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Inheritance  作者: KOUHEI
慣習の星
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会見

審議官たちの調査結果を受けて

女王がブローレスからの逃亡者とかかわっても良いと判断した。


ディアンとサスケは案内係の後をついて二人の居た階から別な階の女王の個人的なリビングに通された。

ここでお待ち下さいと案内係は二人に椅子を指定し、勧められた椅子は少々小さくこじんまりとしていたが座れば見た目ほど小さくは無く座り心地は良かった。

部屋を出た案内係は前扉の前で立ち止り、扉の飾り絵と同化したように佇んでいる。


豪華な室内は女王の好みにしつらえられていて、天井までの高さ凡そ十五メートル、天上の端から落ちている四段に仕切られたカーテンには権威を示すキリング国の紋章が大きく織り込まれ、下でまとめる組みひもにも紋章と同色で規則正しく編まれている。


部屋全体を平和の象徴とした花で調度品の全てに配し、テーブルを囲んだ七脚の椅子の座面にも丁寧に織られた花模様の厚地の布が張られている。

広い空間の部屋に対して控えめなティーテーブルも、光沢のある平面の下には手の込んだ透かし彫りが花に囲まれた中央で存在を主張していた。

周囲を花弁のごとく取り巻いた肘掛椅子の縁どりに渋い光沢のある銀色を置き、華やかな色彩を抑えて部屋の雰囲気を居心地の良いように見せていた。


二人の座っている右手の奥には幾重にも重なったカーテンの手前に鎮座している特別大きな肘掛椅子だけが突出して際だち、規則正しい花弁のイメージを損なっている。


ディアンとサスケが入った扉から足音もなくチャード姫が現れサスケを驚かせた。

姫はたくさんの荷物と一緒に帰宅した途端呼び出されたのである。


肌を出さないブローレス国の衣装と一瞬見間違えるようないで立ちで、淡い藤色がチャード姫の身体のラインに巻きつい美しく上品な雰囲気を醸し出していた。

姫は固い顔に二人のザカリーにレクチャーされた運を引き寄せる顔作りを忘れずに案内係の後を歩いて来た。


二人が座っている真向かいの椅子にチャード姫が座るとサスケは思わず笑顔になった。

嬉しそうに驚いているサスケに心から感謝の意味も含めてチャードは笑顔を返した。

この部屋でチャード見知った顔は目の前の二人だけなのである。


数時間、外で高揚したひと時を過ごし、また宮殿に戻って来てしまったのは、

何とも残念ではあるが、キリング国に到着早々チャード姫の運命を左右できる人物に会えるとは思ってもみなかった。


どんな事を言い渡されるのか考えると恐ろしく身がすくんだ。

それとも会見は挨拶だけで終わり、式典後にチャード姫の運命は先延ばしにされるのか。

きっと先延ばしにされるのは間違いなかったが、会見で国に戻さないでと泣いて訴えても憐れに見えるだけである。

ザカリーの言った良い運を招くおまじないで不安を見せず、この場を乗り切ることだけをチャードは考えることにした。

霞のように儚い自分の誇りを前面に出して堂々とした態度を保ちこの場を乗り切る事にした。



サスケとディアンが姫と同じテーブルについている。サスケが何か言いたそうにしたが、言葉を交わす暇もなく、奥の扉から颯爽と白髪の夫人が現れ、席を立って挨拶をしようとしたディアンに夫人はしぐさで座るように言いチャード姫の近くの肘掛椅子に座った。


三人を親しみをこめて見まわし

なるべく冷たい突き放したような口調にならぬよう

気を使いながら言葉を選んだ。

「ごめんなさいね、ぶしつけな事をしてしまって。わたくしは年寄りでしょう、心配な事があると自分で聞かずにはいられないの。ようこそチャード。始めてお目にかかるわね。私が裏切り者のアルウテよ」

と楽しい冗談のように言った。ブローレスではアルウテの事を散々な言い回しで呼んでいる。呼び名のひとつを言ったのだがこれは失敗だった。姫はバックヤードで交される会話など聞いたことは無いのは明らかだ。

「ディアンと奥方にも辛い目に合わせて心苦しく思っています。私がバカな判断をしたばかりに怖い目に合わせてしまいました」

ディアンが目を伏せて軽く頭を下げる。サスケもディアンの真似をした。サスケのキリング情報はブローレスでの騒動で消えて無くなっていた。


二人の態度に満足してアルウテはチャード姫に視線を投げた。あの諸悪の権現の娘である。

「それに、この事はどう受け止めて良いかわからないけど。ブローレスにも私と同じように気骨ある女性が居たと思ってもいいかしら。チャード、国を出て間もないあなたに酷かもしれないけれど、貴方の取るべき道を三つ掲示したいのだけれど」


姫の美しい顔の中にタベノウ王の面影を探す。おもわず花嫁候補者リストを思い浮かべ、リストの中に無い顔に驚いた。

(あら? 王には他に年頃の娘がいたかしら)


ひとまず目の前の娘はチャード姫という事にして話は進めなければならないと、浮かんだ疑問は口に出さ無い。


「一つはこのまま折り返しブローレスに帰るの、キリング国がかかわったという証拠は残さないから貴方の口からキリングに滞在したと言わなければ、宮殿の庭でもあなたの部屋にでも誰にも見つからずに戻れる事が出来るわ。二つ目の道はここに来たという事でたくさんの贈り物と一緒に凱旋させてもいいわ、ブローレスも内心はとても喜ぶと思うの。姫とキリング国のちょっとした弱みを握れるから。三案目はザカリーの申し出でもあるんだけど、あなたは姫の地位は捨てこの国で新たに教育を受けてキリング国の一員になるの。当然ブローレスからいろいろ言ってくるでしょうが、今度こそ私は全部はねつけると約束出来るわ」

だって知らぬ存ぜぬで通すのはブローレスの専売特許でしょう、とは心の中でだけ言った。


ここで話している相手は姫であろうが無かろうが、出て来たばかりのブローレスの人間である。

生国を悪く言われて良い気分になどなれるわけがない。


穏やかで優しいがきっぱりとした女王の言葉を、一言一句聞きもらすまいとしていたチャードの緊張がほぐれた。

大まかな選択肢を女王は用意をしてくれていたのだ。


思わず力を入れてあげていた口角が緩んでしまいそうだ。

「ありがとうございます。ブローレスからこちらに来る船の中でサスケさんといろいろ話したのです。女性も仕事を持って自分の胃袋を満たしても良いと思いますの。幸いにも私は姫と言ってもあまり位は高くありませんの。ですからお言葉に甘えて三つ目の道を選ばせて頂けたらと思いますわ」

嬉しさにチャードは返事を求められてもいないのに応えてしまった。


チャードの素直な返答に気を良くしたアルウテはにっこりとほほ笑んだ。

「貴方の父親を悪く言いたくは無いけれど、昔のブローレスも褒められた生活とはいえませんでしたがダール王とマシュージ王に代わってから悪い方へ向かっているように思えます」

アルウテはダール王の差し金で追い払われるようにキリング国四男の元に嫁がされたのである。

紆余曲折の中王座に一番遠いアルウテがキリング国を統治している。


返答を求められてもいないの返事をした事に気が付き姫は恥ずかしくて赤くなった。

女王が口を閉じてチャードを見ている。


何か良い答えは無いかと思いめぐらしたが、王との思い出はあまりに少なく良い父親だと褒めるには無理があり、けなすことは罪深く、ありのままの感想を素直に述べることにした。


「マシュージ王とは伯母様達を介してしか話をした事がありませんの。その伯母たちは隠しごとが多すぎて、本当に王がそのように命令したのかさえ分かりませんの。ですがもうそんな言葉に惑わされることは無くなりました。これからはじっくりと自分で考えて行きたいと思います」


無知を恥じてチャードは視線を落とした。ダール王とマシュージ王を知っているならチャードが説明することは何もないと言っていい。


生国を恥じている若い娘を前に、

変わらないしきたりで生きていた昔の窮屈さをアルウテも思い出していた。


「年若い女性には何も教えないというのがブローレスの仕来たりですが、良い事もあるのよ。それはね下地が白いとどんな色にも染まる事が出来るのよ。ね」


何も知らないということは恐ろしいことだけれど、必死に吸収した事に無駄な物は一切ないと身をもって知っている。

そのスタートラインに目の前の娘が立っているのかどうかまでは分からないが、それは時間をかけて見守らなければならない事の一つである。


「ええ。しばらくはキリングに馴染めないとは思いますが、できる事から。皆様にお礼をすることから始めたいと思いますわ」


「あら、どんな事かしら」

女王と王子の肖像画を描いて贈りたいと思ったけれど口には出さなかった。


まだ思いついて一瞬しかたっていない。


絵筆の一本も持っていない事に恥ずかしくなりチャード姫は口を閉じてしまった。


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