ウスローシ
ホドワ伯父の部屋を辞去したのは深夜を回っていた。
ウスローシは一人になってやっと今日の事をじっくり考える余裕が出来た。
チャード姫はウスローシと同じ母親から生まれているが父親は違う。美しいと褒めそやされていた娘はマシュージの元に連れてこられ、女の子ばかりを生んでウスローシの父親に下げ渡されている。
階級を上げるには優秀な成績を収めることも肝心だが世の中は成績優秀な者だけが上の地位についているわけではない。階級を上げる口実としての試験方式は見せかけだけに過ぎないのは周知の事実だ。生まれついての階級を引き上げるには最も強力な条件は血のつながりである。
ウスローシは幸運な事に同腹の姉が宮殿内にひとり残っている。その姉の名前は書くことはないが母親の名前を筆頭に掲げて順調に出世出来たと思っている。
宮殿の内部は下心のある人間が山ほどいるがホドワはそんな人間が取り居るに隙だらけの男だ。おかげでウスローシは宮殿の内部にまで入り込む事が出来た。
ホドワの周辺にはマシュージの腹違いの兄弟も集まっていて、ホドワを口車に乗せて持ち上げては好きな時に良いように利用していたし、何といってもホドワの優秀な息子二人はホドワを毛嫌いしマシュージの下で働いているという、複雑な人間関係を作り上げている。それらを掌握し利用する事でもう一つ階級を上げる事が出来るとウスローシは信じている。
おそらくホドワの部屋を出たもの達は明日の呼び出しを気にして温かい布団の中に入っている頃、ウスローシは自室に戻らず西の建物方へ足を向けていた。
宮殿に上がるようになって下っ端のウスローシはチャード姫と会話をする機会を多く作った。
若い女がむやみやたらと男と会うのはよくない前触れだと思われるが、親、兄弟だと別である。
チャード姫は朗らかな人柄で周囲の誰からも好かれている女性だ。
王の娘にとして生まれた宿命は避けられず、彼女は幾度となくお見合いを強いられていたが、前見会止まりで話は進まずにいる。
本式の見合いまで進まないのには理由がある。彼女は緊張すると口がへの字になり怒ったように見える。母親似の鼻から上と父親そっくりの口元と顎。普段の笑顔の彼女なら魅力的で可愛いのだが緊張を強いられた場面になると顔は強張り、父親そのものの厳めしい雰囲気を醸し出してしまう。
夕食会にも、末席でチャード姫は出ていたはずだ。ウスローシはあからさまに盛り花の向こう側を見る事が出来なかったが台所にまで行けばチャード姫の残り香でも嗅げるのではと考えていた。
宴席での話題の客が散々な目にあってブローレスから立ち去ろうと構わないが、優しいチャード姫が心を痛めるのはウスローシは我慢できなかった。
夢見がちなチャードは世間知らず可愛い女性だ。
マシュージ王が他国に嫁がせることをあきらめたらそっとホドワに口添えを頼もうと思っている。
彼女が夢中になっているどこの誰とも知れない男の運命などどうでもよかったが、たかが上着一枚にそれだけの金をかけられる男がいるという事も驚きだが、もしかしたらその上着一枚が彼女と自分の立場を変えるとしたらそう思うと興奮して眠れそうにない。
ホドワはマシュージ王の出方次第だと思っているが、行動を起こすならば早くやらなければとの思いがある。
ジーヴァス王子は明日の夕方までには何らかの理由をつけて客人をキリングに呼び戻すだろう。
何といってもキリングの客なのだ。
しかしマシュージは式前日まで引き延ばす気でいる。マシュージは思案しているのだきっと。
もしチャード姫の事を父親として考えているならば、あの金持ちの男は娘の入り婿にと望んでいるかもしれない、それとも娘をあの男に強引に押し付けて妻の座に座らせるだろうか。
キリング国とのこれからの付き合いを考えるならば下手な策は打てないはずである、
しかし…これまでの事を考えるとマシュージはまともな解決策を考えるとは思えない。
それがよい証拠にさっきの居間での会話だ。とてつもなく大変な金持ちだと皆の前で言ったことから考えるとあの中の誰かに客を襲えと言わんばかりではなかったか、しかも期限付きで。
たぶん王は自分の手を汚さずに息子の誰かに、盗ませようとしているのではないかと話しに耳を傾けながらウスローシは感じていた。
喉から手が出るほどブローレスは兵器が欲しい。大国と肩を並べるだけの軍隊が欲しいのだが商売はうまくいかない。
恐喝まがいの策を練らなければならないほどブローレスの国は貧窮してい。
荒れ地の中にある鉱山の調査隊を編成させ隣国の企業を呼び寄せ坑道に幽閉し(人質にとって)調査費用を請求した。
それもばれ、隣国は警戒してかなり好条件でないと契約もとれなくなり、なにより隣国はブローレスに人を送り込まなくなった。




