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Inheritance  作者: KOUHEI
慣習の星
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声をひそめる

サスケはさっきの自分の口から出た言葉を思い出して冷汗をかいていた。

忍び足で寝室のドアから広い居間に入り通路側の色ガラス窓を見ながら壁を伝い、

汗でぬれた服を着替えるために衣装室のドアのそばに立った。

そおっとノブを回してドアを開け身体を半分入れたところで、耳慣れた声が後ろから聞こえた。

「サスケ、戻りましたよ。お待たせしましたね。夕食会の準備をしましょうか。おや?」

何の前触れもなくあらわれたディアンにサスケは驚いた。


ディアンは後ろ手に扉を閉めると、小さなかんぬきをかけ、つけてきた召使が通路から去るのを待った。

色ガラスの影はしばらく客間の中の様子をうかがっていたが、室内の会話が途絶えると影は消え、足音は回廊を使って裏の寝室に移動して行った。


ドアノブを持って立っていたサスケは、長身のディアンの姿が頼もしく見えてならない。


衣装室に入ったサスケを追いかけて、足音もたてずにディアンが入ってくると、サスケは大きく胸をなでおろした。

宇宙船の中ではディアンの視線を極力避けていたサスケだが、今では若くて華奢な身体も、気取った口ぶりも気にならなかった。頼るべきは常に平常心のディアンだけだと心底サスケは感じている。


衣装室の中央、衣装箱が乱雑に重なっているそばで、ディアンはサスケがひどく興奮しているのを怪訝に思った。

「何かあったのかい」

と尋ねられ、


言うべきか一瞬だけ迷い、サスケは叱られるのを承知でディアンが去ってからの自分の行動を包み隠さず語った。


ディアンは顔色一つ変えずにサスケの話を聞くと、

「終わったことです。気にしないほうがよいでしょう」とだけ言った。

庭での出来事は騒ぐほどの事ではないと本気で思っているのか

非難めいた言葉は一言もディアンの口から出なかった。


「それよりも夕食会です。今の話を夕食会で出すことは良い事ではありません。ここでの女性の行動制限があるのを知ったからには、食事会でサスケは一言も声を発しないほうがよいでしょう。兵士を罵倒したのがサスケだと知られてはいけませんからね。なに、明日には早々にここを逃げ出す算段を致しましょう。ここは牢獄よりも悲惨な所のようですからね」


最後の一言は普段なら冗談と受け取れたが、庭の探索中に兵士に出会った事とブローレス国の男尊女卑を知った今、現実が肌の周りでチクチクと刺してサスケは笑えなかった。


ディアンは意気消沈したサスケを励ますように明るい口調に徹した。


「もう一度言いましょう。決して男性からの質問に直接女性は答えてはなりません。年配の女性がいる場合、その方が口を開くまで若い女性は口を開いてはなりません。よろしいですね。それさえ守っていれば……」

強張ったサスケの顔を見て、もう一つ怖がらせてもこれ以上悪くならないだろうとディアンは思った。


「そうですね。サスケは一食抜いても平気でしたら。今夜の食事は口にしないほうがよろしいでしょう」

撲殺や刺殺は昔の事で、現在は神経性の毒を使って国内の病院に収容していると知ったら、サスケは飲み水にも手を出さないだろう。


「えっ。食事の中に何か入っているとか……」ディアンの言う意味をすぐにサスケは察した。

唖然としてサスケはディアンの顔を見上げた。そんな事をしていたらだれも信用できないではないか。


信じられないと首を振るサスケに、こんなことでうろたえてはいけませんと付け加え、安定した穏やかな声に変化を見せない。


「それに似たものが入っている恐れは十分にありますね。お手ふきか何かでたべたものを包み隠して捨てるとしましょう。大量には無理ですが少量なら出来ますでしょう。残りの料理はおなかがいっぱいという事で皿に置いても差し支えない。無理をして食べる必要なありません。我々はよそものです」


サスケを安心させるように笑って見せる。サスケの心臓の鼓動は部屋に入ったときから強く打ちディアンが何か言うたびにすぐに反応している、よほど庭では衝撃的な行動を取ったのだろう。


部屋の外にちらりと意識を向けながら、今更ながらジ-ヴァス王子の頼みなど断ってしまえばよかったものをとディアンは後悔した。

たかが一日二日のこと、キリング国の招待客を横取りして国内から出さないのではないかという心配は現実のものになろうとしている。


昨今どの国もブローレス国内での接待を露骨に断るようになってきている。あまりに差別的で閉鎖的な考えの王は商売のため他国に出るようになったが態度の横柄さは全く変わらない。

朱に染まれば赤くなるというがこのブローレスだけは例外だ。


権力を行使できる相手が居るという事はブローレスでは不可欠はだ。自分より発言を制限された人間の存在はたまったうっぷん晴らすには絶好の相手だからだ。年齢と性別で差別されるブローレスでは画期的な事に個人の能力は試験で認められていたか、それすらも親の等級が関係して昇給するには制限があった。

ブローレスの国民は自分よりも上の等級を望み、上司の失敗や行動には目を光らせていつかその座を取って代わろうとしている。

王の客人であろうとどんな用事で出向いてきたか、何を王に献上したかを知りたがり、客人付きの召使たちは些細な情報でも高く買ってくれる要人を片手の指くらいは知っていて、実際に盗み聞きの能力を買われて月々のお手当まで貰っている不届き者まで居たのである。


客人が盛られた薬で食事中気分を悪くしたり、倒れることもしばしばこれまでにはあった。倒れた客人を解放すると見せかけて客人の部屋で荷物を物色し、失敬するのは当然のように行われている。

ブローレスの良くない噂はこれだけに留まらない。

サスケが知った事の百倍以上の悪事は、王を主体に行われていると知ればサスケは一歩も部屋を出なかったと思うが今は兵士らの言動を受けて自らブローレスを調べている。

それで良しとしようとディアンは思った。


何が起きてどうなるのか、まずは宮殿内にはいないはずの兵士が居たこと。

サスケが部屋を出る時には張り付いていた召使が居なかった事を考えると兵士の目的はひとつ、サスケの拉致か、殺害。


兵士が目的を果たせずサスケが兵士に手向かい、

逃げ出していても不届き者を捕らえようという動きは宮殿には見られない。

宮殿内にいるたかが女二人を捕まえるくらい造作もないことぐらいディアンに分かっていた。


まずは夜を待って相手の出方を吟味しなくてはならない。中庭で動かない微量の電気シグナルに苛だちを覚える。


忍んで来た足音が庭の奥に止った。合計、二人の部屋を見張って潜んでいるシグナルは四人になった。

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