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Inheritance  作者: KOUHEI
慣習の星
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買い物

サスケはエフリーとイーヴァーがチャード姫だけを街に連れだした事に

不満を抱いていたがなんとか顔に出さぬよう努力していた。


三人が去った後入れ替わり荷物が部屋に到着し、明日の衣装の準備に取り掛かったとき

手助けの召使八人とは別に新しい訪問者を迎えねばならなかった。

彼らが部屋に現れた時、言いようのない緊張感がサスケの身体に走っていた。


軍服を着た五人男性を後ろに従えた鋭い眼をした左大臣と称する人物に、ブローレスからの脱出のいきさつを話すよう要求されたのである。

彼らの口からブローレスへを卑下する言葉はこれでもかと吐き出され、チャード姫が聞かずに済んだ事をサスケはありがたく思った。


審議官を兼ねている男達はメモを取りながら二人の話に耳を傾けていた。

特にサスケの口から出るブローレスでの待遇、処遇を子細に聞きたがった。


到着時、どのような服装で王との挨拶に臨んだのか、逃げだす事の発端となった出来事の詳細はもちろん、庭でのブローレスの兵士に向かっての発言した文言の一句一句まで。早朝船まで引き上げるに到った二人の行動も細かい事まで尋ねられた。


サスケは起きた出来事は完璧に説明できたけれど、

食事時間の始まり、終わり、部屋に戻った時間、眠っていた時間、

逃げ出したときの時間の細かい経過は説明できなかった。ディアンはサスケの説明にほんの少し補足を加えるだけにして多くは語らなかった。


審議官は一人の女性の運命を変えた責任を痛感しているサスケに、

夫ディアンの手前抱きしめて慰めることはしなかったが

大きな信望心と同情心を寄せているのは態度と顔の表情から明らかだった。


彼らが去るとディアンは不思議な目をしてサスケを眺めていた。

ヴィテッカの街の大勢の生き残りの中からサスケが選ばれ、スアレム人に交じって行動していたのは何か理由があるからだと思っていたが、その理由が垣間見えた気がした。


どの星雲にも必ずいる多細胞生物は集まり協力し合う事で生き延びてきた。

多細胞組織の複雑な集合体は植物の胞子のように、目に見えない組織をほんのわずかな距離にだが拡散させ相手の細胞に侵入しているのではないか。

その拡散した細胞の何かがスアレム人を動かし、チャード姫に国を捨てさせ、審議管の信用までも得てしまっているとディアンは思っている。


「やはり、生きたまま連れて帰らねばならん。智慧の細胞組織を付けたわいいが使うとなると厄介じゃな」と誰にも聞こえないようにディアンはつぶやく。


搬入された船からの大量の荷物を前にして、召使相手に熱心にキリングでの礼服の流行などをサスケは尋ねている。

ぐずぐずとしていたサスケの衣装選びも三着分の全てをまとめ上げて一段落し、お茶でも頼もうかと二人が椅子に座った所、アルウテからの使者はやって来た。

夕食前に招からざる客、ブローレスを脱出した三人と会見を持ちたいと言って来たのである。


衣装部屋を右往左往サスケがしている頃、

二人のザカリー連れられたチャード姫も右胸に左胸に肩から首に腰にまかれる色の渦の中に居た。

値段の高い事で有名なグリーで一番の店の奥、スペシャルな客専用の試着室にザカリーは姫を連れて来ていた。

一段高いステージに上がった姫の周りでは小走りに動き回る店員が色違いのドレスを持って来ては去り、ドレスに合わせての装飾品の数も右から左へ姫の前を通り過ぎていた。姫の気に入ったデザイン、二人のザカリーのお眼鏡にかなったものだけが梱包されて部屋の片隅に積み上げられていく。


姫を真ん中に挟んでエフリーとイーヴァーは明日の式典ドレスの自分の見たて主張し譲らず、最後に姫の判断に任せて決定させ次から次へと姫に口を挟むすきも与えず、カジュアルな服からおしゃれ着まで、ありとあらゆる服を試着させていた。


数時間までは一国の本物の姫君で、何不自由なく暮らしていた環境から一変して裸一貫、見知らぬ土地に追いやられたのである。原因はザカリーの妻の起こした不祥事。

二人はサスケの尻拭いに躍起になっていたのだ。


試着室の大きな鏡に映るチャードを中心に、両隣の長身の若者の立居振舞に目を奪われては、耳元で良くお似合いですよと言われれば姫は夢のようにうなずき、二人のザカリーの意見が食い違うとチャードの意見を求めてほほ笑む二人に逃走の計画など消し飛んでいた。


「姫。良い運を呼び寄せるには、小さな努力が必要です。ご存じか」


二十枚の色違いのスカーフを部屋の隅に置くように命じて、差しだされたドレスを姫の前に下げて鏡を見る。

小声で店員を呼びつけて積みあがった荷物を宮殿に持っていくように命令し、チャードに優しく微笑みかける。イーヴァーの頬笑みはどんなに忙しくても完ぺきに作れるのである。


「いいえ、私にできることでしたらなんなりと」

次に渋い桜色のドレスに変えるとホッとした顔でうなずく。派手な色合いの服は好きではなかった。


「口の端っこをほんの少し上げてごらんなさい」


地味な色の服はすぐに下げられてしまった。

空のように青いドレスに代わると、いつものぎこちないだんまりを決め込んだようなチャードらしさが際立って見える。

口角をあげて見る。鏡の中のチャード姫が変化した。


「ほらこの通り。なかなかよろしいでしょう」とイーヴァー。

顔の表情がほんの少し変わっただけで

青いドレスの色合いがワントーン明るくなり、きれいにボディラインまですっきりと見える。


「あら、まぁ」と鏡の中のチャード姫が驚いている。


「少しだけ心がける事で良い運を招き寄せる事が出来ます。まず最初に自分自身を明るい気持ちにしなくてはね」とにっこりとエフリー。


真面目な顔でしか鏡を見たことのないチャードは、ぎこちなくほほ笑んだ自分の顔が珍しくて通過する衣装に合わせて顔を作って楽しんでいる。


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