エフリーとイーヴァー
ジーヴァス王子と入れ替わりに入って来たのは案内人を断って宮殿に駆けつけていた二人のザカリー。
通路で出会った王子に脱出した三人の様子を聞いた二人は、
慌てる様子もなくゆったりとした足取りで開いた扉の前に立ちノックをした。
窓際の女性二人は灰色の壁の中室内の華やかさとのギャップに驚き、
調度品や装飾の色彩の素晴らしさに夢中で、訪問者の登場に気が付いていなかった。
すでに訪問者と視線を絡ませたディアンは眉毛をちょっと動かしただけで、
二人を向かい入れるためにそそくさに立ち上った。
「やあ、入って下さい。心配をかけましたね。僕とサスケはこのように無事ですよ」
両手を広げ、満面の笑みをたたえて大げさな芝居をした。
負けじと銀髪のイーヴァーも天使のような微笑みをかえした。
二足歩行をする生命体の細部にまでこだわって真似が出来るのは自分だとばかりに、
二人は互いに自分の技量を誇示して見せあっているのだ。
「ユーザーの船は優秀でしょう。ディアンは彼に感謝しなければなりませんね」
口を軽く開くだけで片方にだけえくぼを作る。
左右対称の完璧な顔よりも少々アンバランスの顔が魅力的に見えるのだとイーヴァーは自信満々だ。
しっとりと流れ落ちる銀髪を背中に垂らし、首の後ろを一箇所だけ飾り紐で束ねている。
束ねられない短い髪の毛一房が顔の横に垂れきらきらと輝いている。
引き締まった体を包んでいるのは短いクリーム色ジャケット。襟と袖口には細かなフリルがたっぷりと白い指を縁取っている。左手には塵よけの緑色のマントを無造作に折りかけて、
すらりとした長身を部屋中の人間に見せつけるようにたって、ディアンの肩越しにいる二人の女性をしっかりと観察するのも忘れない。
華やかなイーヴァーと一緒に入ったエフリーは、長いの黒いまつ毛を伏せ視線を落としたふりをして、素早く部屋の四隅や絵画、調度品の細部にまでしっかりと目を配っていた。
稼働している監視カメラが二台ある。カメラからのコードをたどると、たっぷりと人員を侍らせた一室にたどり着く。この部屋の警備員はしっかりと仕事に励んでいるようだった。
「サスケ殿はいかがされたかな。寿命の縮む思いをされたのではないのか。大きな声では言えぬが本当に無事な顔を見られて良かった。安心したよ」
とエフリー。穏やかなほほ笑みを窓際の二人に向けた。
知的で落ち着いた印象を与えるエフリーはイーヴァーとは対照的に耳元まで伸びた黒髪を後ろに撫でつけて、灰色のシャツに同系色のベストと上着、いたって地味な服装だ。同じものは緑の塵よけのマントのみを右手に持っている。
二人のザカリーが部屋に入ってくるとチャード姫は目を見張り言葉を失った。
世の中の男性が皆同数の骨を持ち筋組織を動かして、皮膚で閉じていると知っていても、同じ次元同じレベルで目の前の男性達を語ることは決して許されない。
よくザカリーは花にたとえられるが、確かにその美しさは三者三様の香り高い美しい大輪の花のようである。部屋に三人がいるだけで絵画の花はくすみ、生花でさえ遠慮して魅力は半減して感じられるほどなのだ。
三人の一挙手一挙手が花弁を舞い上がらせ、芳しい香りが部屋中に充満しているかのように錯覚をおこさせ、まったくもって気後れするくらいに三人のザカリーは美しいと姫は思った。
訪問者はにこやかにマントをスツールの上に置くと
正面の肘掛椅子に座りブローレスから命からがら逃げ出した三人の顔を一人一人を見回していた。
ディアンは微笑を顔に貼りつけたままサスケに声をかけた。
「サスケは忘れたのですか。エフリーとイーヴァーを。姫もこちらへ」
窓際の椅子から長椅子に腰かけてやっとサスケは二人のザカリーを思い出していた。
恐ろしい獣の檻の前で気を失った時介抱してくれた二人である。
「サスケには珍しい顔触れではありませんが、チャード姫には始めての顔でしょう。私の兄のような存在の二人です。エフリーとイーヴァーですお見知りおきを。こちらはブローレスの姫君。チャード姫。サスケが私どもの船に招待した初めてのお客様です」と至って優しく二人を紹介した。
サスケはみっともなく倒れたのを思い出し顔を赤らめていた。チャード姫は異なった美しさを持った三人の男性を前に、失礼にならぬよう軽く目を伏せて挨拶にした。目の前にした三人をこの世のものではないと言った言葉で表現したのは的を得ていると姫は思っていた。
初対面の人間は彼らの顔から眼をそらすことが出来ない、チャード姫もしかり。サスケは少し違う、何かがずれていてしきりに自分の行動をどう説明すれば良いかその発端から彼らに話すべきか悩んでいた。
季節は夏に差し掛かり厳しい日差しが建物を焦がしていても
雪解けを待つ地表に降り注ぐ光のように穏やかな声音と
慈しみのあるほほ笑みを伴って語りかける。
「はじめてお目にかかりますね。私はエフリーと申します。美しい姫に会えて光栄に思います」
「僕はイーヴァーです。始めましてチャード姫」
ともすれば光の加減で消える金色のまつ毛に縁取られた緑色の目が優しく二人の女性を見つめている。
「元気な顔が見られて嬉しいですよサスケ殿。あなた方の事をたくさんの方が心配しておいででした。こちらへ向かう通路で少しだけ話を王子に伺いました。よろしければ姫君、落ち着いたところで我々二人とグリーの街を探索してみませんか。聞けばブローレスとキリングは文化的にはかなり開きあるとの事。姫君はグリーの街に興味はありませんか。我々は式典を主催する側ではないので暇でしょうが無いのです」
ゆるく組まれ指がエフリーの太ももから組んだ膝へと。身を乗り出したエフリーからチャードの視線が離れない。
イーヴァーやディアンなどとは違う修練された技術を見せつける。
「エフリー。よい提案ですね。僕もそう思っていたところです。男が二人街を歩きまわっても面白見がありません。いかがですか。チャード姫。サスケとディアンはこれから明日の支度に忙しい身体。慌てて出てきた様子ですから何も明日の準備は出来ていないのでしょう。荷物はすぐに届くでしょうからこれからすぐに明日の準備に取り掛かれますよ。ささっ、姫君は我々と一緒に街にくり出そうではありませんか」
美しい顔を惜しげもなく魅力的に作り上げて、包み込むような笑顔をチャード姫に向ける。エフリーになど負けてはいられない。
魅惑的な笑顔にくらくらしていたチャード姫の頭の中では、会話の断片しか残らなかったが、街に誘われている個所だけは理解したので姫は返事をすることが出来た。
「その申し出を喜んでお受けします。私はグリーの街を一度も見た事がりませんの。今日のごあいさつで私はブローレスに戻されるかもしれません。その前に自分の足で街を見たいと思います」
国を出る事のきっかけを作ってくれたサスケに別れの挨拶をしなければと一瞬考えたが、
そんな事をすればチャードの企みが知られて
一歩も宮殿から出られないかもしれないとすぐにその考えは捨てた。
どんな小さなことでも好機は逃さないようにしなければならないと自分を戒めて、
ひと時天上人のようなザカリーに酔いしれて見せ、まずは宮殿の外へ出るのが大事とチャード姫の頭の片隅はあった。
「よろしいでしょう。ジーヴァスには私が伝えておきましょう。サスケと私は明日の用意を始めるとしましょうか。サスケも行きたいのでしょうが時間があれば、もしチャード姫が疲れてなかったら。お茶の後でも一緒に街を歩きましょうか」
あれよあれよサスケに考える隙を与えず、
後から来たザカリーの二人と姫は街を見学に行くという約束を取り付けてしまった。
サスケは明日の支度をするのだとディアンにくぎを刺され、いや優しいイーヴァーに言われたのだが今はデイアンが言ったように聞こえていた。
「はい」
と返事をしながらも一人取り残された気分を味わっている。
それではと優雅な物腰で立った二人のナイトに挟まれ、チャード姫は夢心地で部屋を出て行った。




