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Inheritance  作者: KOUHEI
慣習の星
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もの思う

白で統一されたラウンジと違ってコックピットは薄い灰色で覆われている。

美しさを操縦席にも求めるユーザーはボタンひとつにも機能性を備えた美しいデザインを追及した。

その結果が運航状況や星図を映しだすスクリーンの枠に優雅な曲線と繁栄を象徴する果実の幹とを描かせている。さながらコックピットは夜明け前の緑豊かな豊饒の森の中といった風情である。

緑の森に似合うのは美しい妖精と相場は決まっている。妖精は身体にぴったりとした白い宇宙服に、まとめていないはちみつ色髪の毛を空中に泳がせて遊ばせている。


ただその妖精のご機嫌は麗しくなく、お気に入りの操縦席に座ってはいるものの、仏頂面で音声入力のボタンを押したっきり天井を見上げている。


感情のこもらない声が淡々と響いている。

「コフラでのウッドハの立場は司祭の祝福を受け揺ぎ無いものとなりつつある。今度の議会で承認されれば定期船寄港地となる確率は大きいが、運び出す荷が天候不良のため確保できていない。ゆえに各星星の代表たちは頭を悩ませることになると思われる。しかしコフラ惑星が担う役割は大きい。前に言ったがいまだにあなた方が作り出す船の燃料を作りだすことが出来ない彼らは代変え品としてのコフラ原産作物から取れる油分。この油をどの星も狙っているのは確かである。

気がかりな動き其の一。マイプの息のかかった人間がコフラ星を視察している。先々このコフラに星星の拠点にとなる工場群がみられるようになるには遠い話ではない。

其の二。わずかに備蓄した燃料で定期交船外に交渉人と思われる人材をゲーグ、ウルスル、ロエボル、ホーバー、コロニャに送り込んでいる。送りこんでいるのはマイプだけではないニスカラ、セラ、サローニ、スヴィンダ各星の息のかかった扇動者もしくは諜報員達は各国の事情通になるべくして動き回っている。彼らの活動は多岐にわたり活発だ。右手は敵につなぎ左手は敵の敵に。隠した奥の手にはまた別な者と約束をひっきりなしに交わしている」

宇宙船の出発と同時に着替えをすませたディアンは

個室にこもったサスケを見ても何も注意せずにコクピットに入った。


操縦席で体を固定させる安全ベルトも装着せずに、止めた動きのまま、外壁の向こう側に、マイプや虎視眈々と宇宙の全てを手に入れようと画策している生き物たちの螺旋のように奥の深いつながりに美しい目を向けていた。

「終了、ディアン・シルト」

締めくくりの言葉を言ってもまだディアンの頭はウッドハの諜報記録にあった。


既存の組織を壊して自分に都合のよい組織を作り上げていくマイプのような存在をスアレム人は恐れている。狂信的だとマイプの事を言うのは勝手だが、何が正しいか何が狂っているのかなどという確かな指標は無いとディアンは思っている。

たかが自分たちの決めたろくでもないルールで縛られているだけなのだから、破ろうと守ろうとどっちでも良いことなのだ。

行く先々の星で口先三寸のさや当てばかりを延々繰り返していると、宇宙船でひとりになったときに去来するのは虚しさだけである。

彼らがザカリアートを見つけなければ。誰も宇宙船を作らなければ、恐ろしい隣人を知ることは無かったと今更ながらに思う。


報告を終えもう一度自分の言った事をディアンは反芻した。もうこれ以上伝えるべき事実は無い。

ディアンは長い指を持て余して操縦席の機器の上をうろつかせて、

ふっくらした唇を閉じ青いスイッチを押した。飛ばされた電波は途中の中継基地で増幅されてリレー形式でスアレム人に送られているはず。


ほとんど同じ事をエフリーが数日前には報告しているはずだ、日をおかず似たような言葉を繰り返しを聞いてスアレム人は不快に思わないのだろうかと内蔵された基盤の細い金属に走る電力を見ていた。

無駄にこんなことで燃料使うのはもったいない。消費される燃料は微々たるものだが同じ内容に使う必要性は無いと思っている。


組んでいた長い脚を床につけて椅子を回し、操縦室の扉の向こう側を見た。逆さになったサスケの髪の毛が揺れているのが見えた。

「やっと自己複製を活発にする作業に取り掛かったか」


サスケは船に乗って一ヶ月半が経つ。単調な動きなどやる理由が分からないと言った顔をしてものの数分するとやめていたサスケが、自発的に船内での運動に力を入れ始めたようだ。


サスケの種族は慎み深い生き物である事は間違いない。正確にいえばサスケを組み立てている遺伝子が彼女の脳にディアンは危険だとシグナルを送っているに違いなかった。

地中深く住んでいて外界との接触は無かったにもかかわらず、数十万年前に先祖が受けた苦難災難をサスケの遺伝子の中の一つが覚えているのは確かである。

それを備わった本能と呼べなくもないが、催眠効果の抑制が消え通常以上の何かを脳からわずかだが引き出させているのではないか。


「一時しのぎの知恵か本能か。全く個人の意志を持たぬ生き物と化している。生き物とも呼べぬか。スアレム人はサスケにどんな希望を抱いているのやら」


非力で言われた事を考える能力すらない。巣穴からそっと顔を出し怯えながらも、傷つく事もわからずむやみに手を伸ばし続ける。

傷つくのも一つの経験だと思われるが事前に仕入れた予備知識が役に立っていないのは集団催眠のせいなのだろうかと、珍しい行動を始めたサスケの事をディアンはそう分析していた。




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