静観
執事が召使を十人従えて緑の中から突然現れたようにサスケにはみえた。
庭は高木と低木を組み合わせ複雑な通路を作り上げ、野趣に富むように種類の違った木々をアクセントにしているがどれもツタに覆われてその試みが成功しているように見えなかった。
宮殿は波のようにうねった緑のカーテンをかけられた中央庭園を真ん中に配し、東西南北に四階建ての建物が壁のようにのように聳え建っている。
主の居る東の棟の並びの一角からタベノウ・マシュージ王の命令を受けた執事はうしろに屈強な男達を引き連れていた。
彼らが近ずくと身づくろいをきちんとした執事がいなければ、ならず者を取り押さえに来たと言っても良さそうな男たちだ。
サスケは狭いタラップから足を踏み下ろしたとき意外と固い土だと感じている。
一面緑色で埋め尽くされた空港広場は、低木でぐるりと円に囲っていて庭とは違う空間を作っているらしかったが地面を這うツタは乾燥した土の上を這い伸びて庭との境界線を失くしていた。
ツタの育成能力が優れていると知っていても、サスケはあまりの繁殖力にただ驚いていた。
執事は宇宙船の隔壁から出された三箱の荷物を見上げて、召使の数が足りなかったのではと思ったが、表情は変えず召使に指示を出して二人の前に立った。
「お持ちしておりました。お部屋に案内いたします」と細身のスーツにしわが入らないように腰を曲げた。
駆け出しそうになるサスケの腕を取り、笑顔でなだめてディアンは素知らぬ顔で気取った執事の後を付いて行った。
簾のように軒先から落ちているツタをかき分けるて回廊に入った。
痛いくらい日の光はツタで遮断され思いのほか日陰は涼しかった。
広い客室に通され荷物を据えられると早速二人は宇宙服を脱ぎ棄て着替えに取り掛かった。
中庭に通じる扉のそばでは伝言を伝えにやってきた召使が二人の出てくるのを待ち構えている。
奥の部屋で着替えを済ませたサスケは脱いだ衣服をたたむ暇もなくドアを開ければ着替えを終えたディアンが応接間で待っている。応接間の扉の陰には直立し待っている人影が二つ、色ガラスに浮かび上がっている。
ディアンはそっとサスケの腕を取り引き寄せた。
「事前にブローレスの事を知る機会が無かったから言っておこう。ここでは女性は女性同士でしか会話をしてはいけない、たとえ王から話しかけられても黙っていて誰か別な女性からの質問にだけ答えるように。あとは僕が何とかしよう。いいね、決して男性と口を聞いてはいけないよ」
ディアンはサスケの肩にかかったスカーフをすっぽりとサスケの頭からかぶせた。胸を飾っていたブローチを外し目元だけ出し、スカーフの端を耳元で止めた。サスケが鏡で見ると布のお化けのようで中に誰が入って居ようと分からなくなっていた。
ブローレス国タベノウ・マシュージ王の挨拶に行く用意はできた。
サスケがうなずくと廊下で聞き耳を立てている二人の案内係のもとへ行った。
回廊を幾度も折れて屋内に入る通路を歩き、大扉の前まで来ると案内係はすっと脇へ退き二人を部屋に入るように促した。
二人が入ると別な召使がこちらへと視線だけで椅子まで導いてくれた。
二人が言葉も交わさずに静かに座って待っていると、奥の垂れ幕の裏の隠し扉から恰幅の良い男が現れた。
上着の上に薄布を幾へにも巻き後ろに流している。
「よくぞおいで下さった。今はツタの繁殖期でのう。切っても切っても一夜のうちに覆いつくしてしまう。キリングももっと良い季節を選んで新任式をすればよいものを。女子で年を取ると頑固なだけで物事の良しあしが分からなくなってしまう。そうは思いませぬか」
座る早々顔にしわの多い男性はしゃべりだした。声に行く分は抑揚はあっても顔の表情は一切何の感情も表してはいない。
「ご機嫌麗しく存じ上げます。マシュージ様の御尊顔はキリングの聖堂で拝顔しております。この度は私どもの船旅に厚い懇情を示して下さり嬉しく思います。長く狭い船内に居ますとブローレスのような緑豊かの土地が恋しく思います。サスケも私も心洗われる思いでございます。ほんに美しい緑の生命力の中に居ると落ち着きますな」
これまで一度もあった事の無い王に当たり障りのない挨拶をディアンはした。王はしょっぱなからキリング国の女王をこけにする話題から始めている。
そう言ったぶしつけな質問をすることによって相手の頭の回転や社交性を見ているらしい。
ディアンは友人の母親の話題をこの王とする気は無く通り一辺倒の社交辞令でこの場は収めた。
マシュージの話に乗ってこないディアンを苦々しく思ったのか、じろじろぶしつけな視線をマシュージは送ってきた。それに対抗して柔らかい微笑みをディアンは返した。
ちらりと横に控えているサスケをもマシュージはみたが、何も言わず、またあとで会おうとかの言葉も無く勝手に席を立ち来た時と同じに隠し扉の向こうへ消えて行った。
話しかけられるまで何も言うなというディアンの言葉を守っていたサスケは横柄な態度のマシュージに驚いていた。
これまで最低でも軽い挨拶は交わすのが当たり前だと思っていたがここでは違うらしい。
美しいテーブルに置かれた飲み物もお菓子にも手を付けずに二人は口を閉じてじっと待っていた。
そこへ案内係が現れ二人の荷物が置かれた部屋まで連れて行ったくれた。
ディアンは扉から一番離れた壁までサスケを呼び小声で語りかけた。
「領主は夫人を連れていなかった。また追い出したのだろう。次の食事のときのマナーだがスカーフは外さないように。我らはよそ者ゆえ、主の家族から話しかけられた時だけ言葉を発する許可が出る。特にここでの女性の地位は男性の半分だと思われているからね。主の機嫌を損ねてはならないのだよ。まったくもって、キリング国アルウデ女王はあの男のわがままを黙認するのだから。新任式まで二日、我々は見ざる言わざる聞かざるを通すんだよ。わかったね」
質問したそうなサスケが口を開きかけると、
それすらも首を振りディアンは黙らせると夕餉用の衣装を取りだしにかかった。




