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Inheritance  作者: KOUHEI
慣習の星
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不思議な食事風景

スープと軽いアルコールで腹が満たされたマシュージ王は、

ゆっくりと今日の夕食会に集まった顔ぶれを眺めた。


左右に並んだ顔は皆マシュージの血縁者ばかりである。大きな盛り花の向こうも、ここぞという時に頼りになる女達が控えている。


気になるのは照明を落とした落ち着いた光の中だというのに、ひときわそこだけが明るく浮いて見えるの場所がある。昼間来た客人の席である。

マシュージは見まいと目をそらしても、知らず知らず明るい色彩を放つ客の座った場所に目は引きつけられる。


「近頃は男が女に下手に出るのが多くなったんだそうな。ふん、それでどこへ行っても男が女以上に着飾り歩きまわっておる。隣国のニュースに、男が襲われて身ぐるみはがされたなどという話題が一日に一回はある。しかも追い剥ぎは男だそうだ」ふんと鼻を鳴らす。


憤懣やる瀬ない話しぶりはマシュージの特徴なのだがこの日は少々大人しかった。


「仕事にあぶれた者共がうようよいるらしいですから」

物知り顔で隣の長男が答える。


「聞けば大半の女が男の仕事に就いているそな。まずそのあたりが間違っているのでしょう」

次男も鼻の上にしわを寄せながら長男の意見に賛同した。


「ああ、私も何度かそのニュースは見た事がある。陽の光がある大通りを車に乗っていたり、顔もからだも隠さず歩いている女達がうようよいる。それを許すからいけないのだ。近ごろの隣国の風潮はよくない方向へと流れている」

三男は使い走りのような情報収集ばかりさせられているので、誰よりも言葉の数は多い。


口火を切った王の最初の一言は、ディアンへの嫌がらせだと重々承知していたがそれくらいの事で腹を立て食事の席を立つことなどディアンはしなかった。


王以外の十人の男達も、着飾って綺麗なだけの男は目の端にかかっても嫌だとばかりに誰もディアンのほうを見ない。


それでも彼らは客人の体面も考えて、話題の論点を別な方向に向けようとしていた。


「明日はわが国でも一番美しいといわれている、ケバング峡谷に出掛けるとしよう。昼食は美しい峡谷を見下ろす高台はどうだ」

気取った料理だと心の中で言い、添えられている葉っぱをフォークではじいて皿から出す。

コックの気遣いで作られた、流行りの料理など虫唾が走るくらいに王は嫌いだった。


腹違いの兄弟の一人が王の意見を持ち上げた。

「おお、いいですね。湿地帯は苔が繁殖して見事でしょう。最近雨も降っていますし滝が現れているやも知れませんぞ」

王が気晴らしにどこかへ行こうなどと言ったのは何時だったかを返事をしながら考えた。十五年近く宮殿で暮らしているが思い出せなかった。


王よりも少し年が若いが髪の毛に白いものが混じった男は、柔らかい微笑みを浮かべて思い出すように言った。

「素晴らしい案だな。あの谷に下りたのはいつだったかな。丘の上は草が波のように風に吹かれて。ほれ、峡谷の下まで降りて行った事があっただろう。覚えているか。でかいシダやら樹木が生えてまるでジャングルじゃ。あの中に入り込んだら、わしは生きては出られんと子供心に思ったものじゃ。凶暴な獣がいそうじゃろ。はっはっはっ」

食事中の会話でしか実の兄とは対等に話せない弟は、場を盛り上げる事にして快活に笑った。


「我が国一押しの観光資源のひとつですからな」

また一人、腹違いの若い異母兄弟が満足げにうなずいた。


母親の容姿一つで生まれる子供の顔つきが嫌でも変わることを、毎日見せつけられている兄は異母兄弟の上げ足を必ず人前でとらなければ気が済まない。


「違うだろう。あのような美しい谷はどこにもないぞ。近隣諸国は伐採しつくして原生林など残ってはおらぬ。もっと父上はあの谷を整備すれば観光客も呼べるだろうに。俺はあの谷を知ってからそう勧めているのに。先祖伝来の土地だから手を入れてはならぬの一点張りだ。もったいないと思わぬか」

と異母兄弟にではなく同腹の兄弟に賛同を求めた。


父親に逆らう気の無い弟は安全な言葉を選んだ。

「王には王の考えがあるのだろう。それに神秘的な力のある場所と言うのは早々ないからそのうち貴重な存在になるかも知れぬ。そうは思わぬか」


「神秘的……いい売り言葉だなそれは使える。明日はじっくりと谷の様子を見るとしよう。これからの国を考えるならばあの場所が一番要になるやもしれんて」


得意満面な兄はどうやったらこの話が本格化し、自分の成功につながるかを想像していた。


すぐにおいしい話に飛びつく息子を軽薄と見るか、若さだけで仕事をやらせ手痛い目に会わせ経験という勉強をさせて良いかもと瞬時に閃いたが、

「お前は寝ても覚めても派手な商売の事しか考えておらぬな。早々に新しい事業など起こせぬ。もう少し鉱山のほうにその力を入れてみたらどうだ」と言うにとどめた。

まずは足固めが一番大事だという事を教え込まなければならない。


「しかし父上。鉱山は競争相手が多すぎる。安く値を叩かれてばかりで面白くないわい」

と息子は本音を吐いた。新しい鉱山を発掘するには精密な掘削機が居るし隣国から技術者を呼ぶには金が多くかかる。何が一番に嫌かと言えば隣国との交渉だ。


「それが商売であろう」

短気な息子に声音を変えず諭すように言う。


「駆け引きは時間ばかりがかかる」

ぶすっと兄が答えると王の右手が軽く上がり。メインの料理が運ばれてきた。


そろそろこの会話の中に女性も入って来ても良い頃合いだったが、年長者の伯母は食べ物を口に入れているとき以外は値踏みするようにじっとディアンを見たまま口を開こうとしなかった。


年長者が口を開かないので他の女性達は仕方が無く、手元の皿の中身を腹に詰め込む作業だけを黙々とこなし続けている。


ディアンは男性達の話に興味を見せず、袖口に入れておいた袋めがけて、肉の切れ端を素早くナイフではじいていた。

隣のサスケもいかに自然な動きで食べ物を、膝の上に置いたナプキンに見せかけた袋に、入れられるかを考えて居て、自分の名前を呼んで意見を求められるまで、目の前の食事の量を減らすことだけに集中している。

皿の手前に切ったものを置いては胸がつかえたようなふりをして、両手で胸を抑えたり身体を前かがみにしたりして袋を一杯にしては腰にさげていた巾着袋に詰め込み、胸元にも隠していた布も咳が出ている風を装い次の料理に備えている。

(本当に毒が入っているように見えるんだけど。テーブルは明るいけれど壁のランプのせいかお皿に変な影が出来てる。私とディアンの皿だけ違って見えるよね)

と前の女性の食事と見比べては疑いを濃くしている。


ディアンが沈黙を守り一向に男性達の話に加わらないのを女性の年長者は不思議に思っていた。

これだけ盛り上がっている話に一切加わらない男性を見たのは初めてである。

客は身内の話に加わってはならないという慣習はどの国でも廃れている。近年客を不快な思いにさせぬよう客の話を一番の話題にするのが主賓の務めとか、礼儀とされているらしい。そのせいかブローレスに来る客は皆王の服装をほめちぎり、調度品の謂れを聞きたがりどんな話にでも首を突っ込んでくる。

それが若い客には無い。

午後のお茶会でも年長者が挨拶をして言葉をかけるまで、誰とも言葉を交わさず目礼だけで済ませていた。

若さゆえ世間知らずなだけだと思っていたらそうではないらしい。

これは困ったと年長者の伯母は考えていた。これまでのようにこの若者を同じに扱っていいものか不安になった。

これと言って特別、何かと言う事柄が浮かんだわけではなかったが良くない事が起きそうだと伯母は思った。

盛り花の向こう側では男達が他愛のない昔話に花を咲かせていた。

もっぱらしゃべっていたのはホドハ叔父、実務を伴わない役職ばかりについているせいか伯母には、中身の無い話が耳障りなだけだった。


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