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Inheritance  作者: KOUHEI
慣習の星
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後悔

翌日、次の惑星への期待感も湧きあがらず気落ちしたままのサスケは

送迎用の船に乗り宇宙船のある飛行場へと運ばれていった。


気落ちしている理由は気を失っていた事でヴィテッカの街の議会に提出するレポートを書けなかったと悔やんでいるのだ。


砂利と石灰岩で固めたヴィテッカの街並みと対照的に、コフラの建材は全て木材で作られている。高層の建物ですら温もりのある固い木で組み合わせ立てられていた事にサスケは驚いていた。


サルッツアでは土と石の壁に、申し訳程度の屋根には樹皮の皮が貼ってあった。幻想的に光る草木は珍しかったが毎日が夜の帳の中の生活のようでサスケは魅力を感じなかった。


しかしここコフラは違う。

惑星アン・オーサーが氷河期に入る前の美しい景観、それ以上の美しさ、豊かさをコフラは持っていた。

おそらく文明で言えば千年以上遅れているのではないかと思われたがそんなことはない。焼きタイルのち密な模様を描く技量、組み木の素晴らしさ。彼らの社会制度も秩序も整っていたように思える。


「もっと書く事がいっぱいあったはずなのに…」

コフラ惑星での人々の誕生と終焉の儀式も知りたいとの思いもサスケにはある。



地下深くに潜るのに最初に心配され必要とされたものは水である。最初に地下に住むと決めた人々は水脈があるという安心感で潜った。地下にあった大きな水脈の跡地を利用した移転は大成功を収めたように見えたが、大勢の人間が利用すればその水はすぐに枯渇することは目に見えていた。


ヴィテッカで多いのは老衰よりも事故死が圧倒的に多い。

水を求めて幾重にも遮断壁を作り掘り進めるたびに水圧に負けて、先頭を掘っていた掘削者は水死している。


地下都市ヴィテッカの人々の死に、土は山とあるのに土葬は無い。

事故死した遺体は全て溶岩の中に投げ込まれる。街で病に死んだ人々もそうだ。


自然の摂理として生き物の死骸は沢山の虫や雑菌で解体され、自然界では活用されるが、地下世界では自然の節理は必要とされない。


なぜなら雑菌で出来ている人の身体は、土に埋めれば腐敗ガス、硫化水素、メルカプタンを吐きだし浄化装置をフル回転させなくてはならなくなる。焼却も大事な電力を無駄に消費するのである。

わざわざ遺体を焼却処理をしなくとも溶岩の中に投げ込めば骨まで溶かしてくれる。

雑菌を内包し生まれて雑菌を排除することによって生きながらえてきたのが街の生活である。


しかも大勢の隣人の死を、英雄として祭り上げることによって、死への恐怖を甘美で崇高な事として思い込ませることにもヴィテッカは成功していた。


日に日にヴィテッカの人々は溶岩の中で焼かれる事が隣人のため、すべて街の役に立つことだ信じて疑わなかったのである。


今は溶岩に飲み込まれ焼き尽くされる恐れは無くなったけれど、焼けて消失する自分の身体を思うと、燃える熱が町のために役に立つのだと、街の住人の心の中には溶岩への思いがいまだに渦巻いている。


それが良かったのか悪い事なのかはサスケには分からないが生命の宿る木、草花の生い茂る大地のある事をヴィテッカの街の人々が知れば死に対する考えが変わるのではないか。少なくとも大量の水、海を見れば頭の中にある霧のようなものが取り除かれるのではと思っている。


ゴッズの挨拶も二人の召使の言葉もサスケには聞こえていなかった。

格納庫から出された宇宙船に乗り込むと離宮と比べる事の出来ないくらい小さな一室に籠もる。


慣れた椅子に座りヘッドセットを付けて宇宙旅行についてのガイドを初めから改めて見ている。


今は不平不満を言っている場合ではない。

「筋力トレーニング、それと…心拍数を上げるためにもっと走らなければ」

ヴィテッカを離れて何を目的としていたのか最初からやり直すつもりで複雑な画面を見た。


サスケの目の前にだけ沢山の点の付いた項目が並んでいる。

すべてのファイルを開いてみたけれど気に入ったのは美しい風景を説明したファイルだけを繰り返し見た。

船内で顔を合わせるたびにディアンから注意を受けていたがほぼ無視した。


改めて、宇宙船に乗っている間に不甲斐ない自分の体を鍛えなければとの思いが募る。

「データが欲しい。成分分析する機材が欲しい」

握った直径三センチの筒状の棒を通してサスケの筋力や脂質のレベルが赤い線で表示された。

生物が(サスケが)重力の無い状態に置かれると運動能力が著しく低下するとの注意事項を述べるガイド音声を聞きサスケは自分の運動能力の低さにに目を閉じた。


「助け合うことは善良な市民の務め。本当に、私の見たままを書く以外無いのね」と寂しくつぶやく。

ひとりで見た施設は一つとしてない、住民との会話も無い。ただしゃちほこばって澄まし顔で街中を通り過ぎただけである。

しかも気を失っていた長い時間、何かサスケの周りで恐ろしい出来事が起きていた……ようである。


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