良い兆し
青空に映える白い宇宙服(船内服)を着た女性の均整のとれた後ろ姿をちらちら見ながら、
昨日から悪い想像しか浮かばず呪われたような時間の中で過ごしていた王子は
友人の颯爽とした姿に安堵していた。
三人には見たところ傷一つなく搭乗員は申告通りだった。
大きな心配事が霧のように消え、明らかに緊張の解けた王子は美しい女性の登場に手放しで喜んでいた。
軍を中心とした生活を送って居ると王子であろうと個人的な女性との接触は限られている。
わざわざ演習を一つすっぽかして余暇を作らされ、各国の花嫁候補たちと無理やりデートをさせられるという王子ならではの役得も、形式ばってばかりで面白くもなんともない。
皆選ばれた女性達は素晴らしく行儀がよく、言ってよい事と悪いことを踏まえて王子との対面を挑んでいるから、まるで決められた台本通りの会話を演じている役者の気分なのだ。
女性との会話を監視されている立場の王子に内心同情はしていてもディアンは口には出さない。
「まったく、それだから女性にもてないのだ。うわべだけで見ていると大きなしっぺ返しが来るぞ。機械ばっかり見てないで女性の研究でもしたらどうだ。あの船のシールドは気になるだろう? ここに居る間、性能を調べさせてやってもいいぞ」とディアン。
姫の美しさに緩んでしまった間抜け顔のジーヴァス王子に船の構造を見ても良いとディアンは許可を与える。
監視塔では軍の技術者たちがよだれを垂らしてディアンの船を見ているはずだ。
「何を言ってやがる。うちの技術者たちを舐めてもらっては困る。セラでも最高水準の技術者たちばかりなんだぜ。スアレムの技術何ぞ、もうとっくに追い越しているさ」
屈託のない笑い顔の中に目だけは正直で、ちらりと船の中に入って行く六人の男達の後ろ姿を見ていた。
彼らは上級技官で武器の有無を理由に船内のシステムを探っているのだ。
「そうか」
王子の笑みにディアンも応える。
「そうさ、何だよ。偉そうに、僕よりも機械馬鹿なのに、なんで先に結婚しやがって。おかしいじゃないか。冗談でしたって後から言っても笑ってやらないからな。会場でいちゃいちゃしてみろ花瓶を上からぶん投げてやる。それにしても彼女は可愛いな」
と憎めない笑顔で後方を見てささやく。
同じ背丈の二人の女性は一人は吹き抜ける風に服をたなびかせ、
もう一人は風も揺るがす事の出来ない美しいプロポーションを滑走路の上で披露している。
「サスケの事か」
王子の視線が姫から離れないのを知っててディアンはとぼけてみせる。
一瞬呆けた顔をディアンに見られていた王子は、二人の女性から顔の向きを変えたが目だけは張り付いたように姫をしっかり視野に入れている。
「君の細君もなかなか素晴らしいが、他人の持ち物を褒めても夫からねたみを買うだけだからな。隣に居る女性だ。実に魅力的に笑う。それにスタイルは抜群にいい」
どうにもできない照れ笑いがジーヴァス王子の顔に広がったまま消えない。
「ふうむ、確かに出るべきところは出ているし、引きしまっている場所もはっきりわかる。なかなか良いカーブを描いている」
仕方なくディアンも観賞会に参加した。
何度も褒めたのが気まずくて、王子は大げさに笑って見せるとほんの数秒だけ格納庫の入り口を見た。
が、すぐに二人仲良く景色を見ている女性の後ろ姿を目は追い掛けている。
「部屋に案内する召使が来る予定なのだが……部屋の場所は知っているし。僕が案内しよう。それくらいの歓迎を示さなければ心苦しいからな。船の中の荷物は検査が終わり次第に調査票と一緒に運ばせる手はずになっている。まずは部屋に入ってくつろいでもらう。大変な目に会ったのだ。来たまえ」
友人の顔だけを見て退散する予定だった王子は
無愛想な召使が来ない事を祈って三人を部屋まで案内すると決めた。
美しい女性との一緒の時間を長引かせたいと願っている好ましい王子の態度は、サスケが死ぬほど心配しているチャード姫の未来を、良い方へと向かわせている一つの兆しとしてディアンは見ていた。




