憂い
サスケがその足で土を踏み、降り立った事のある惑星の三番目(正確には四番目だがサスケは宇宙船から出た事すら覚えていないので)セラ惑星は生命が誕生した星の中で、最も機械文明が花開いているひとつである。
主要国はキリング、ケイレブ、カースタイ、スタノベラ国。
四百年前まではセラ惑星の大地の片隅でも、敵国を殲滅し領土を広げることを念頭に戦が絶えなかった。
秀でた四つの国は小国を収め力が対等になった時代に、空からの使者スアレム人の有する宇宙船の技術が知れ渡ると人々の視点が一気に変わった。
隣国を手に入れるよりももっと価値のあるものが空の上にあるとわかったからだ。
各国は武器を作る技術の全てを注ぎスアレム人と同じ宇宙船を、それ以上の船を求めて熱情を船に向けた。
今日セラ惑星主要国は宇宙に出るために盟約を結び、互いに競い合い互角の武力を維持し続け、戦争をあからさまに仕掛ける事は無くなったが、細々しい諍いや衝突はいろんな場面であったが、宇宙へ進出の熱だけは変わらず持ち続け、それに合わせて軍事組織はより強固になっているのは確かだ。
キリング国の強固な軍隊の頭に若い男を乗せるようとしているわけだが、各国の力が拮抗している停滞期こそ息子を統治者として経験を積ませるには絶好の機会だと考えた女王アルウテの命を受けてジ-ヴァス王子の新任式となった。建前上は経済に強い女王アルウテが政治や産業を引き受け、軍隊の再編成謳ってはいるが、実際は年を取った女王が早めに仕事を受け継がせるため王子の将来に現れる災いの芽を先に摘み取っておこうという老婆心から出ている。
ディアンの船は新任式の行われるキリングから遠く離れたブローレスという小国に降りている。
キリング女王アルウテはブローレス国出身でタベノウ王とは従姉弟同士の間柄。式典の前日までザカリーを滞在させたいというタベノウ王の申し出を聞き入れたキリング女王に頼まれて、ディアンは王の緑宮殿の広場のど真ん中に着地しているのである。
池を真ん中に配した広大な庭のある土地を宮殿と呼べるか否かはどうでもよいことだが、
どこを見ても見事な緑の山並みと、背の高い建物は成長の早いツタに屋根や窓、樹木を占領され、城壁の外の道すらも折り重なったツタのトンネルの中を人や車が走る一風変わったスタイルの宮殿と街並みである。
キリングに降りると思っていたサスケは三百六十度緑色に囲まれたブローレスへの変更を喜んでいた。
船の中キリングのガイドで見た限りアン・オーサーの繁栄していた頃の景色によく似ていて、氷河期以前の過去に戻る気がして複雑な思いがあった。
分厚い扉の向こう側には、刈り込まれた植栽の上を這う緑のツタのある風景は、宮殿の中庭としてはあまりにも広すぎてどちらを向いても緑の樹木だらけで、小さな電波塔が無ければ船の着地場などに全く思えなかった。
くるりと見渡せる平地に楕円形の宇宙船がキノコのように着地し、ステップを踏んで土の上に足をおろし周囲の景色を見たときのサスケは声も出ないくらい感激していた。
足ものとの刈り取られた草は言うに及ばず、遠く周囲にある五階建ての建物を覆い尽くす緑の多さに野原や草原、密林の単語がサスケの頭の中に次々と現れている。
建物は緑の丘や、城壁になり出迎えの人が小さな点から人の形になるさまは、絵本の中の登場人物のようだ。
一方、同じセラ惑星の中でキリング国の首都グリーには、三日前からザカリーのエフリーとイーヴァーが到着している。
ユーザーの用意してくれた機能的な美を追求していない優雅な衣装に身を包み、何処へ行くにも派手な色彩で二人は人目を集めていた。
エフリーとイヴァーはザカリー人で形成するサーカス(ベルジュロ)の興行場所の下見や宿泊地の警備状況を見て回っていた。
移動手段の手配、興行時間の設定など各大臣との話し合いをするのがエフリーとイーヴァーの仕事である。
地上二百メートルの巨大な建物の一室に入ってやっとわずらわしい電気シグナルから二人は逃れていた。
グリーの街も建物も壁に床に天井に、至る所に生物の身体に流れる以上の電力が、通信、遠隔操作、電子部エイシステムとして走り回っている。いちいちそれらに反応するほど自分を見失っては居ないが、あと数カ月に迫ったザカリアートへの帰還を考えると無償に目の前の硬質ガラスをたたき割り薄い酸素を肺いっぱいに入れたくなる。
広い応接間の奥にある重厚な扉の向こう側の通路には、かしこまったホテルの従業員が足音を忍ばせてエレベーターまで歩いて行った。
従業員用のエレベーターはもうすでに二人乗っていた。
彼らが去って行き、誰も室内の話に耳を傾けるものが居なくなったのを確認してエフリーは口を開いた。
「まったく四十名もいない団員なのに、六万人も入る会場を用意するとは。あの大臣は何を考えているのか。観客は小人のようにしか見えぬぞ。小人のようなザカリーを見ても、面白くもなんともないとは思わぬのか」
エフリーはどんどん加熱していくザカリー信者の事を憂いていた。いつかどこかで説明できないぼろが出て窮地に追いつめられるのではないかと心配しているのだ。
エフリーの憂いをよそに訪問するたびに、新しい設備を披露してくれるグリーの大臣にイーヴァーは感心し驚いても居た。他星人に新しい技術を見せるとは何と太っ腹な事か。
「そのために巨大なディスプレイがあるのではないか。あれは目の動きから汗粒まで美しく映すらしい」
イーヴァーはエフリーの心配事など鼻にもかけない。
どんなにセラ惑星の住民がベルジュロの団員達に熱い声援を送り色目を使っても、彼らのショーは乱されないとの自信がイーヴァーにはあった。
生まれた世代間で考えも変わるとエフリーは思う。
「まったく歌やお芝居をしているのではないぞ」
湧き上がってくる昂揚感を押さえつけるのは他安いが、どんな小さな隙間なのかエフリーの心の中に小さな不安が存在し顔を出してくるようになった。
「ディアンがブローレスに追いやられた。我らもとうとう政治の小道具になり下がったようだ」
とぼそっと言った。
エフリーが最後に生まれた連中を過大評価しているのか、過小評価しているのかイーヴァーには分からない、彼は有能だから代表になったのではなかったか。
「心配しているのはディアンの連れの事だろう?」
イーヴァーはディアンを通してサスケを見ているエフリーが気になった。ディアンの変化がサスケのせいだと言わんばかりだ。
「そうに決まっているだろう。我らの助け人は高地に咲く花のようだ。彼が手荒に扱わねば良いが」
エフリーにはディアンがただサスケを都合のよい隠れ蓑として扱っているようでならなかった。
ザカリーにもし他の惑星と同じに、社会制度があれば一夫一婦制でも構わない、一夫多妻制であろうとなんであろうと生殖能力の無いザカリーに一対になって子供を育てるという作業は無い。
ザカリーが宇宙へ出るためには、生物には圧倒的多数の分かりやすい男女の区別をつけたに過ぎなかった。
順是足る秩序のある社会制度の中で生まれたように見せかけてはいるが、セラ惑星で言えば言語野の無い野生生物と何らザカリーは変わりなかった。
野に生きて野で死ぬ、死んだ遺骸を見ても悲しみなどない。ザカリーのルールは互いの力を見せつけ合い力尽きるまで生きる事を楽しむだけなのだ。
「あれは、ちょっと変わって面白いかも知れぬ。隠れ蓑に使う……なるほど、妻帯者になればすり寄ってくる数が減るという事か」
ウッドハの式典でもあまりその効果は無かったようイーヴァーには思えた。鑑賞する花に種類の違う花をくっつけても花に変わりはない。
「隠れ蓑に何ぞ、なってはいない」エフリーは認めた。
「そうだな、さしずめ彼は余興を求めているのかもしれん」
エフリーは首を振って外を眺めた。
心配なのはユーザーの所で檻に入った獣を見て、恐ろしさで気を失ったサスケである。わずかな時間を過ごしただけなのにおどおどと頼ってくる姿が忘れられない。
ガラスを割らないように腕を後ろ手に組み、大小様々な建物と動きを止めない電気自動車の波を見て鼻にしわを寄せる。小賢しい動きだ。
背の高い建物を半分に折りどのくらいの距離投げられるだろうか。尖った電波塔を引っこ抜き雷雲の中に突っ込み大量の電気を体内に溜めて放電させられるか。白い雲が二人の見ている前でかき消えるとちらりと互いの顔を見つめた。
同じ空想に浸っていたらしい。




