終日
黒雲が去ると荒れ地には大きな穴と切りつけたような無数の溝、大小様々の穴が空いていた。
ザカリーが集った巨大な穴の底には泥水が溜まり、泥水の表面が揺らぐたびに泥まみれのザカリーの身体が一体、一体としぶきをあげて地上に駆け昇る。
弾かれて土壁に深く埋もれていた一体が腕をかきまわして土を跳ね飛ばして顔を出した。
べったりと付いた土をぶるぶると体を震わせて落とし、穴の出口に向かって飛んだ。
脇をかすめて飛んでいく仲間を気にする風でも無く、穴の縁に座っていたディアンは咆哮を一つ空に向けて放った。遠く灰色の空に咆哮は届き稲妻を一本光らせた。
裂けた口が薄い頬の皮にしわを作り歯の間から思い出したように溜まった涎が流れ落ちる。
雷で裂けた大木、大岩で破壊された森の中にわずかに残る立ち木の根元にまで飛んでいき、散らばって行く仲間をディアンは見送った。
まだ筋肉の中でくすぶっている力の余韻を楽しみながら身体を徐々に、記憶の中にある形に戻そうと試みている。
太陽が五回顔出して引っ込み二つの月が明るく地上照らしだす頃、夜空を見上げて水辺にたたずむディアンの口には大きな魚の頭があった。ザカリーの本来の姿は風船のようにしぼみ半分ほどになっても盛り上がった筋肉はひくひくと動いている。
生き物のように蠢いていた髪は半分の細さになり水を滴らせて肩にべったりくっつき、かぶさった瞼の下からはまつ毛が生え揃いいつでも目を使って情報収集できるように準備していた。
耳まで裂けた口はまだそのままで大きく開き、尖った歯で魚の頭に食らいつき、両手の指には取ったばかりの魚のえらに突っ込まれ、活きのよい魚はびちびちと尾っぽを振り動かしもがいている。
空に放り投げて乾燥させた魚が草むらにうずたかく積みあがっている。
月は薄く白く空に残り、太陽が六度目に上ってくるとディアンは魚を太陽に向かってまた一匹づつ放り投げる。
魚は高く高く舞い上がり、地上に落ちてくる頃には水分は飛びちょうど良い具合に干からびていた。
嵩の減った魚を身だけむしり取り、繊維だけの葉っぱに包みこむ。
鼻の上にしわを寄せ歯並びを全部見せて笑うと残念そうに辺りを見回し、しぼんだとはいえまだまだ十分に大きくて太い身体を、記憶の中の形とはほど遠いとを認識し、移動を始めながらもっと絞り込むことにした。
岩場の下に空港を見つける頃にはすっかり以前の記憶もよみがえりこれからやるべき事の手順を何度も頭の中で構築しては捨てまた別な案を考える。
「フン。やはり行かねばならぬようだな。しかし手間と時間がかかり過ぎるな」
とつぶやく。
ザカリーの破壊の手から逃れた地下空港の入り口を見つけると、
にたりと口を耳まで上げて笑い大岩や土で半分埋まっている入口に、荷物片手に岩と土を蹴りあげ、
大きくを開けた暗い穴を見てつまらなさそうに降りた。
所狭しと並んだ宇宙船から見覚えのあるユーザーの船を見つけ隔壁に食料を詰め込むとすぐにディアンの姿は地上へと消えて行った。
地下空港には布の切れ端を下げ、筋肉を人型に変形させたザカリーが戻って来ていた。
少々頭数の減った彼らは帰って来ない仲間の事は気にせず、揃った顔ぶれだけで長い船旅の準備に取り掛かるのだ。
旅の支度で一番大事な食料は船の周囲に積み上げられている。各々の船に積み込みを終えると少しばかり減ったベルジュロのメンバー達は興業へ出かける。様々な星の権力者たちからの出演依頼は切れる事がない。
続々と地下空港からは船は出て行き残っているザカリーは数えるほどになっていた。




