出発
着替えを済ませたエフリーがまだ手、足、頭の位置のバランスがうまくとれ無い身体を船の脇に立たせて集まった顔ぶれを眺めている。
「残りは我らだけになった」
点々と残っている宇宙船から一人一人集まるザカリーの身体を駆け巡る電気信号は細かく分散化してはまた一箇所に集中している。
船外灯の下浮かび上がるの人影は完璧に輪郭だけは二足歩行者を模写している。
スアレム人の下で情報収集しているザカリーの中ではまだ終末の洞窟に足を向けた者はいなかったようだ。
「ああ、おや? 珍しい。ディアンが遅れてくるとは。そうか土産物を届けに行っていたのだな。喜んでくれていると良いが」エフリーのまだエフリーらしさが出ていない声にイーヴァーは反応して答える。
長い髪の毛の先から電気信号を引き揚げさせ瞳に集つめ、ゆっくりとイーヴァーは瞼をあげる。透明度の高い緑色の球体が大気に触れて驚いて周囲を見ている。
筋肉の細かい皺付けまで終えていた顔は仮面のように何の感情も見られない。
「土産の効果が期待できるのはまだまだ先か。母者の高ぶりはいつもと変わらぬようであったがのう」
「変わらぬから困るのよう。高ぶりが続く日数が減ったままなのだからな」
腕を見つめながらエフリーは違和感を抱き、手の大きさが違う事に気が付き修正を加える。二足歩行の生き物たちの警戒心は本能に刻まれている。日常見ているつまらない物の配置でさえわずかに動けば変化に気が付くのだ。増して体の変化にはかなり敏感だ。
「祝祭の日数が減って来ているのはほんにつまらぬ」
「おー、いかん。そんな言葉を聞くともう外へなど出たくなくなる。次の祭りまで残って待ちたいわい」
荒々しく二足歩行者の衣服に身体だけを合わせて突っ込んだクロストはまずは内側から、骨格の形成から始めていた。
「俺も」「俺も」「同じよの」
白い宇宙服に身を包み現われたドレドとロードも加わった。
「外の世界が静まってくれたらの。わしらも出なくてよいのだが、ほんに一種族が征服に乗り出すと他の種族も後に続くとは思わなんだが」
イーヴァーはまた眼を閉じて体内にある細胞の配置を細かく末端からチェックを始めた。確かディアンが連れていた生物はこの土地に居るはず。顔を合わせる機会は今回は無いと思いながらしっかりと復元に力を入れた。あの生物が覚えているイーヴァーは好ましい印象を与える。
ザカリー達の集積回路に押し寄せる情報の波に繋がりだすと単純にまとまった結果まで見えてくる。
「マイプの持っている細菌兵器をばらまき、星雲に居る生命体を死滅させるというのはどうだ。文明をもつ生命体の歴史には必ず病気が蔓延し、大きな被害を与えていると思う。我らはそれを高みの見物としゃれこめば良い」
「大賛成だが。スアレム人はそんなことは許してくれまい。なぜなら彼らとて元は広がる種であったはずなのだ。」
尖った歯の奥で黒い舌がしゃべりにくそうに蠢いている。
「広がれない訳は?」
「方向性が違うということだな。我ら以外、成長過程の途中なのだ」
エフリーは色を変えた舌を得意げに見せて引っ込める。
「どんな事を経験すれば彼らはスアレム人のようになれるのだ。決まり事など作っても次から次へと問題点は泉のように湧きでてくるぞ。」
先に出た宇宙船の熱がジワリジワリと引いて行くのを感じながら地上で暴れまわった記憶がちらりと頭をかすめる。同じ熱量でも何と違っている事か。
「奴らは異常じゃ。互いに食って食われるのが良い循環じゃ。一方的に力を持ちだして同族間で殺し合うようになった。何が面白い。」
ねじ曲がった唇をさらにねじ曲げて笑う。
「それも食い物の為ぞ、外宇宙に出て行くのもよりよい食い物を求めていくのだ」
頭、首、胴体、細い腕、細い脚にしなければ不用意に二足歩行生物の警戒を招く事になる。
ドレドははちきれんばかりだった宇宙服の横しわを流れるように下に向かせる。
縦に長いのは良いことなのだ。
「死滅するまで最後の一人が倒れるまで勝手に戦わせることが出来たら楽勝なのによ。」
エネルギーを運ぶか細い血管も作らねばならぬ。ここがベルジュロのメンバーと違うところなのだ。
彼らは全身に色を塗って演技をする。観客は皆遠くからしか見る事が出来ないが我らは違う、毛穴まで見える至近距離で顔を合わせなければならないのだ。
「その前に種の危険に気が付くさ。気が付かなかった星もあるようだが」
皮膚の溝、汗の噴き出る場所も必要、そして少々時間の流れも、特に顔に老いを組み込まなければならないのだ。
「ロザンタールか。巨人族はスアレム人の好みではなかっただけではないのか」
「おう、それなら言わせてもらおう。ベルカル人も同じ運命をたどるに違いない。サルッツアも残るのはイギンラ人。そう考えるとスアレム人はえり好みをしているのは本当のようだな」
最後に記憶をたどり公衆の面前で受けた小さな傷跡を一つ皮膚の上に描く。
「おいおい。そんな証拠はどこにもない。」
エフリーは皆の記憶が戻っている事を確認し、腹を震わせて笑った。いくらスアレム人の美的感覚に合わないからと言って種族を壊滅状態に追い込むのは理にかなっていない。
「分かっている。思いつきを言ってみたまでだ。彼らが援助の手を差し伸べているのは百も承知だ」
「効果は見えないがな」
出来たばかりの眼球をひんむいて見せて尖った歯を肉に埋もれさせ、見栄えの良い小粒な歯並びと変える。
「仕方あるまい大っぴらにやれば他の星から嫉妬心を買うだけだ。」
我らの事も放って置いてくれたらよいのに、とこの場にいる全員がまた思っていた。毎度話の落ち着くところは決まっているので誰も口にしないだけなのだ。
異星人の社会生活や新しい武器、機器類はザカリーを最初だけ喜ばせてくれたが祭りの昂揚感に勝るものなど一つもなかった。彼らの武器はへナチョコで姑息なものばかり。彼らが大事にしているねぐら等(街)ザカリー一人が暴れるだけで廃墟と化せる。しかしそんな事をやってもザカリーの脅威を見せつけるだけで何の解決にもならない。彼らはザカリーを恐れそれに立ち向かう武器の開発に躍起になるに違いなかった。それも日頃角突き合わせている者たちがスクラムを組んで。
そんなくそ面白くもない集合体をどれだけ見て来た事か、彼らには広がる知恵がある。繁殖し何もかも食いつくすし同じ種族であろうと痛めつけあう。
増えすぎた彼らをどう制御できるか。数では到底太刀打ちできないから決まり事で縛りつけるのも限界である。
ひとまず祝祭が終った事をスアレム人に報告しこれからの指針をエフリー等はきかねばならない、たとえ以前と同じことを言われようと、積み重なった指標がどこに向かい何を生みだしたのかを見定めなければならない。
すらりとした白い影が仲間に加わると鼻の下にしわを作ってイーヴァーが笑った。ディアンの登場だ。
皆を待たせた上に声もかけずに船に乗り込むつもりらしい。
ディアンの肩の荷物にちょっとだけ興味を示して見せたが誰も声はかけない。
皆己の船に乗る為に背を向けていた。




