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Inheritance  作者: KOUHEI
慣習の星
62/168

自由時間

午後の太陽が厳しさを増す時間帯、

タベノウ・マシュージ王のたっての願いを(命令を)ディアンは聞き入れて

王の縁戚者の茶会に呼ばれて、サスケは一人部屋に残されていた。


いつもは夫婦は二人で一対であるから一緒に行動をともしないといけないと言っていたディアンも、ひとりで来てほしいと王に命令されれば行かない訳にはいかず、くれぐれも散歩に出ても遠出せず人影が見えたらば部屋に駆け戻ってくるようにサスケに言い含めて行ってしまった。


一人残されたサスケはぽっかり空いた時間を持て余している。二着用意された衣装を見ながら見聞を目的としてヴィテッカを出て来ているのに、部屋の中で時間をつぶすのももったいないという思いがむくむく頭をもたげて、サスケなりにあれこれ考えに考えた末、ちょっとの時間ならば見て回り感想を書いておけば夕方までの暇つぶしにはなると自分に言い聞かせて支度をする事にした。


ディアンの用意してくれた衣装も素敵だけれど、宮殿外の緑の葉の美しい場所にピンクやオレンジの衣装は目立ち過ぎてサスケは不似合いな気がした。


幸いにも大きな衣装箱には沢山の服が入っている。


なんとか衣装箱の中から緑色の柄模様の服を見つけるとそれにあった薄物の(もちろん緑色の)ショールをすっぽりかぶって首元で端を結ぶと緑の妖精の気分になった。サスケの想像の中では緑の中に溶け込んで誰の目にも見えない。


鏡に映った自分の姿に満足して、

「これなら大丈夫だわ」と悦に居る。


そっと衣装室の扉を閉めて、ディアンの気にしていた居間の外の召使の姿を探した。通路に面した色ガラスには人影は無かった。念には念を入れて扉を小さく開けて回廊の奥にも誰もいない事がわかると、サスケは気分が大きくなった。


一つ通路を挟んだサスケ達が居る部屋の両隣りもノックして返事が無いのを確かめ、客は自分たち以外に居ないのを確認し、もともと一目で見渡せる中庭なんぞ興味は無く、宇宙船を着陸させた中央庭園に足を向けた。中央庭園には池があるのだ。


周囲を緑の葉っぱに囲まれた庭に小走りで入り込み、少々緊張したサスケはこそこそと細心の注意を払い、植え込みの影から影へと人目に触れないように願いながら楽しんで飛び込んでいた。


中央庭園と呼ぶにはあまりに広く、どの方向を見ても人影は見えない。

(昼寝の習慣があるのかしら)


植え込みの間から透き通った水のあるの池がみえている。池を中心に建物がぐるりと取り巻いているようだ。

池の水面はサスケの気持ちを高揚させていた。サスケの背丈よりちょっと大きい樹木が良い隠れ場所になって難なく目的の池の縁まで近づくと、喜びの声をあげそうになった。


水辺周辺にも人影は無く、コフラのように大きな海獣、恐ろしい水生生物はいないようである。

しっとりとした水面の上にもツタは伸びて所在なさげに風に吹かれて漂っている。


石垣の上で腰をおろし、ついでに石が頑丈でサスケが乗ってもピクリとも動かないのを確認してから、身を乗り出して水面の中を覗き込む。

透明な液体の中にはサスケの知らない時間がゆるやかに流れていた。


ツタの緑の葉の陰に小さな魚の群れが泳ぎまわり、小魚が泳ぐと水の中のツタの葉も揺れる。

もっと近くに見たいとサスケの鼻先が水に触れたと思ったら、そのまま顔から池の中に肩まで浸かっていた。

慌てて腕の深さしかなかった池の中に手を入れて身体を起こすと、サスケに絡まりついたツタを引っ張った。


「もう、こんな変かぶり物をしているから距離感が分からなかったんじゃない!」と言い訳した。

「うん、もう!」

緑のスカーフに緑の葉っぱが重なり、濡れた結び目は取れそうにない。


むやみやたらにツタを引っ張ってツタが切れない事がわかるとクモの巣に絡まった気分で一本一本辿っては首を絞めつけていたツタを池の縁に落として踏みつけた。

「なんて、丈夫な草なんでしょう」

と今の醜態を誰も見ていない事を願って辺りをサスケは見まわした。


池の中には大きな岩があり立派な木が生えていた。透明度の高い池の水は満々と満たしている。

不思議な事に池の周辺には池への道がどこにもなく、サスケよりちょっと背の高い木々が池の縁に囲うよう植えられている。


間抜けな姿を誰にも見られなかった事に胸を撫で下ろし、そろそろ部屋に戻るか考えたが部屋から出てちょっとの時間しかたっていないと思いなおし、もう少し部屋に帰る時間をのばしてもよさそうだと勝手に決め、もっと大きな水生生物を求めて根元までびっしりと枝葉で覆われた木々の抵抗に遭いながらも進んでいくうち、縁の植え込みを回りこんで池の深い方向へと行っていたはずが、樹木を迂回しすぎて池からかなり離れてしまった。


人の手で切り取られた植え込みの影に入り込み、腰を上げてそっと周囲を見回して池と建物の方向を見定めた。


サスケの部屋の屋根は薄い紺色の瓦ぶき壁はクリーム色に塗られて明るい。今見ている平たい建物の壁は草色だからきっと近寄ってはいけない建物だと認識すると、自分の歩いてきた方向からしてもっと右へ回れば部屋に戻れる。だがサスケはもっと先へ行きたくなった。


サスケの腰までに刈り込まれた植え込みを離れて、左に向かうとちょっとだけ背の高い木があった。

その枝葉の影に飛び込み、ドキドキしている心臓の音に喜びを感じていた。

高い低いの繰り返しで植えられている八本目の樹木の影で足を止めて、かがめていた腰を伸ばした。


さっきからサスケの足音とは違う別な足音が聞こえたような気がしていたのだ。

三本寄せ合って植樹してある複雑な木の根もとの裏に入り込み足音が遠ざかるのを待つ事にした。


足音と枝葉を打ち払う棒が降り下ろされ、風を切る音が声とともに近くなった。

「ジョーザの言っていることは確かか。本当に部屋はもぬけの空なのだな」

「ああ、間違いない」

「こんなに早く好機が訪れるという事は無い」

「どっちみち呼び出して、池の途中で始末するつもりだったのだろう」

「仕方が無かろう、生意気な女らしいからな。誠に小賢しい知恵などを付けて女ごときがの。これも世の中のためぞ」

「ああ、そう思うぞ」

垂れ下がったツタを伐り払いながら声はサスケから離れて行った。


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