祝祭
外界を見ていた目は閉じたままだ。
目を形成していたディアンの細胞は分散し最も安全な奥の細胞に入り込み組織の組み合わせを変え収まる。
身体の内部変化は故郷に降りった時から著しく変動していた、もっとも大きく変わったのは外見だ。
大気の熱の変化を子細に感知するため、広い知性的な額には感度の良い触角が生え。
顔の横にあった耳は頭上に移動し元の形状など思い出せないくらい小さく尖っている。
腕も足も星の重力に逆らい筋肉の膨れるに任せいびつに膨らんだ胴体にめり込んでいる。
外皮神経器官は故意に遮断され知覚伝道帯は外からの刺激を受けて激しく反応し、体内の消化器官から細胞に取り込まれなかった液体が尖った歯の間からだらだらと流れ出ている。ぶつかりあえるエネルギーの大きく揺れ動く場所、集まる仲間の元へ力を解放して、ディアンはまっすぐに目標をめがけて跳ね飛んでいる。
乾いた赤い土が空に巻きあがり筋になって空中に舞い、飛んでくるエネルギーの塊がぶつかり弾けると不規則な風は一気に地上から大気圏近くまで上昇し赤い土柱を立てた。
土柱の中ではぶつかったエネルギーが火花になり黄色の炎をあげている。立ち上った土は空を覆い始め湿った雲を呼んだ。水分の中で土は膨張し重くなり地上に落下した。森の暖かい空気がなだれ込み地上に開けた穴におちて飛びあがるザカリーの後を土や砂利と一緒に巻き上げ家来のようについて行った。
遠くの地に回避していた獣たちは風が一定方向に吹き始めたのを感じて、ザカリーのとばっちりを受けないようにと隠した頭を風上に向ける。
空中に舞い上がった多数のザカリーは遅れてやって来たザカリーに打ち落とされて地面に大きな穴を開ける。その地響きが伝わって地中に隠れた獣、虫たちの穴に伝わり脅かした。
植物たちは大風に吹き飛ばされるようにこの時期に合わせて結実させている。
ジワリとゆるやかに吹いていた風はぐいぐいと押しつけるような強さに変わり、一方方向から押しつけられた風に幹がたわみ、下がっていた実が自分の重さに振り回されて地表に飛んだ。
風にたわんでいた葉は細く伸び、次の風で元に戻ったが先端の近くの幹は風の強さに耐えられず折れた。
広げた葉っぱが帆のように風を受けて舞い上がりしぶとくくっついていた幹と実を高く遠くへザカリーの居ない場所へと運んで行った。
ザカリーの発する咆哮は大気をも震わせる。目にも止まらぬ速さで上下左右と跳ねるザカリーが竜巻の中心となり縦に横に斜めにと形を変えて荒れ地の岩や土を巻き込みを動き回り始めた。
暗くなった雨雲の中に強いエネルギーを求めて仲間を踏み台に上昇するザカリー達。
相手の波動を目指して全力でぶつかるのだ。誰かが先に己の獲物にぶつかったとしてもすぐに軌道を修正して離れていく獲物を追う。裂けた口からエネルギーが放出され当たりそこなった獲物への雄たけびが続いている。
荒れ地には黒い雲がのしかかり見通しのきかない雲の中では絶えず稲光がきらめきその雲は密集したジャングルの上に伸び大雨を降らせた。雨は痛手を負った植物たちに最後通帳を突き付けた。濁流は低地を求めうねり狂い新しく出来た穴の中になだれ込む、星の自転に合わせて緩やかに黒雲は流されて二度三度と空を浮遊するうち重いものから地上に落ちて、赤や茶色黒っぽい縞模様を森の上に作った。
大気を震わせていた不気味な吠え声が聞こえなくなると丸まっていた岩の隙間から穴ぐらから、外側にいた一匹、一頭が恐る恐る顔を出しては引っ込め、舌を出し耳を動かし最大限持ちうる器官を総動員させている。
しとしとと降る雨は太陽の光を受けてきらきら輝き、やがてその雨も太陽の熱で地上に降り注ぐ前に消えた。今回暴れまわっていた祝祭日数が少ないように思えた。
皆森に住む獣たちはザカリーによって変貌した世界の景色を見にぞろぞろと外へ出てきていた。
四方から折れた木の樹皮の匂いを乗せて風が吹いている。ザカリーの狂気に満ちた時間は終わりを迎えたようだ。




