置いてけぼり
三人が去った後、要人専用のエレベーターは
ディアンの船から降ろされた積荷で一杯になっていた。
特別に許された人間にしか歩行を許されない通路は
押し車の轍の跡が深い毛足に長々と残っている。
グリーの宮殿に現れた宇宙船に積載されている荷物を調べていた検査官が先頭に立ちディアンたちがくつろいでいる隣の部屋へ荷物の搬入を始めたのだ。
大勢の召使によって運ばれた荷物は所定の戸棚やクローゼットの前に置かれた。ディアンは検査官の持って来た許可証と検査対象の荷物の確認作業を強いられていた。
開けはなった扉を通ってを隣の部屋とを何度も往復しているディアンを
恨めしい目つきでサスケは見ている。
二重になった窓の外は切り立った外壁。
陽光降り注ぐ空の片隅に鳥のようなものが点々と飛んでいる。
もし鳥になれるなら、空を飛んでチャード姫と一緒にグリーの街並みに嬌声をあげながら歩きたいとその顔には書いてある。
あまりに落胆したサスケの顔を見るに見かねてディアンは手を休めてサスケの前のスツールに座った。
「サスケ、チャード姫と一緒にいけなかったのは私も残念に思っています。ええ、今頃姫は楽しく街並みを闊歩していると思いますよ。でもね。少しはチャード姫の事情を察してくれるとありがたいのですが」
「分かっています。私が連れ出さなければあの方は国でいつもの日常を送っていたかもしれません。
それに私の衣装選びは時間がかかりますもの。変な格好で皆さまの前に立てませんから。でも、もし、用意をして姫が早く帰ってきて、疲れていなかったら……」
もじもじと所在なさげに答える。
その事情とやらを作った原因は当の自分なのだから。でもなぜか本気でがっかりしているのだ。
ディアンはサスケの消えそうな言い訳を途中で遮った。
「エフリーとイーヴァーはチャード姫の身の回りの品々を求めて街に出かけたのですよ。彼女は下着の一枚も持っていないのですからね。彼らはきっと明日の式典用にも気を配って素晴らしい衣装を見つくろってくれると思いますよ」と二人のザカリーの思惑をサスケに伝えた。
着替えの一枚も、日常使っている髪止めの小さな備品のすら彼女は持っていない事を、なぜサスケが気が付かないのかディアンには解らなかった。
身につけている物はサイズの合わないサスケの船内服と小さな髪の毛を束ねる布一枚なのだ。
「え、それでは明日もチャード姫に会えるのですか?」
サスケの頭の中では着飾ったチャード姫と同じ会場に出掛けたり、もっとうまく時間が取れればまた船内のように姫の顔を見て会話が出来ると顔は明るくなった。
「姫君を式典の間中、この部屋に閉じ込めておくのは酷でしょう。せっかく自由になった身のうえ。彼女が自らブローレスから来たと触れて回らない限り、誰も彼女の生国を知られないですむでしょう。それに我々がそばについていればキリング国の方たちも大目に見てくれる。彼女自身の目で耳で、みたり聞いたりする事が彼女のためには良い事だと思いますが」
サスケの嬉しそうな顔に半分もディアンの言葉の意味を考えているかは疑わしかったがひとまず元気が戻ったのは間違いなかった。
チェック済ませた書類にサインを終えると待っていた検査官に渡し、
箱の中身を出すように召使に指示を出した。
ディアンの言葉に今朝の緊張感が思い出され自分の行動の浅はかさをサスケは痛感した。
彼女はサスケ達に逃げるように言っただけで、本人は国を離れたいと一言も言っていないのだ。
「ごめんなさい。話が弾んでずっとこんな時間が続けばいいなって思ってしまったの。私が無理やり引っ張ってこなければチャードは何でも持っていたのに。私ってなんてひどい事をしたのかしら。船の階段を上ったとき彼女の顔に恐怖が浮かんでいたの、私は自分勝手な思い込みで戻って引っ張りこんでしまった……」
人の人生に手を突っ込んでかき回した自分が恥ずかしく消えてしまいたくなった。
落ち込みの激しくなったサスケに追い打ちをかけても良かったが、
このままでは姫を心配し過ぎてここに残ると言いかねない。
「そう、人は得てして思い込みで動くものです。サスケの行動は褒められませんが、これはあながち良い道へ行くためのギアチェンジのひとつかもしれませんね。彼女はとても魅力的です、人柄も良い。それが助けてくれると思いますよ」
と、軽くたしなめる程度にした。
「はい。私もそう思いますわ」
ディアンが慰めてくれていると思うとなぜかほっとする。
安全な場所でやっと自分の行動を振り返り大変な事をしでかしたと思うが
チャード姫の存在がサスケを明るい気持ちにさせてくれるのはとても嬉しかった。




