻かれました。
「や、これはいらないよえーすけ君!これゴミだから」
投げて返すと、口の端をにいっとあげて笑います。
ああ、かわいい。
普段はあまり笑ってくれませんが、笑うととってもかわいいんです。
「構ってもらって嬉しいでしょ」
「うん、構ってくれるから好き」
ほんとは"構ってくれるから"なんてつけないで好きって伝えたいんです。
でも、自信がなさすぎてそんなこと言えません。
「ほんとMですねー」
「Mじゃないよわたし!」
「あ、間違えた。ドMだった」
「ええ!そっち!?もっと違うから!」
ぎゃーぎゃーと騒いでいたら主任に怒られてしまいました。
「ユイさんのせいで怒られたし」
「ご、ごめん」
「ははっ、謝ってるし」
その笑顔が好きです。
ほんとうに好きなんです。
でも、伝わる気配がまったくありません。
どうしてわたし、こんなに軽々と好きって言ってしまうんでしょう。