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Inheritance  作者: KOUHEI
慣習の星
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アルウテ

姉を四人持つ甘えん坊の息子の友人がブローレスから逃げ出したと聞いて

心底アルウテは安堵のため息を漏らしている。


書斎の政務机に届けられるブローレスの情報に慣れたとはいえ、耳を塞ぎたくなる事ばかりである。


しつこいマシュージ王に根負けして、わずか二日の事と自分に言い聞かせてはいたが、

時間の経過とともに息子の友人は永久にブローレスから出られないのではないかと本気で思い始めていた。


ザカリーを人質に身代金を要求するのはまだいいとして、

到着した途端、最新式の船欲しさに二人を惨殺したのではとの思いが頭から離れず、

正規の通信ルートで何度も二人の安否を確かめようとしたが、

忌々しい事に荒れ地に仕掛けられた妨害電波に攪乱されて切れ切れにしか通信電波は届かなかった。


しかもブローレスの下っ端通信兵は、たぶんのその通信兵の上官の言い分なのだろうが、我が国の事に干渉するなという返事までよこした時は、憤慨してしばらく口を開く事が出来なかった。

この時ほど自分の決断が誤っていたとアルウテは痛感したのである。


マシュージのように通信兵を恫喝しようにも相手が下士官では話にならず心底やきもきしていたのだ。


新任式の準備と招待客の出迎えの中、アルウテにはひと時も心休まる時間など無い。

そのさなか王子が母親に内緒で戦闘機の燃料を入れさせ、パレードを飾る飛行隊の演習地をブローレス近くの荒れ地に変更すると知ったとき、王子の目的を知ってほっとした。


変更した偽造文書に署名した直後ディアンの船から連絡が入り、ブローレスから彼らが逃げ出した事を知りその書類はアルウテ自身が破いて棄てている。


肩の荷が下りたと思ったのも束の間、事もあろうにブローレスの人間を乗船させているというではないか。

細かい事情を確認し、即刻ブローレスの人間など処分する気で、

審議官を差し向けたのだがザカリーが二人彼女を誘い出していなかった。


何と言う不手際と腹を立てたが、事の起こりはアルウテの小心から始まっているので審議官を責めることは出来なかったのである。


審議官の話によればやむにやまれぬ事情、客として立ち寄った二人を助けるために身を呈し尽くした人物だというではないか。

マシュージの娘というだけで身の毛がよだつアルウテは、自分の手で引導を渡すつもりでチャード姫に会いに行った。


息子の友人の安否をこの目で確かめ、お礼とお詫びを言って引き揚げさせ、

次にチャード姫に会うつもりが執事の勘違いか息子の友人とチャード姫は同席しアルウテは三人を一度に相手をしなければならなかった。


ブローレス行きの非をブローレスの姫の前で謝るのもはばかられ、

言葉を選ばなければならなかったが変に回りくどく話さなかったのは良かった思っている。


用意していたきつい言葉の出番はなく、穏やかにチャード姫との会見を終わらせる事が出来たのはひとえに姫の、彼女のたたずまいあったとアルウテは思っいる。


アルウテのブローレスの宮殿の中での出来事が思い出された。この近代においてブローレスでは未だに生まれた時から男女は別に育てられる。


男性との接触も生涯極限まで制限される。宮殿のしきたりは王女であろうと、女官と親族の女性から礼儀作法を叩きこまれるのである。チャード姫を前にしその風習は廃れず営々と受け継がれて来た事をアルウテはチャード姫の優雅な振る舞いから見てとった。


嫌いなマシュージの娘としてとらえていたが、おそらく父親と直接会話などした事は無いだろうとアルウテにも想像が出来た。

アルウテ自身十九でブローレスからでて行ったのだが当時の王と謁見出来たのは二十人いた年寄りの女たちの後ろで声を聞いたのが最後だったのである。


後ろ盾の無くなった姫がどんなに心細いか。なによりも客に向けられた魔の手から守ろうした健気な態度がアルウテの胸を熱くさせる。


あの頃のアルウテよりもチャード姫は年上で、物事の良しあしを判断出来ていると思うと肩の荷が下りる気がした。ついでに言えばマシュージのように飲み物に毒を盛らずに良かったと今では思っている。

後々機会があれば二人の客を逃がそうとした気持ちの揺れをチャード姫にゆっくりと尋ねてみたい。




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