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Inheritance  作者: KOUHEI
慣習の星
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酒の席

ブローレスでは食事が終わると男女は別々の部屋でくつろぐ。

床に近い低い座椅子に男達は胡坐をかいて座り込み、広い背もたれに寄りかかっている。


ここでも最初に口を開くのはマシュージ王である。


「噂に聞いてはいたが、ザカリーとはとんでもない金持ちを後ろ盾にしているようだな」


可愛い娘の惚れた男なら正式な婿とりはしなくとも、娘が飽きるまで国の中に一緒に住まわせてやろうとの親心だったが、到着早々男はどこかで調達した妻を引き連れて挨拶に現れ、大いにマシュージをがっかりさせた。


開口一番に先ほどの夕食に出ていた、物静かな客の話題を振られて兄の顔色を盗み見た。

とうとう話題のネタに困り皆の興味ない話で場を白けさせるつもりなのだろうと弟は思った。


「どんな噂をお聞きなのですか。けつの青いひよっこではありませんか。とても金持ちに何ぞには見えませんよ。変にきらびやかで若々しい装いだし。兄さまの言うとおり髭も生えていない子供ですがな」

王の弟ホドワはアルコールの回った頭で思う存分正直に感想を言った。女も客の声も邪魔をしない良い食事時間だったと思っている。


それに昼に客に会ったマシュージは部屋に戻るなり客を口汚くののしっていたのだ。


ホドワの隣にいつもいる腰ぎんちゃくの男が目を丸くしている。王が気に入らない客の話題を口にするのに驚いているのだ。

ザカリーという名前がなにを意味しているのかを知っている男は、客の正体を知って今日二度目の衝撃を受けた。


「あれがそうなのですか? 姉のチャードがキリングで目にしたザカリーというのは。何もできそうに見えないが、肝だけは座っているようですな」

姉とは言っていてもウスローシの母は妃の座から追いやられ、市居の男に下げ渡され妃の位は二十数年前から失効している。それに同腹でも一緒には育ってもいないのである。が、マシュージ王との繋がりは細くても強調してすることでこの場所に居る正当性を暗にウスローシは主張してきた。


マシュージは小さくため息をついた。ここに居る弟、息子や甥、は客の醸し出す雰囲気だけを見て取るに足らぬ人間、身分の低い人物と評価してしていると思った。ブローレスの男ならそれが当然なのだが。


「若者の服装をよく見たか。袖や服の裾に丸くカットされた宝石がびっしりと縫いつけられておった。あの宝石の出所はサルッツアだ。石を研磨したのはサルツ人だと知ったらどうだ」


夕餉の席で一番金のかかった服装をしていたのは客の二人だけである。鉱物に詳しいブローレスの男ならサルツ人を知らないはずは無い。


興味を示したのは弟の息子だ。浅はかな知恵しかもっていない父親と違って、世間に目を向けてきちんとした情報を持っている。

「ほう。図体はでかいのに細かい研磨作業に従事しているという。サルッツア、職工の星ですな」


甥の後に意見を言う者はなく、新たに出された爽やかな風味の酒に他のみんなの気持ちは取られていた。


のど越しの良い酒は、腹に詰めた食事の嵩が減るような感覚を皆に与えた。

「うまいの」


客の着ていた衣装何ぞの色も覚えてない息子は、遠い空の上の異星人がキリング国には沢山やって来ているというのに、我が国に来たのはひょろひょろと軟弱そうな若者一人だというのが不服だ。

空の上と交易が出来ると知ってから五十年は経つのに、いまだにブローレスは近隣国のみとしか商売が成り立っていない現実はひどく狭苦しく感じられた。


「ふん、サルツ人は身体は大きいが目は見えぬらしい」

他の星の住人の技量など興味の無い男は小さな知識をひけらかして鼻を鳴らした。


「ほう、それでそのような技術を身につけたのか」

目の見えない大柄なサルツ人がいかにして金儲けが出来ているのかを知って隣の男はうなずいた。


男は伯母から聞いた知識をさりげなく口にした。女から聞いたとはそぶりも見せない。

「ユーザーの作った服を一着持つにはべらぼうに高い金がかかる。それをザカリーという奴等はとっかえひっかえ持っているという噂だ」


「影のパトロンのお陰でしょう。うらやましい事で、一体だれがザカリーの後ろに居るのやら。そのサルッツアのデザイナーではないのですか影のパトロンと言うのは」


「さぁデザイナーと言う仕事はあまりもうかる仕事ではないと聞くが。一介のデザイナーより国の財政を預かる立場の人間ではないのか」


「それじゃ…間違ってもキリング国の女王ではありませんな。彼女はジーヴァス王子に必死で金をかけて調教しようとしている様子」


キリング国の女王を皮肉って顔をゆがめて笑う。


「父上は明日のケバング峡谷にあの若者を誘うつもりですか? ですが我らはもう充分にあの客を知りました」


「明日の夕餉の前に引き取ってもらいましょう。変な臭いをさせて食事がまずくなる。全く女のように香料を振りまくとはどんな神経をしているのやら」


「だから女どもに人気があるのだ。ああいった刀も槍も持てない男が金を持って着飾ると……なんというか、浮世離れして見えて良いのだろう。あれはまだ子供だて。本当の世間を知れば顔つきだって変わるというものさ」


高らかに笑う息子や甥達の顔を見ながらマシュージは考えていた。甥達の思惑とは違い明日の夕餉も一緒に取るつもりのマシュージはその先を考えている。


「お前達は世の中の物の価値を知らんな。あの若造の袖についていた宝石一つで、戦闘機が一機買えるのだぞ」


「ヒュー。ご冗談を」

息子は胃の中のアルコールが身体に巡るのを心地よく感じて、父親の話などろくに聞いていなかった。


「冗談なものか。服の色に合わせてさりげなく縫いつけてあるが、あれはブルーダイヤだ。その価値を知っているか」


マシュージの話をまともに聞いているのは、ホドワの腰ぎんちゃくウスローシと王の三男坊だけのようだ。

「知っているも何も。あれが無いと宇宙船は飛ばないと、聞いた事がありますが。しかし偽物でしょう。そんな高価な宝石を服につけるとは気違い沙汰ですぞ」


興味を持ってくれた長男が真面目に答えたのを王は気分よく聞いていた。


「今朝の挨拶の時は地味な紫の服だったが、ザカリーの代表だという証拠に、たすきにあれよりももっと大きな宝石をつけてきおったわい。ドミトリーのお茶会にはまた違う衣装に着替えて、色とりどりの宝石が散らばっていたそうな」

と、客の金持ちぶりを披露した。


「ほうー。そりゃまた、たまげた話しで」

「妻のほうも同じ衣装を着ていたが、二人合わせるとどれくらいの価値なのだ」

「たぶん、天井知らずだな。」

「父上はなかなか面白い奴を呼び寄せたものよ」

「それでどうなさるつもりですか」


皆が感嘆の声を上げるのを聞いて、誰があの客にどんな仕掛けを考えるだろうかと見まわしたが、酒の入った頭で込み入った策を練っている者はこの場にはいないと王は思った。


全ては客の滞在する二日の間に行わなければならない。考える時間は十分にある。

「ん? 思案中よ。キリング国の手前、式典に出席させない訳にもいかないからな」


マシュージが思っているよりザカリーの若造は小さな失敗も無かった。ふつうは最初の挨拶で腹を立て女どもの所へ行った際には安易に本音が出たり、挨拶の時のマシュージの様子など気にして女どもに探りを入れるはずなのだがそれもなかった。妻だという女は最初の挨拶でも顔もあげず口も開かないという念の入れようだ。


食事中も沢山いる女の一人ぐらいには声をかけても良さそうなのに、まったくマシュージの思惑は外れてばかりいる。

しかし明日になれば二人の客のうち一人は、間違いなくこの緊張感に耐えられずぼろを出すに違いない。

そうなればあの若造をこのブローレスに足止め出来るとマシュージは思っている。それが小さな罪になるのか首をはねるような重罪になるのかは明日の彼らの言動次第である。


酔いのまわった口が朗らかにまっとうな意見を言った。

「式典が終わればこちらに戻るようにしてもらえばどうか?」


「そんな悠長な事をするより。身ぐるみ剥いで追い出せばよいではないか。ザカリアートの代表か何か知らないが、誰もあのような青二才がのたれ死んでも、ここいらじゃツタの養分になるだけさ」


「おいおい。あんなやわな奴がこの土地の一部になるなんて冗談でも嫌だね。川に流して隣の国まで行ってもらおうじゃないか」


「ひとまず明日の夕餉には顔を出さないでもらいたいね」


「まァまァ、明後日にはキリングに向かわねばならんのだから。それまでの辛抱さ」


派手に着飾った服を着た、女のような細腰の男など、

この世から消えればよいという皆の意見が出揃ったところで

マシュージの機嫌は最高に良くなった。


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